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異動

数日後、明日香は神奈川県警本部長に呼び出されて県警本部内にいた。

(何事だろう?)

やはりあの銃を奪われた事件の事だろうか? 神奈川県警のトップに呼び出されるなど他に心当たりはない。明日香は気が重かった。


本部長室のドアをノックする。

「失礼します。横浜東署捜査一課の工藤明日香です」

「入りたまえ」

「はい」

中に入ると厳しい表情の本部長が正面の席に座っていた。

「わざわざ来てもらってすまんね」

「いえ、どのようなご用件でしょうか?」


明日香がかしこまって聞くと、本部長は表情を崩した。

「実はこれが私の元に届いてね」

本部長は机の引き出しから一通の手紙を出して明日香の元に近づいた。

「そこへかけなさい」

応接のソファーへ座るよう勧められ、その手紙を手渡された。表には神奈川県警本部長様とボールペンで書いてある。裏を返すと差出人の住所はないが、懐かしい名前が記されていた。

「美空ちゃん……」

「これは私へ来た手紙なんだが、君に見せた方が喜ぶと思ってね。読んでみなさい」

明日香は震える手で手紙を開いた。


そこには自分を救ってくれた神奈川県警の警察官への感謝の気持ち、そして今幸せに暮らせていることの感謝の気持ちが綴られていた。

そして最後はこう締めくくられていた。

警察署での取り調べの時、女性の警察官の人がずっとそばにいてくれました。不安で震える手をそっと握りしめてくれた。その時初めて信じられる気がしました。心から頼ってもいい大人の人がいるんだと。

あの人に私が今幸せに暮らしていることを伝えてください。そしてありがとうって伝えてください。


明日香の目から大粒の涙が零れ落ちた。

「この手紙を見せてくださってありがとうございます。不祥事を起こし自信を無くしかけたこともありますが、これからも頑張っていこうと思います」

「それは銃を奪われたことを言っているのかね?」

「はい」

「あれは大変なことになるところだった」

本部長は厳しい表情で言った。

「君の警察官人生の中でもあれは大きなマイナスになるだろう」

「はい」

明日香は首をうなだれた。


だがね……本部長は言葉を続けた。

「私は三十年以上警察官として働いているがこんなうれしい手紙をもらったことがない。君には警察官としての正義、人に対するやさしさが備わっているんだと思う。そしてそれは君の強いアドバンテージだ」

そんなこと初めて言われた……。明日香はまた目の奥が熱くなった。

そこで君への提案なんだが、と本部長は続けた。


「実は来年春から県警本部の安全対策部の中に未成年捜査対策チームを発足する予定なんだ。今回の事件のように、未成年に寄り添った保護、聴取ができるようにね。それで優秀な人物を集めているんだが、君さえよかったらチームに加わってもらえないだろうか? 準備もあるのでこの秋からの異動になるけど」

「本当ですか! ありがたくお受けします」

明日香はびっくりした。勤務場所は変わるが自分の希望どおりの部署だ。


「前向きに検討してもらえると思っていいのかな」

本部長はにこやかな顔で言った。

「だが勤務場所もここに変わることになる。詳しくは後日君の上司に条件等を伝えておくから、今月中に正式な返答をくれたまえ」

「はい」 

「今日はこれで帰っていいよ。もしよかったら本部内を案内しようか?」

「そんな、緊張しますので。皆さんの邪魔にならないようそっと見て帰ります」


私、秋からここに勤務するんだ……。まだ正式に決まったわけではないが、明日香の心は決まっていた。早速楓さんにも報告しなくっちゃ、明日香の足取りは軽かった。



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