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俺の幼馴染が、俺の親友に寝取られました。社会的に抹殺するから今に見とけ。  作者: アルファベータ
スピンオフ 九条凛の戯れ

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最終話 神による統治


卒業から数年。九条凛は、九条グループの若き役員として、かつてないほどの権勢を誇っていた。


しかし、彼女の執務室にある鏡に映る瞳は、あの頃と変わらず飢えに満ちている。

彼女がなぜ、これほどまでに「他者の破滅」を愛でるのか。


その根源は、豪華な九条家に来る前の、泥濘のような記憶にある。

九条凛の本名は、九条ではない。


幼い頃、彼女を包んでいたのは「恐怖」という名の黒い霧だった。実の父親は、酒を飲んでは母を殴り、凛を暗い押し入れに閉じ込める怪物だった。母の涙、飛び散る血、そして「ごめんなさい」という震える声。


その父親がある日、事故で無様に死んだ。その後、母が死に物狂いで掴み取ったのが、跡継ぎのいなかった九条家への再婚だった。

人生は変わった。暴力は消え、金と礼節がすべてを覆い隠した。


だが、凛の心に空いた穴は、教育や宝石では埋まらなかった。


「……誰も信じられない。誰も、私を支配できない」


彼女は、自分を壊そうとした「父」という絶対的な暴力を憎み、それゆえに、誰をも寄せ付けない「女王」の座に固執した。

そんな彼女の前に現れたのが、佐藤湊だった。



◇◆◇


凛は、湊のマンションを訪れていた。


もはや彼女にとっても、湊は単なる「駒」ではない。自分の盤上で、唯一自分を超える「完璧」を維持し続ける、神のような存在。


「相変わらずね、佐藤くん。この部屋の空気は、時が止まっているようだわ」


凛がソファーに腰掛けると、奥から結衣が茶を持って現れた。


結衣はもう、一言も発さない。湊の視線ひとつで、彼が何を求めているかを察し、影のように動く。その姿は、かつて暴力に怯えていた凛の母に似ていたが、決定的に違う点があった。 


結衣の顔には、微かな「悦び」が張り付いているのだ。


罰を、支配を、自分という存在の消失を、彼女は心から愛している。


「……九条さん。今日は何の戯れですか。一条響なら、予定通り精神病院で静かに暮らしていますよ」


湊は書類から目を離さず、淡々と告げる。

凛は、そんな湊を冷ややかに見つめた。


(あなたは、私の父が力で成し遂げようとして失敗したことを、知略だけで完成させた。……暴力すら必要としない、完璧な神様)


凛の心に、どす黒い感情が渦巻く。


それは、湊への称賛ではない。自分と同じ「闇」の出身でありながら、自分よりも遥かに高く、純粋な地獄を築き上げた男への、猛烈な嫉妬だった。



◇◆◇


「佐藤くん。あなたが完璧であればあるほど、私は壊したくなるのよ」


凛は立ち上がり、湊のデスクに両手を突いた。


「あなたのその『完璧』が、もし、たった一つの『慈悲』で崩れるとしたら……見てみたいと思わない?」


湊は初めて、顔を上げた。


「慈悲? 俺にそんなもの、必要ありませんよ」


「そうかしら。……例えば、少年院を出て、今や見る影もなく落ちぶれた藤堂蓮。彼が今、病に侵されて余命幾ばくもないとしたら? 結衣さんに、最後の一目だけ合わせる……なんて『慈悲』、あなたなら容易いでしょう?」


湊の瞳が、僅かに揺れた。

それは怒りではなく、凛の「浅はかさ」への呆れだった。


「九条さん。あなたはまだ、復讐を娯楽だと思っている。……俺にとって、これは呼吸と同じです。藤堂が死ぬなら、それは彼にとっての救済だ。俺がそれを許すはずがない。彼は、最も苦しい状態で、一秒でも長く生き永らえさせる」


湊は、凛の喉元に指を添えた。


「あなたの父親があなたにしたことは、ただの『未熟な暴力』だ。俺がしているのは、『洗練された永遠』だ。九条凛……あなたに父親の血が流れる限り、一生、俺の足元にも及ばない」



◇◆◇


凛は、湊の指先の冷たさに、全身が総毛立つような恐怖を感じた。


そして、理解した。

佐藤湊という男は、もはや復讐を成し遂げた人間ではない。


彼は「復讐」そのものに成り果てたのだ。

彼を超えるものは、誰もいない。

彼を壊せるものも、もはやこの世には存在しない。


彼は、結衣という名の生贄を捧げ続けることで、自分という神を維持している。


「……負けだわ、私の」 


凛は力なく笑い、湊の手を振り払った。


「あなたの地獄は、あまりに純粋すぎて、私には眩しすぎる」


凛はマンションを出た。

夜の街のネオンが、彼女の瞳には酷く下卑たものに映る。


九条家に入り、地位も名誉も手に入れた。だが、彼女が本当に欲しかったのは、湊が持っているような「何者にも侵されない、絶対的な孤独の玉座」だったのかもしれない。

彼女は、自分を傷つけた父の亡霊から逃げるために、他者を壊し続けた。


だが、湊は逃げてなどいない。彼は地獄の底に根を張り、そこを自分の王国にしたのだ。



◇◆◇


九条凛は、その夜を最後に、佐藤湊の前から姿を消した。


彼女はグループの海外事業を統括するという名目で、日本を離れることを決めた。

盤面から、自ら降りたのだ。


飛行機の窓から見下ろす東京の夜景。


その中のどこか一点に、湊と結衣がいる。

誰も立ち入ることができない、完璧な檻。

誰も救うことができず、誰も壊すことができない、美しい地獄。


「……さよなら、佐藤くん。……私の、なりたかった神様」 


女王の戯れは、ここに終結した。

残されたのは、永遠に続く静寂と、冷めきった復讐の余韻だけ。


そして、湊のマンションでは。

今日も変わらず、結衣が湊の靴を磨き、湊が彼女の頭を優しく撫でる。


そこには言葉もなく、ただ、完成された絶望だけが、甘く漂い続けていた。


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