二人きりのティータイム
しばらくして楓が紅茶を運んでくる。
「あれ、大知は?」
「なんかいそいそと帰っていきました。楓さんによろしく伝えてって」
明日香は紅茶の入ったカップを受け取りながら言った。
「あの、大知さんまた戻ってくるんでしょうか? 『また後で』って言ってましたけど」
楓は難しい顔をして考え込んでいる。明日香は手の内のカップの中の紅茶の色が一杯目と違うことに気づいた。
「この紅茶綺麗な赤色ですね」
一杯目の紅茶より今回の紅茶はぐっと濃い赤色だ。
「ああ、一杯目はダージリンでこれはルフナなんだ。エッグタルトにはこっちの方が合うと思って。もしよかったらミルク入れてみて」
そう言って楓は自分のカップに多めにミルクを注いだ。明日香も楓をまねてたっぷりと注ぐ。
「美味しい。コクがある感じですね」
一口飲んで目を見張る。一杯目の紅茶と全く違う。明日香は目の前のエッグタルトを一つ頬張り紅茶のカップを口に運んだ。
「うん、甘い香りでお菓子によく合います。さっきのと味も違いますね」
「そう、さっきのは夏摘みのダージリンなんだ。香りがよくて頭がすっきりする」
「ええ、あれも美味しかったです」
明日香は感心した。同じ紅茶でも、色や香り、味が全く違う。紅茶って季節によって違ったり、食べるものに合わせて選んだりとても面白い。
ここに来るたびに楓と庭に癒される。そして今日はまた新しい楽しみを見つけた。
明日香は一人にやにやしていたが、ふと思い出して顔を上げた。
「そういえば私、楓さんに聞きたいことがあったんです」
「何?」
楓は明日香に向かって軽く頭を傾げた。
「初めて会った時、あの助けてもらった時です。楓さん、髭生やしていたじゃないですか? なんか今と全然イメージが違うなって」
「ああ、あれは変装していたんだ」
「変装?」
「実は変装してある人間を尾行していたんだ」
そして楓はあの日、庭師のお客さんの孫の素行調査をしていたことを話してくれた。尾行の対象者が近所の子で顔を知られているため、髭を生やして変装したことや、その子が隠れてアルバイトをしていたことが分かりそれを電話で報告し、帰るところだったと説明してくれた。
「そうだったんですね」
明日香は納得した。最初に会った時と今の楓の容姿と雰囲気があまりにも違うので気になっていたのだ。
「楓さん、変装上手です。二度目に会った時、とても同じ人には見えなかったです」
「そうか、我慢して髭延ばしてよかった」
楓は顎を手で触りながら言った。
(でも、髭ない方が絶対素敵だけどね)
明日香は心の中で呟いた。
「それともう一つ聞きたいことが……」
続けて口を開きかけたところでちょうど明日香の携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「課長からだ。ちょっとすみません」
楓にことわり電話に出る。
「もしもし、ええ、確かに近くにいますけど。えっ今からですか?」
明日香は渋い顔をした。
「緊急出動って何かあったんですか? 来れば分かるって何それ……。横浜南署ですね。わかりました。行きます」
少しイラついて電話を切る。その様子を見て楓がごめんと謝った。
「なんで楓さんが謝るんですか? 悪いのは事情を説明しない課長ですよ。でもなんで管轄外の南署に集まるんだろう?」
明日香は携帯電話をズボンのポケットに入れながら、首を傾げた。
「今度いつ来れる?」
不意に楓が聞いてきた。
「えっ?」
「今度来た時に事情を説明させてくれないか」
(事情?)
一瞬引っかかったが、楓が誘ってくれたことに気持ちが舞い上がる。
「来週末来られると思います。もしよければ連絡先教えて頂けませんか?」
「電話でよかったら……」
楓が自分の携帯電話を差し出した。画面を見ると携帯電話の番号が表示されている。明日香は自分の携帯電話を取り出し、その番号にかけてすぐに切った。
「私の番号も登録しておいてくださいね」
明日香はそう言い残し、赤くなった顔を気づかれないように急いで楓宅を後にした。




