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俺の幼馴染が、俺の親友に寝取られました。社会的に抹殺するから今に見とけ。  作者: アルファベータ
スピンオフ 九条凛の戯れ

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第1話 盤上の新星


九条凛にとって、世界はあまりに予測可能で、退屈な場所に成り果てていた。


藤堂家を叩き潰し、佐藤湊という極上の復讐者を作り上げたあの日から一年。学園は静まり返り、彼女の足元には平穏という名の死が横たわっている。


「……飽きてしまったわ」


豪華な革張りの椅子に身を預け、凛は手元のタブレットをスワイプする。


画面には、湊のマンションの入り口が映っている。今日も彼は、魂の抜けた結衣を連れて帰宅した。その光景は、完成された絵画のように美しいが、変化がない。


復讐心というガソリンは、一度燃え上がればあとは炭化するのを待つだけだ。


「刺激が必要ね。佐藤くんの冷徹な仮面が、屈辱で歪むような……極上の刺激が」


凛が細い指でデスクのベルを鳴らすと、影のように一人の男が現れた。 


「お呼びでしょうか、お嬢様」


「例の件、どうなっているかしら。私の『新しいお気に入り』の準備は?」


男は一通の資料を差し出した。


そこには、一人の少年の写真。湊と同じ、この聖鳳学園の制服を着ているが、その雰囲気は正反対だ。 


名前は、一条響いちじょうひびき

特待生として中途編入してきたばかりの、眩いばかりの光を放つ少年。



◇◆◇


一条響は、いわゆる「完璧な善意」を体現したような存在だった。 


困っている生徒がいれば迷わず手を貸し、教師からの信頼も厚い。何より、彼の瞳には佐藤湊が失った「世界への信頼」が溢れている。


だが、凛が彼に目をつけたのは、その清廉潔白さゆえではない。 


「彼は、佐藤くんがかつて持っていた『すべて』を持っている。そして……佐藤くんが捨て去った『正義』という名のナイフを、誰よりも鋭く研いでいるわ」


資料によれば、一条響の家系は法曹界の名門。彼は「不正」を病的に嫌う。そして、彼にはある特技があった。人の隠している「罪の匂い」を嗅ぎ分ける、異常なまでの勘の良さだ。


凛は、学園の廊下で湊と響が初めて接触する場面を、防犯カメラ越しに観察していた。

廊下の角。


無表情で歩く湊と、明るい笑顔で後輩と話していた響がすれ違う。

その瞬間、響の足が止まった。


彼は振り返り、湊の後ろ姿をじっと見つめる。その瞳から笑顔が消え、深い疑惑の色が混じる。


「……面白いわ。響くん、君には見えるのかしら? 佐藤湊という聖者の仮面の下に隠された、真っ黒な地獄が」



◇◆◇


凛は早速、響を生徒会室へ呼び出した。


「一条くん。編入早々、学園の美化委員を引き受けてくれて助かるわ」


「いえ、九条先輩。僕にできることがあれば何でも言ってください」


響は爽やかに微笑むが、その視線は鋭い。

彼はこの学園を牛耳る「九条凛」という存在の不自然さを、本能で察知しているようだった。


「ところで、一条くん。一つ、あなたに相談があるの」


凛はわざとらしく、困り果てたような顔を作ってみせた。


「私の知人で、佐藤湊くんという生徒がいるのだけれど……。彼は最近、心を病んでしまった幼馴染を自宅で献身的に支えているの。でも、なんだか不自然だと思わない? 彼は一切、誰にも助けを求めないのよ」


響の眉が微かに動く。


「……佐藤先輩、ですか。確かに、先程すれ違った時、何かひどく重苦しいものを感じました。まるで、何かを縛り付けているような……」


「ええ。私は心配なの。彼が、彼女を救いたい一心で、自分を追い詰めすぎていないか。……一条くん、君のような清らかな心の持ち主なら、彼の『心の檻』を壊してあげられるかもしれないわ」


凛の言葉は、響の正義感という導火線に火をつけた。


「……分かりました。僕なりに、調べてみます。もし佐藤先輩が間違った道に進もうとしているなら……僕が止めます」


響が部屋を出た後、凛は堪えきれずに吹き出した。


「ふふ……最高よ、響くん。君のその『正義』が、佐藤くんの『執着』と衝突した時、一体どんな悲鳴が上がるかしら」



◇◆◇


数日後。響は早速行動を開始した。


彼は持ち前の社交性を活かし、サッカー部の元部員たちや、かつての水瀬結衣の友人たちから情報を集め始めた。


「藤堂蓮は本当に性犯罪者だったのか?」


「水瀬結衣は本当に精神を病んだのか?」


「そして、佐藤湊は本当に『救済者』なのか?」


響の調査は、湊が築き上げた完璧な偽装の綻びを突いていく。


湊は、学園内での響の不穏な動きに即座に気づいた。


放課後、マンションへ帰ろうとする湊の前に、響が立ちはだかる。


「佐藤先輩、お疲れ様です」


「……一条くんか。何か用かな。今日は急いでいるんだ」


湊の声はどこまでも平坦だ。だが、その瞳の奥には、自分のテリトリーを侵そうとする外敵への、冷徹な殺意が宿っている。


「先輩が、水瀬先輩を大切にされていることは知っています。でも……強制的な献身は、救いではなく『支配』です。僕は、水瀬先輩の本当の声が聞きたいんです」


湊は、僅かに目を細めた。


「……本当の声? 彼女は今、幸せだよ。俺が、彼女のすべてを守っているからね」


「それは、先輩が決めることじゃない」


二人の間に、火花が散る。


一年前の湊なら、響の言葉に図星を突かれて怯んでいたかもしれない。


だが今の湊は、復讐の末に「支配の蜜」を吸い尽くした怪物だ。


「一条くん。正義感で腹が膨れるのは、中学生までだ。……これ以上俺の庭に踏み込むなら、君のその綺麗な履歴書、汚してあげてもいいんだよ?」


「……受けて立ちます。僕は、間違ったことは許さない」


その夜、九条凛は暗い部屋で、二人の対立を録画した映像を眺めていた。


「いいわ、いいわ。佐藤くん。あんなに余裕のない顔をするなんて、久しぶりじゃない」


彼女はワイングラスを傾け、楽しげに歌うように呟く。


「さあ、一条響。君には特別に、もっと深いところを見せてあげる。佐藤湊が隠している、あのマンションの『奥の部屋』への鍵をね……」


凛はスマートフォンの画面を操作し、響のアドレスにあるデータを送信した。


それは、湊が結衣にサインさせた「実家の借用書」の写しと、彼女を精神的に追い詰めるための「飼育ログ」の一部だった。


「ふふ。一体どうなるのかしら……」


凛の瞳には、かつてないほどの愉悦が満ち溢れていた。


彼女の戯れは、まだ始まったばかりだ。



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