欠席のクラスメイト
「失礼します」
校長室から出てきた、6年4組の担任教師、松下唯(25)は呆然と教室へと向かう廊下を歩きだした。
朝一番に校長に声を掛けられ、何事かと身構えて校長室に向かった唯だったが、そこで聞かされた事実は想像をはるかに超えていた。
それは唯の担任するクラスの生徒の津島翔君が、昨夜から行方不明になっているという事実だった。行方不明の理由は、家出か誘拐かまだ分かっていないらしい。
現時点では警察による発表は行われないため、校長と担任以外には行方不明の事実を口外しないよう、そして本日11時から校長室で行われる警察の事情聴取に校長と一緒に出席するよう要請された。
唯は階段を上り、担任する6年4組の教室の前で立ち止まった。ドアの外からでも中で子供達が騒いでいる声が聞こえる。
唯はドアを開けた。唯の姿を見ても、生徒たちは着席もせず、まだ話し続けている。
「翔君、塾を休んで家出したらしいよ」
「え~ウソでしょ?」
「翔君のお母さんから夜遅く電話がかかってきて、どこにいるか知らないかって聞かれたよ」
「私もお母さんに同じこと聞かれた」
皆、席を立って好奇心まるだしの表情で騒いでいる。
(はぁ……、こういう噂はすぐ広まるから。子供たちに聞かれたら欠席の連絡があったことだけ伝えよう)
「はい、出席を取るから、皆座って」
唯はパンパンと手を叩き、子供たちに着席を促した。子供たちは話をやめて、しぶしぶ各々の席に着いた。
「大野さん、川島君、栗田さん……」
女子生徒の栗田美空も欠席していた。
(栗田さん。今日も休みなのか)
昨日母親から娘が風邪をひいているので、学校を休ませると連絡があった。詳しく様子を聞こうとすると、出かける用事があると言われ、一方的に電話を切られた。病院に行くならそんな言い方はしないだろう。なにかひっかかる言い方だった。
(後から母親の携帯に電話してみよう)
唯が考え込んでいると、また生徒達が騒ぎ始めた。
「津島と栗田って仲いいよな。二人で駆け落ちしたんじゃないの?」
「そういえば、一昨日二人で靴箱のところで話し込んでるの見たよ」
「私も見た~」
皆大騒ぎで手を付けられない状態である。
「静かにしなさい!いい加減な事を言うもんじゃありません」
唯は腹から声を出して怒鳴った。
「時田君と渡辺さん、ホームルームの後に職員室に来なさい」
率先して騒いでいた二人の生徒を名指しする。教室は水を打ったように静まり返り、ふたりの生徒は青い顔をして固まった。
唯は校長先生に事情を話し、二人の生徒から校長室で別々に話を聞くことにした。
校長先生からも諭されて、二人の生徒はしゅんと肩を落として教室に戻っていった。だが生徒たちを校長室に呼んだ本当の目的は、津島翔君と栗田美空さんの二人の様子を詳しく聞くためだったのである。
「二人の話を聞いたところ、特に今回の行方不明とは関係なさそうですね」
校長先生がほっとした様子で唯に向かって微笑みかけた。
「11時の事情聴取の時には、警察にこのことを話す必要はないでしょう」
唯はうつむいた。どうしても心が落ち着かない。どんな小さなことでも伝えた方がいいのではないか。
「あの、ちょっと気になることがあるのですが、今お時間いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
不思議そうな顔の校長に向かって唯は話しはじめた。
今日の美空の欠席について親から連絡がなかったこと。先程気になって母親の携帯電話にかけてみたが、電源を切っている状態であること。美空が何日も同じ服で登校してくること。美空の両親が新興宗教の熱心な信者で、子供を放置してその活動にのめりこんでいる可能性があることを。
「つながったな」
楓が大知を見上げて言った。
「この栗田美空さんの親が入信しているのが例の……」
「伎縁だ」
大知が楓の言葉を引き継いで答えた。
「担任の先生の機転のおかげで、つながりに気付くことができた」
「だとすると、この美空さんの欠席も翔君の失踪に関係がありそうだな」
楓はこめかみをリズミカルに指で叩きながら続けた。
「ああ、我々もそう考えている。だが、翔君、美空さんの件、どちらも確たる証拠がないため捜査本部も動けずにいたんだ。しかし今回、美空さんと思われる人物のおかげで事件が大きく動きそうなんだ。これはついさっき入ったばかりの最新の情報だ。見てくれ」
大知はタブレットを指さした。




