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行方不明

六月三日(木)21時20分、文部科学省大臣の津島明氏から息子がまだ帰宅していないと警察に通報があった。息子の名は翔(12)。都内の公立小学校に通う小学6年生だ。


「翔、ちょっと入るわね」

軽くノックをするとドアの向こうからくぐもった息子の声が聞こえる。何を言っているかわからない。まあ返事があったので開けていいだろう。ななみ(38)は息子の部屋のドアを開けた。


「あら?寝てたの?」

翔はベッドでうつ伏せで寝ていた。

「なに?もう塾の時間?」

眠そうな顔で目をこすりながら見上げてくる。

「そうよ。今16時半。ホットケーキ焼いたから食べていきなさい」

「わかった」

翔はけだるそうにベッドに起き上った。ななみはふと違和感を感じた。ホットケーキは翔の大好物で、作るといつも嬉しそうな笑みを浮かべてたのに……。


リビングに戻りホットケーキを皿に盛りつけていると翔が二階から降りてきた。自分で冷蔵庫を開けて牛乳のパックを取り出し、コップに入れて立ったまま飲んでいる。

ななみがホットケーキの皿をテーブルの上に置くと、やっと座ってもくもくと食べ始めた。


「17時10分には出かけるわよ」

「わかった」

翔は食べ終わると冷蔵庫の中からペットボトルの麦茶を一本取り出した。そして戸棚の中をごそごそと探し、中からクッキーの箱を一つ探し出した。


「これ、もらっていい?」

「いいけど。お腹すいてるならホットケーキもう一枚焼くわよ」

「いや、いい。塾の途中でお腹がすいた時のためだから」


翔はクッキーと麦茶を手に二階へと階段を駆け上っていく。

(ホットケーキじゃなくて、今度からうどんやおにぎりの方がいいかしら?)

ななみは呑気にそんなことを考えていた。


「じゃあ、19時半にここでね」

塾の前で車を止めると翔はうなずいて降りて行った。時計を見ると17時20分だった。

自宅に戻り、夕食の用意を済ませて一息ついていると、あっという間に塾の迎えの時間になる。

「もう19時過ぎてる!急がなきゃ」


行きと違ってこの時間は渋滞が発生して、車が進まないのだ。19時半に塾の前に着いたが、翔の姿は見当たらず、駐車場は迎えの保護者の車で既に一杯である。仕方なく、近くのコインパーキングに停めて塾の前に戻るが、その時には19時40分を過ぎていた。

塾の中ではまだ子供たちが数人集まり話し込んでいるようだ。

5分程待ったが翔はまだ出てこない。中まで入ったら翔に嫌がられるだろうなと思ったが、ななみはそっと塾の入り口のドアを開けた。



「で、翔君はそこにいなかったというわけか」

黙って大知の説明を聞いていた楓が口を開いた。


「ああ、彼はその日塾を欠席していたんだ。母親が塾正面まで送迎したにもかかわらず、だ」

大知は頷き後に続けた。

「すぐ母親が息子の携帯電話に連絡するもつながらず、友人宅に問い合わせても分からないということで、夫と相談して通報に至ったわけだ」


「大臣の息子か……。誘拐の可能性もあるな」

肘をついて説明を聞いていた楓が上目づかいで大知を見た。


「そうなんだ。通報の時点では、所轄の横浜南署は家出と誘拐の両方の視点から捜査する方針だったんだ。でも父親の津島氏からある供述を得たことにより誘拐説に大きく傾いたんだ」


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