31 追放(1)
ざわざわと「失わせ屋」の前が騒がしい。
「魔導士ガナー!サインください!」
「きゃあ!こっち見た!眼帯かっこいい!」
「リーダーのアンディはどこ?一緒じゃないの?」
「なんだなんだ」と窓の外を見ると、店先ではなぜか、今をときめく冒険者パーティーのメンバーによる即席サイン会が行われている。
サインがひと段落してから、魔導士ガナーが鈴を鳴らして店に入ってきた。
「いらっしゃい。ガナーさん、ご活躍はかねがね」
「ありがとうございます」
「うちにはどういったご用件でしょうか」
「私たちのパーティーの件で」
彼はふっと息を吐いてから、話し出した。
彼が所属する冒険者パーティーは、リーダーのアンディを中心とする五人組。
先頭に立つスター冒険者アンディ、探索でもトラップ回避でも活躍する魔導士ガナー、怪我や病気からの回復を担う医者のリュカ、参謀としてリーダーを支える賢者クロウ。
そして最後に、荷物持ちと家事全般を担う、メインは料理人のノーラン。
「アンディとノーランと私は幼馴染で、このパーティーは三人の冒険ごっこから始まったんです」
「へえ」
「ですが最近、アンディがノーランをパーティーから追い出そうとしていて」
能力の高いメンバーのなかで、ノーランは「家事」と「荷物運び」という極めて地味なスキルしかもたないから。
「アンディが『ノーランは幼馴染だからってだけでパーティーにしがみついてる』『パーティーの格を上げるには、もっと能力の高い人間を入れないと』って言い出して…他のメンバーも同調しているんです」
「…でもあなたは反対なんですね」
「はい。なんていうか、テントに帰ってきてノーランに『おかえり』って言われるとほっとするんです。料理だって、食材のやりくりも大変だろうに、僕らの体調を見ながら変えてくれることも多くて」
常に緊張を強いられるパーティーの中では、きっと大事なことなんだろう。
だけど目に見えるものではないから、その価値を証明するのは難しい。
「アンディにも説明したけど、わかってもらえなくて…『失わせ屋』のことを知って、これだ!って思ったんです」
ガナーはぎゅっと拳を体の前で握った。
「同じ魔導士として尊敬します。こんな風に人のためになる魔法の使い方ができるなんて。アイデアも独創的だし」
「ふふん…ま、それほどでも?」
この人は見る目がある。たぶんね。
「行きましょうか」
「ありがとうございます」
彼らが宿泊している宿の前にも、人だかり。
「ティナさん、何でガナーといるの?」
「仕事だって?いいなぁ」
「ね、賢者クロウに会えたらこの本にサインもらってきて!」
そんな声をかけられながら人ごみをかきわけて中に進み、「ガナー、どこ行ってたんだ」と眉を吊り上げたリーダーに、術をかけた。
◇
俺はノーランをパーティーから追い出して、魔法が使えて料理もできる女性メンバーをパーティーに入れた。
女性メンバーがいると華やかだし、彼女は愛嬌もあるから話してて楽しいし、魔法が使えるから必要なら探索にも参加できるうえ、料理も派手で見栄えがする。
冴えない見た目で、戦闘能力ゼロで俺たちの話を聞くしか能がなくて、「身体にいいから」「回復が早くなるから」なんて茶色い料理ばかり作るノーランとは大違いだ。
「パーティーとしての格が上がったぜ。これでトップオブトップを目指せる」
だけど、なんだかおかしい。
「最近、しんどいな…」
胃もたれしたりお腹が痛くなったりすることが増えて、ダンジョンや遺跡で集中できない。
疲れ切って帰ってきて、食欲もないのにこってりした油物を出されたりして。
「サラ、もっと胃に優しい料理はできないのか?」
「食材を使う順番があるんだから、わがまま言わないで」
「だけどこんなの、拷問みたいだぞ」
「もう!せっかく頑張って作ったのに、文句言うんだったら食べなくていいし!」
体調が悪いせいで、パーティーの成績も落ちている気がする。
移動スピードが遅くなってるし、集中力が続かないから見落としも多くて、トラップで危険な目にあうことも増えた。
「ノーランのときは、こんなことなかったのに…」
ノーランは、いつだって俺たちのリクエストに合わせて、がっつり食べたいときはがっつりで、さっぱり食べたいときはさっぱりで用意してくれた。
いや、違う。
「リクエストなんて、したことないんじゃないか…?」
《アンディ、今日はかなり戦ったよね。だからしっかり肉を食べて》
《だめだめ、それはガナー専用。今日はかなり魔力を消費するダンジョンでしょ?疲れて食欲がないだろうから、ガナーだけさっぱり食べやすいけど疲労回復できる料理にしたんだ》
ノーランは何も言わなくても、俺たちの顔色を見て、料理を考えて出してくれてたんだ。
《どうしても野菜が足りなくなってくるから乾物で食物繊維を…あ!ごめん、三分だけくれる?これ食べられる草だから、採ってくよ》
《あ、この傷?どうしてもみんなに食べてほしい食材があったから、狩りに行ったんだ。そしたら逆に襲われちゃって…僕ってほんとだめだね、ははは。それより今日はどうだった?話を聞きたいな》
茶色い料理も、俺たちの武勇伝を嬉しそうに聞いてくれる笑顔も、全部懐かしい。
全部、必要だったんだ。
もたれた胃を抱えて、眠れないまま、そんなことを考える。
謝りたくて、戻ってきてほしくて。
「ごめん、ノーラン。俺、お前の価値を全然わかってなかった」
俺、リーダー失格だ。
いつだって一番パーティーのことを考えて、休みもせず、主張もせず…
そうやって支えてくれてた人を、「能力が低い」なんて見当違いな理由で追い出すなんて。
◇
リーダーは現実に戻ってきて、ぐるりと周りを見回した。
「ノーランは…?」
「厨房にいるよ。リュカが医者の不養生で風邪気味だから、宿の厨房を借りて特製粥を作るって」
「俺、ノーランに謝らないと」
アンディの言葉を聞いて、ガナーがふっとほほ笑んだ。
「一緒に行こうか?」
「うん…俺、リーダーをノーランに譲るよ。ノーランがこのパーティーの要だから。いいよな?」
「…ノーランは断ると思うけど」
しばらくして厨房から「ええ!僕がリーダー!?それはいくらなんでもおかしいよ!」という声が響いた。
「お前が一番周りが見えてる」とか何とか、アンディがわちゃわちゃとノーランを説得しているような声を聞きながら、私は宿を出た。
誰がリーダーだろうが、どうでもいい。
だってどっちにしても、あのパーティーは、今よりずっと良くなるだろうから。
「ティナさん!クロウに会えた?サインは?」
「あ、ごめん、忘れてた」
「もー!!」




