楓の推理
「どうだ?楓。まだ何も降りてこないか?」
「うーん、ちょっと口の『N』が気になるな」
カップを手に紅茶の香りを楽しんでいた楓はふと包装紙を手に取り、向きを上下逆にくるりと返した。その瞬間、楓の目がその絵に釘付けになった。
「これって小学生が描いたものなんだよな?」
楓が大知に確認する。
「ああ、小学六年生の女の子だ」
「だとすると、この猫の顔が何かの場所を示しているということはないか?」
「なぜそう思う?」
大知が楓を鋭く見上げて問いただした。
「この顔の中に俺が知っている地図記号が三つも入っている」
「え? 地図記号って小学校で習ったあれか?」
「ああ、この×印は分るよな?」
「ああ、もちろん。交番だろ」
大知が当然のように即答する。
「そしてこの鼻、逆さになっているが、『文』の字に見えないか?」
「見えます! たしか学校でしたよね」
「そしてこの左目は……」
楓の指先を見て、大知が叫んだ。
「老人ホーム! 家のマークの中に杖がある」
「大知、さすがだな」
「記憶力だけはいいんでね。くそ~、下向きの矢印は逆さにすると確かに家の形になる。あんなに描いたのに気づかなかった」
大知は悔しそうに頭をわしゃわしゃと掻いた。
「ちょっと実際の地図に切り替える」
大知がタブレットを手に取り、横浜市内の地図を表示した。
「えっ、これって市内の話なんですか?」
明日香は驚いて大知に尋ねた。
「実はそうなんだ。リアルだろ?」
大知が片目をつぶって得意そうな顔をした。
「小学生の子が各施設の場所を把握していることを考えると、本人の居住地に近い場所だろう……このあたりで探そう」
大知は市内の地図から大体の場所を予測した。
「ええと、猫の口の『N』が北方向だから……交番、小学校、老人ホーム、ここだ。位置がぴったりだ」
大知が地図の一点を指して興奮したように言った。
「まてよ、ここに区の境界がある。何てことだ。あの刀傷、境界線だったのか。天才か?」
「ああ、すごいな。問題はここからだ」
楓が感嘆したように言った。
「おそらくこの赤いリボンがポイントだ。このリボンの形、よく見るとあの形に似ていると思わないか? 地図で目的地を示すあの赤いマークがあるだろう? あれを2つくっつけているような……」
「見えます! 地図マーカーですね!」
「これを描いた小学生が気づかせたかったポイントはそこだ。市内地図ではちょうどこのあたりになるんだが……」
楓は市内地図の一点の緑色の楕円で囲まれている場所を指さした。公園か森林だろうか?
「楓さん、よく見るとこのリボンの側の三角耳の根本に、小さな線が描いてありますよ。これって針葉樹林の記号じゃないですか?」
スマホで地図記号を確認していた明日香が声を上げ二人にスマホを見せた。
「そうか、航空写真に切り替えてみる」
大知が地図の画面を切り替えると、そこは郊外の森林で、まばらに別荘のような建物がいくつか映った。
「ここだ。ここにある、いやここにいるのはおそらく……」
「ああ」
「解けましたね」
「はぁ……」
大知に至っては声にならないため息をついている。
楓は紅茶のお代わりを淹れてくると言い席を立った。
「じゃ、俺そろそろ行くね」
大知が立ち上がって荷物をまとめている。
「えっもう帰るんですか?」
明日香はびっくりして声をかけた。
「楓によろしく言っといて。明日香ちゃん、また後でね」
明日香の問いには答えず、大知はひらひらと手を振って去っていった。




