19話 ハイフン
ワザトは成れの果てと餓鬼の多い、日本でも数少ない巨大施設で苦戦を強いられていた。
仕事を遂行できなかった成れの果てと、密集した感染者の処理。
手持ちの弱火のライフルではキリがない。既に頭が、身体が悲鳴を上げ――傷口から燃えるような感覚が広がっている。
使われる餓鬼は成れの果てになるまでに、人間性を消費する。根は感染者たちと何らかわりないのだから。
思考を止め、攻撃的な化け物になる。
「くそっ……自爆技……しても、数が多すぎる」
自爆技をかました所でまだバリケードの奥には感染者の軍勢が待ち構えている。
熱を持ちすぎた頭が人間としての機能を放棄し始めている。
早くなんとかしなければならない。だが、まとまらない。
「仕方ないじゃん。ワタシに食べられちゃいなよ」
「……それも良いかもしれない。怖くないから」
「怖いの?」
「はは、怖いさ。自我が死ぬのが」
幻惑に返事を返す。少女――オカゲの助けが欲しかった。
安らかに眠れるならオカゲに食われて成れの果てとして次の餓鬼に処理されてもいい。
「ばーか。ワタシが処理されるわけないじゃん! ……そうだなあ、今、代わったら危険だわ」
本当のオカゲが話してくれた。まぶたを閉じ、オカゲを探す。
少女が笑っている。いつもの、変わらない笑み。
「ワタシの血を飲みなよ」
「いいのか? 禁忌じゃないか、それ」
「ワザトだからいいの!」
駄々をこねる子供のような言い草に呆れ笑いがこぼれる。オカゲは指を自らの歯牙で噛み切ると、指をよこしてきた。
血を前に本来の餓鬼――感染者としての、暴力性が内側で爆発する。
巨大な放射器を召喚し、一網打尽にすべてを焼く。
反比例して熱が冷めていくのを感じながら、成れの果てが火だるまになりのたうち周り、感染者たちを潰しながら死んでいく。
「あの世があるなら穏やかに暮らせよ」
同胞だったもの、に一言かけてワザトは次なる武器を投下した。餓鬼と封印された悪神の力に比例して武器の種類や威力が変わる。
巨大施設を木っ端みじんにし、クレーターを作れるほどの爆弾を召喚すると投下した。
光が、熱が身を包み込む。
仕事が終わったのだとだけ、彼は安堵した。
「ワザト。あの力はなんです」
人外が問いかける。スカーヴァティー(安楽国)で、転送された彼は怪我やらを初期化され身を起こした。
「……火事場の馬鹿力」
無表情な、硬い口調。
「はあ、まあ、あの餓鬼をいくつも消費しても遂行が不可能と言われた仕事をこなしてくれたのは感謝します」
人外は恐ろしい化け物を前に、わざとらしい笑顔を作ってみせたが……あちらはボンヤリと常日頃の機械のような様子でそれを見ている。戦闘中も黙々と暗殺ロボットの如く餓鬼を処理していくのを、人外らは居心地悪く監視していた。
人間とはもっと喜怒哀楽があるはずじゃないのか。人間は人間の形をしたものに強く感情が揺れるのではないのか。
(気味の悪い異物の成れの果てめが)
人外は内心、毒づいて彼を檻に連れて行った。




