↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の幼馴染が、俺の親友に寝取られました。社会的に抹殺するから今に見とけ。  作者: アルファベータ
Todo dies of kindness

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/30

第1話 泥の中の王冠

 

 地方都市の片隅、解体現場の土埃が舞う中で、藤堂蓮は鉄パイプを振るっていた。かつて聖鳳学園のサッカー部キャプテンとして、緑の芝生の上で喝采を浴びていた男の姿は、そこにはない。


 油と汗と泥にまみれた、安っぽい作業着。荒れた指先。かつての整った顔立ちには、深いシワと、常に何かを恐れるような卑屈な光が宿っている。


 湊が用意した「下請けの解体現場」。それは、蓮にとっての王国であり、墓場だった。


 周囲の作業員たちは、訳ありの人間ばかりだ。彼らは蓮の過去を知らない。だが、蓮だけは知っている。今のこの生活が、佐藤湊という神の掌の上で行われている「見世物」であることを。


「おい、藤堂! ぼさっとするな! 今日のノルマが終わらなきゃ、給料は半減だぞ!」


 現場監督の怒号が響く。蓮は「はい」と短く答え、ふらつく足で再び鉄パイプを握り直した。彼は稼いでいた。低賃金で、死に物狂いで。


 稼いだ金の大部分は、湊が設定した「損害賠償」という名目の返済に消えていく。残ったわずかな金で、狭くカビ臭いアパートで独り、インスタントラーメンを啜る。


 それが、藤堂蓮の現在の日常だった。


 彼がこれほどまでに真面目に働くのは、決して再起のためではない。 「藤堂蓮」という人間が、どれほど惨めに堕ちたとしても、死なずに這いずり回り続ける姿を、湊に見せつけるためだ。


 ……それが湊の望みだと、蓮は信じている。いや、信じ込まされている。



◇◆◇


 異変は、ある晴れた日の午後に起きた。


 現場で、大規模な盗難事件が発生した。解体に必要な高価な機材と、作業員たちの給料が入った金庫が、一夜にして消えたのだ。


 現場監督と警察が駆けつけ、作業員一人ひとりに厳しい尋問が始まった。蓮は、作業の合間に端で休んでいたところを、二人の刑事によって囲まれる。


「藤堂蓮だな。お前、以前にも似たような横領の疑いで、少年院に入っていた過去があるな?」


「違います! 俺はやってない! 今は本当に、真面目に……!」


 刑事の冷ややかな視線が、蓮の過去を暴き立てる。「過去」は、蓮にとって消えない烙印だ。かつて学園で蓮が手を染めた小さな悪事、そして湊によって捏造された巨大な罪。


 それらが積み重なり、警察官たちの脳内で「藤堂蓮=犯罪者」という強固な図式を作り上げていた。


「防犯カメラの映像には、お前と体格の似た男が写っていたんだ。言い逃れはできないぞ」


 そんなはずはない。俺は昨夜、ずっとアパートでただひたすらに怯え、震えていたはずだ。だが、蓮にはアリバイを証明する証人も、金も、弁護士もない。


 唯一の味方だったはずの湊は、今は遠くの空の下で、かつての幼馴染を「管理」している。


 「……ああ、ああぁ……」


 蓮は膝から崩れ落ちた。逃れられない。また、泥沼だ。パトカーに押し込まれる際、彼はふと空を見上げた。そこには、かつての自分には眩しすぎた、冷たい青空が広がっていた。



◇◆◇


 留置所の鉄格子の向こう側。


 蓮は、冷たい床に顔を押し付けていた。


 絶望は、新鮮なものから、次第に腐った澱のように彼の精神を侵食していく。


 「佐藤……湊……」


 独り言のように、その名を呼ぶ。


 ここで、湊に泣き縋りたいと思った。あいつなら、きっと何とかしてくれる。そう思わせるほどの、根拠のない「親友」への期待が、まだ蓮の心の奥底にこびりついていた。


 たとえ湊が自分を壊し、蓮の全てを奪い去った怪物であっても。皮肉なことに、今の蓮にとって、世界で唯一「自分を認識してくれる」存在が佐藤湊だったのだ。


 「助けてくれ、湊……。俺は、俺は……本当は、お前をずっと見ていてほしかっただけなんだ……」


 独房の壁に向かって、蓮は泣きながら告白を繰り返す。その涙には、過去への後悔、湊への憎しみ、そして何より、「愛されたかった」という歪んだ飢えが混じり合っていた。


 彼の精神は、物理的な拘束以上に、湊という呪縛によって少しずつ、音を立てて砕け始めていた。闇の中で、蓮は震えながら、湊が現れる「来月」の面会を夢見ていた。


「また来てくれる。助けてくれるんだ」


 その面会こそが、彼にとっての地獄であり、唯一の救いであるとも知らずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。