24話 ワザトとオカゲ
ワザトはあの無機質な部屋でまた餌を出される。しかしどことなく真っ白で眩しいほどの部屋は薄暗い。
不思議がりながらも、餌を見やるとキューブ型の簡素なものが無性に美味そうに見えて――手を伸ばした。
それは一瞬にして、見慣れた餌でなくちぎれた腕に変わった。
嫌悪感。吐き気。
だが無性に食べたい、とても腹が減っていて仕方なくて苦しい。
かぶりついて貪った。オカゲ、これはオカゲだ。肉の味で納得すると、嫌悪は消えた。
「チョコレートなんてのに浮気しないでよ」
オカゲが言う。
「ワタシがいるでしょ。だからワタシを食べたんでしょ?」
どういう意味だ?
分からずに口を肉片から外そうとするが、後ろから指が伸びて顎を掴まれる。
「ワタシを全部受け入れてよ」
黒い液体がダラダラと口内に注がれて、無抵抗にオカゲを受け入れる。泥のような重たいものが腹にたまる。
劇薬よりもさらに強い毒が体に周り、意識が朦朧とするがこれがオカゲなら別にいいと思う。
「ワタシがいる限りチョコレートもショートケーキも、お菓子も無限に手にはいるよ」
「だから浮気しないでよ」
「ワタシだけを食べてよ」
「オカゲ。怖かったのか? チョコレートばかり考えたのが」
冷静な自分が背後にいるオカゲらしき人物へ問いかける。
「ばかばかしいでしょ。怖かったんだ」
「俺はそこまでバカじゃない」
「バカじゃない、浮かれて」
抱きしめているのか、オカゲはくすぐったそうに笑う。焦燥。あれは自分自身なのか?
ワザトはこっちにいるはずだ。アレは確かに自分だが――
「おれに、はオカゲしか、いないんだ!」
餓鬼の、使われるだけの自分はそう叫ぶしかなかった。
「ごめんね。いじわるしちゃったね。ワザトは一人しかいないよ、でもあれもワザトなんだよ」
視界が移り変わり、自分の腕の中に少女はいた。
「泣かないで。怖がらせちゃったね」
泣いているのだろうか? わからない。
「でもワタシ以外移ろわないで」
オカゲも泣き笑いのような不格好な表情を浮かべた。そうか、今のは彼女の気持ちなのか、と自然と納得した。
「移ろわないよ。俺は……」
情けなく呟くと、目が覚めた。――餓鬼は夢を見ない。だが夢を見た。
牢屋の天井をしばらく眺めて彼はお互い幼いな、とだけ自嘲したくなる。だがプログラム上それはできない。
でもオカゲはああ言ってくれた。それは嬉しかった、だから。
(餌をがんばって食べよう)
論点がズレた決意をしたのだった。




