2話 仕事
「うげっ、今度はここか」
男は我に返り、周りを見渡した。辺りは川底だった。どうも死体遺棄は川だったらしい。
ザバリと身を起こすと、清流が広がりどこかも分からない渓谷があった。川魚が泳ぎ、渓流釣りが楽しめそうな場所だ。
しかし男には関係ない。釣りなどしたこと無いし、まず川魚を生で食うしかなかった。
「餓鬼か」
川のヌシに話しかけられて、顔を上げた。
「死体で川を穢されたとおもえばやはり餓鬼がきよった。最近のもんは、ついには敬いも忘れたか」
「さあね。俺は好きでここに来てる訳じゃない」
「餓鬼が、犯人はあちらにいったぞ。今なら突き落として食えばいい。山のヌシがソレを許すだろう」
川の横――山林へと続く、暗がり。それを指さし、翁はシッシとどこかへ行けとジェスチャーした。
「嫌な川だなぁ〜、全く」
「餓鬼風情がよ」
「はーあ、おっかない」
毒づきながら、人ではない動きでサッサと岩と砂利、そうして斜面を登る。端から見たら誰がどう見ても人外だと思うだろう。
山のぼりとは到底無縁な姿をした男性を、数人の登山者がギョッとし、確信する。そうして気にしないふりをして退散していった。
「笑いものだね」
耳元で少女の声がした。「山のヌシに食われるよりはマシだろうが」
「優しいんだね」
「優しい?」
「うわ! お。驚いた、どなた様ですか」
男性はポケットから携帯を取り出し、鳴らしてみた。そうすると斜め横から重装備の登山者が顔を出した。
「あ、あれ? それ、落としちゃいました?」
「……ええ、先程貴方が落としたのを見ました。今、渡しますね」
人当たりの良さそうな声色で近づこうとしたが、登山者はびしょ濡れの男にさらに怖がる。
「なんで……まさか、見たのか? 死体は? 死体をどうした?」
「さあ、ワタシは知りませんよ。ただ、死体遺棄は法に触れますし、山のモノを刺激しますから、良くないですよ」
「や、山のモノ? はあ?」
素っ頓狂に驚き、加害した者は相手をなじる態度に切り替えた。
「あんた、頭がおかしいんじゃないか??」
「おかしいに決まってるじゃないですか。ワタシは人じゃないんですもの、人の考えなんて分かりませんよ。ねえ。みんな」
暗闇を見渡すと、殺人者は疑問符を浮かべつつも周りを見渡し、悲鳴を上げた。
ズラリ、と老若男女が立っていた。登山客の姿、作業着、学生、私服、中には人とは到底思えない姿をしている者も混じり、こちらをじいっと見つめている。
「でも、あげませんよ。これはワタシのだから、ね」
男性の姿が歪み、淀みに沈む少女があらわになる。無害だと油断した矢先、大口を開いて飛びかかってきた――
「うめー、なんだっけこれ」
男は包みから唐揚げを手づかみでほうばり、近くにあった水筒の麦茶をがぶのみしている。
「お行儀悪いな〜〜、箸とか使わないのお?」
「箸の使い方はご生憎、今の頭にはありません」




