表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/24

21 もう遅い(1)

からんと鈴が鳴って、二人の女性が入ってきた。


どうやら「怒れる友人」と「おどおどしている当事者」のパターンだ。


「ティナさん、このエラに未来を見せてやって!この子の旦那、絶対また浮気するんだから!」


エラさんが把握しているだけでも、彼女の夫は結婚から一年足らずで二回浮気をしている。そしてこのほど、三回目の浮気が発覚した。


「何がムカつくって、浮気がバレた途端にしおらしい態度になって、毎度毎度涙を流してエラに謝るの」


言い訳は「迫られて断れなかった」「酒を飲んでいて気づいたら」という他責思考でちゃらんぽらんなものが多く、最後に「俺にはエラが必要だ」「エラがいなくなったら生きていけない」で締める。


「だけどほとぼりが冷めたらまた浮気して…!」


そうでしょうね。


相手と酒のせいにする言い訳から、「決して自分自身を変える気はないこと」が伝わってくる。


けれど優しいエラさんは、「エラがいなくなったら生きていけない」と涙ながらに言われて、毎回ついほだされてしまう。


「頼られることを、嬉しく思ってしまって…それにあの人、掃除も洗濯も、もちろん食事の支度もできないから…」


優しすぎる。天使か何かでいらっしゃいますか?


怒れる友人がぶるぶると首を振る。


「エラ、いい加減に目を覚まして。このままだとあなた、一生あの男にいいように扱われて、泣いて暮らすことになる。絶対後悔するよ」

「でも、今度こそ変わってくれるかも…」

「あいつは死んでも変わらないんだって!生まれ変わったって回帰したって、きっとあのまんまだよ!早く見切りをつけて離れないと!」


「お友達がお金を出してくれるというんですから、試してみたらどうですか。あなたの願い通り、本当に彼が変わるかどうか…五分もかかりません」と、私は営業スマイルを浮かべる。


「じゃあ…はい」



ジャックが、また浮気した。


結婚記念日、ちょっといいレストランを予約していたのに、当日に「仕事が入った」とキャンセルされて。


もったいないしお店にも申し訳ないしで、一人でレストランに向かったら、ひと足先に、ジャックと知らない女性が腕を組んで店に入っていったのだ。


私との結婚記念日のために予約したレストランに、浮気相手と…


もう、涙も出なかった。


「何回目…?」


帰ってきた夫を責め立てたら、彼はいつものとおり、膝をついて謝罪する。


何を言うかまで、わかる。


「ほんの出来心なんだ」


「彼女とは本気じゃない」


「愛しているのはエラだけで、エラがいないとだめなんだ」


その言葉も涙も本物じゃないって、痛いくらいにわかる。


ジャックに手をとられそうになって、私は身を引いた。


他の女に触った手で、触らないで。


「もう限界。出ていくわ」

「そんな…!エラ…!許してくれ!」

「無理よ。何度も何度も許してきた。だけどあなたは変わらなかったんだもの」


今までの我慢と流した涙を無駄にしたくなくて、十二年間、何度も何度も許してきた。


けれど、もう無理だ。


「出て行ってどうするんだ!もう三十歳で、しかも子どもを一人も生んでないんだから、再婚もできないだろ」


私はピクリと硬直した。ジャックがにやりと笑う。


「そうだよ、エラ。子どもも産めないお前が、俺から離れて、どこに行ける?」


ここが「攻めどころ」だと勘づいたのだろう。


「それに女一人で稼げる金なんて限られてる。何の学も技術もないエラが一人で生きてくのも、難しいぞ」


私はジャックを睨むけれど、彼は余裕を取り戻していた。


彼は確信しているのだ。私が彼から離れられないと。


「ほら、わかったなら機嫌を直してくれよ。そうだ、新しいネックレスを買ってやろうか?」


彼に抱きしめられて、私は唇を噛んだ。


もっと早く決断していたら、人生の選択肢がまだ残っていて、彼から離れられたかもしれないのに――



エラさんは青ざめた顔で現実に帰ってきた。


「あれが私の未来なの?」

「今のところは」

「ジャックは、変わらない…」


エラさんは顔を覆った。


「ずっと、薄々、わかってたんです。きっと彼は変わらないだろうって。だけど信じたくて…」


そう自分に言い聞かせるように呟いて、頷く。


「ジャックと、離婚します。親に話して、実家に戻らせてもらって…それから…子どもはいらないけど奥さんだけ欲しい人を探して…それか一人で生きてける仕事を探すか…」


怒れる友人が眉を下げて、「大丈夫だから」と彼女を抱きしめる。


「とにかく今は、目の前のことだけ考えよう。彼から離れるの。その次のことは、落ち着いてから考えればいい。未来で子どもができなかったのだって、エラじゃなくあいつのせいかもしれないでしょ?っていうか絶対に絶対にそうだし」

「…うん、ありがとうマリー」



三か月ほど後、とある民家の前で「エラ、頼むから出てきてくれ…!もう浮気なんて絶対にしないから…」と泣きながら叫んでいる男性を見かけた。


「ジャック」だ。


普通に近所迷惑だ。


「エラ、愛してるんだ本当に…!エラだってそうだろ?まだ俺を愛してるだろ?家もめちゃめちゃで、仕事もうまくいかなくて…エラじゃないとダメなんだ…!頼むから戻ってきてくれ…!」


口を開けられなくなる魔法をかけてやろうかと指を動かしたとき、一人の騎士が彼の肩を叩いた。


「エラさんに近づかないでもらえますか」

「俺はあいつの夫だ!近づいて当然だ!」

()夫でしょう」

「偉そうに!なんだお前は…エラの何だ!」

「騎士のエリックです。まだエラさんの何でもありませんが、恋人になりたいと思って、デートのお誘いに来ました」

「なっ…」


見た目やスペックだけで人を判断するのはよくないが、見目、身分、言葉遣いや態度から見て取れる人間性…


どれをとっても、騎士のほうがジャックより上だ。


「エラさんとは、結婚を前提に真剣にお付き合いしたいと考えています。ですから、もうこんなことはやめていただきたい」


「これ以上付きまとうなら、逮捕しますよ」ととどめを刺されて、元夫が地面にへたり込む。


「エラ…エラぁあああ…!」


家の中で元夫の叫びを聞いているはずのエラさんも、きっと私と同じ気持ちだろう。


「もう遅い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ