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21話 覆水盆に返らず

 感染者は最初、なんら人と変わりない。風邪の症状と同じような咳や微熱を発症する。

 それを風邪と誤認して、2週間ほどするとガラリと変わる。

 狂犬病のように神経が過敏になり、やがて自我を失う。狂暴性を増して、脳を破壊しない限りは動き続ける。



 研究所ではいそいそとワクチンの手がかりを探していた。



「この前の、変異した……いえ、送り込まれてきたという感染者に関する記憶が曖昧になってきている」


 女性は細工を施された感染者に関しての研究を進めたかった。採取したサンプルはいつの間にか消え、自身が持ち得ている記憶もなくなりつつある。

 それこそ超自然的な作用のように。


 いつ、この病は出現した? いつから、フィクションのような生物が現れるようになった?

 その世界は何だ?



「私の分野ではないわ」


 ため息をつくと、背後で銃口を突きつけられる――金属音がした。

「誰?!」



 振り返るとあの、青年がいた。



「貴方は……あの時の、実在したのね」


 自宅にいきなりけしかけてくるとは思わなかったが、彼は存在した。女性は嬉し半分、席を立った。


「……座標を間違えたのか」

 彼は静かに呟いた。座標。


「どういう意味?」

「アンタは標的じゃない。失礼した」


 そそくさと彼は人間離れした動作で窓から飛び出していった。「な、なんだったの」




 咳が出た。軽い、咳だった。

 女性はハッと自然な動作に絶望する。風邪――なのではないだろう。

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