076霊導玉、そして賀茂家
まずは国歌斉唱を行い、各々大会前の挨拶がされる。
開始の形式が整えられ、いよいよ、1日目である陰陽師部門が開始される。
『それでは、これより東京幼年霊法競技大会、陰陽師部門を開始いたします』
陰陽師部門の参加者は、総勢50人ほど。
今回は、約50人がランダムでA組、B組、C組、D組の4組に分けられ、それぞれ競技を行う。
俺は最も早いA組だ。
そのまま会場に残れば良い。
ちなみに、匠兄はD組。
陰陽師部門の競技は、4つの種目で分けられる。
・霊力操作
・結界術
・五行術
・式神術
以下の4つである。
霊力操作は言わずもがな、結界術と五行術と式神術は、陰陽師における三大技能と呼ばれるもの。
この4つの技能を測る試合の点数が、1番高いものが優勝である。
「お、来たか」
待っている内に、職員が用意したのは、透明な玉と大きなレールの付いたテーブル。
透明な玉はピンポン玉ほどの大きさで、一見するとガラスで出来ているように見える。
レールの付いたテーブルは、A組の人数ちょうどあり、かなり大きく、大人が数人がかりで運ぶほど。
レール自体は、道路みたいに真っ直ぐだったり、カーブがあったり、橋のような場所まである。
レールの幅がちょうど透明な玉を転がせるサイズだ。始めにスタート地点があり、終わりにゴール地点がある。
「これは霊導玉といって…」
職員の1人が、透明な玉を手に取って説明をする。
説明によると、透明な玉である霊導玉は、霊力を込められる特殊な玉。
込めた霊力に応じて、霊力を込めた者の霊力操作で転がせる仕様らしい。
そして、霊導玉に霊力を込めた状態で、霊力操作により、用意されたレールを転がせ、ゴールまで運ぶ。
シンプルな玉転がし。
見本として、職員の人が霊導玉に霊力を込める。
すると、霊導玉が職員の手の上で1人でに動き出す。
これが、霊導玉の特性だ。
「それでは、霊導玉に霊力を込めて」
職員の指示に従って、俺を含めたA組の子達が、それぞれの霊導玉に霊力を込める。
充分に霊力を込めた後、手のひらの上に乗せる。
手をかざして、転がす。
触ってはいないが、俺の霊力操作で、勝手に玉が転がった。
よし、転がす感覚は少し掴んだ。
俺はレールのスタート地点に、霊導玉を置く。
「すぅ…はぁ…」
俺は一回深呼吸。
いよいよ始まる。
婆やを救うために、俺は優勝するんだ。
「それでは………始め!」
職員の声に反応して、俺は手をかざして、霊力操作を持って霊導玉を転がす。
勢いよく転がる霊導玉。
当然、この霊力操作の競技において、霊導玉を1番にゴールまで運んだほうが得点が高い。
しかし、一筋縄で行かないのが、この競技。
「あ?!」
俺の隣で同じように霊導玉を転がさせていた男の子が、声を出す。
どうやら、霊導玉がカーブの手前で、レールから外れたみたいだ。
転がせる速度を大きくしすぎたために、脱線したのだろう。
レールから落ちた霊導玉は、そばにいる職員の手によって、すぐにレールに戻される。
でも、それだけで大幅な遅延。
早く転がしたら良いと言うわけではない。
なかなかに難易度が高い。
「む、難しいよぉ…」
「ま、また落ちた!」
「む、無理!」
俺以外のA組の子達が、ぐずり始める。
そんな中、俺は霊導玉を正確に転がし続ける。
速さを意識しつつ、カーブの手前で減速して、橋が掛かっている場所なら、慎重に進ませる。
うん、"事前に聞いていた"通り上手くやれている。
俺が、ここまで上手くやれているのは、一重に潤一平先生たちによる過去問分析のお陰だ。
先生たちが今日の日のために、陰陽師部門と霊衛部門の競技内容と対策を調べてくれたのだ。
勿論、この霊導玉を転がす際のコツも。
転がすスピードやタイミングなどを、レクチャーしてくれたのだ。
そのお陰で、俺はリード出来ている。
え?じゃあ、他の子達も同じように対策しているのかって?
多分してない。
だって、この大会、特に陰陽師部門に参加する子達は、概ね名家出身。
名家出身は、良くも悪くも古いしきたりを重んじる傾向が強い。
幸子義母さんや、その出身家のように。
大会に記録映像から対策を考えるとか、現代チックなことは、名家は好んでしないのだ。
俺の霊導玉はゴールに近づく。
よし、このまま進めば、A組では1番にゴール出来る!
そう思っていると、
「………」
なんと、俺の霊導玉に迫る勢いで、無言で転がす子がいた。
緑髪を、三つ編みおさげにした女の子。
あれ?あの子は………いや、今はゴールに集中しないと。
俺は、深く集中して、霊導玉を転がす。
コロン。
俺の霊導玉がゴール地点に行く。
次いで、緑髪のおさげの子も、ゴールする。
「ゴール!一着はA組4番、津久井宵明君。続いて、二着はA組10番、賀茂若葉ちゃん。そして、三着目は…」
職員の人が、俺の一位を宣言する。
俺は一息つく。
ひとまず、一位に終わった。
霊導玉も一回もレールから外れなかったし、霊力操作の得点が、俺が1番高いだろう。
それにしても、賀茂若葉か。
この子も参加していたんだな。
大会に集中して、余り匠兄以外の参加者のことは見ていなかった。
賀茂家。
それは、陰陽師なら誰でも知っている名家。
"御三家の一つ"である。
そう、九十九神楽と同じ。
まぁ…正確に言うと、賀茂若葉は、賀茂家分家の子だけど。
でも、なるほど。
賀茂家だからこそ、あそこまで霊力操作が高かったのか。
俺も同年代に比べて、霊力操作には自信がある方だったが、先生たちの大会の分析がなければ負けていたかもしれない。
次はB組で競技が始めるので、俺は会場を後にする。
会場から控室に戻る俺。
「宵明、一位だったみたいだな。凄いじゃないか」
控室で待機していた匠兄が、労いの言葉を掛ける。
俺は頷く。
「俺、優勝目指しているからね」
「そうか……」
匠兄は、複雑な表情である。
母親である幸子義母さんからは、優勝してこいと言われた手前、俺の優勝宣言を素直に喜べないのかもしれない。
「やあ、こんにちは」
その時、背後から声が掛けられる。
幼くも、理知的な声。
俺と匠兄は声の主を、確かめる。
そこには、俺がよく知る顔があった。
とても優しそうな顔つきの男の子。
森林を想起させる緑色の髪をしており、車椅子に乗っている。
彼は、大柄な体格の男性に車椅子を押してもらいながら、こちらに来る。
俺と匠兄は、無言で顔を見合わせる。
尚も彼は、和やかな笑みを見せている。
「僕は、賀茂聖」
彼は自己紹介をする。
賀茂家と聞いて、匠兄は目を見開く。
何せ、同じ御三家である。
匠兄にとっては、賀茂聖に会うのは、今日が初めてだっけ。
二回目の人生では、俺も初めてである。
俺は、彼をよく知ってる。
何せ、一回目の人生の時に、何度も会ったことがあるから。
彼は、賀茂聖。
俺の二つ上であり、真兄と同い年。
賀茂若葉と同じ賀茂家の子である。
ただし、こっちは"本家"の。
賀茂聖は、現賀茂家当主の長男なのだ。
いずれ彼は天才的な結界術で、日本中に名が知られるのだ。
「初めまして、匠君。よろしく」
賀茂聖は手を伸ばして、匠兄に握手を求める。
匠兄は恐る恐る自身の手も伸ばす。
ギロ…。
その際に、車椅子を押していた男の人が、鋭く睨んできたが、何とか匠兄は賀茂聖と握手を交わす。
「九十九神楽匠です………よろしくお願いします」
匠兄の返答を受けて、賀茂聖は敵意の無い笑顔を取る。
「突然、ごめんね。同じ御三家…共に、日本を支える陰陽師家の一員として、声を掛けたいと思ってね」
「そ、そうですか」
珍しく匠兄が、緊張している。
そりゃあ、いくら同じ御三家でも、賀茂家といったら、世間一般では九十九神楽よりも、ずっと名実ともに陰陽師家として知られた名家中の名家だ。
しかも、賀茂聖の車椅子を押していた男の人も、その周りにいる護衛に人たちも、みんな怖そうなんだから。
佇まいで、みんな猛者だって分かる。
そこで、ふと…賀茂聖が匠兄の隣にいる俺の方に目を向ける。
「君は…さっきの競技で、1番にゴールした子だね。
「あ、えっと…津久井宵明です」
「うん、よろしく宵明君」
俺も、賀茂聖と握手をする。
「………聖様」
そうしていると、俺と同じく競技に出ていた賀茂若葉が控室に戻っていた。
彼女は、賀茂聖を見た後、俺を見て少し驚く。
「ああ、若葉。お疲れ様」
「はい」
賀茂若葉は、恭しく頭を下げる。
賀茂若葉からは、賀茂聖に粗相をしては行けない。という感情が伝わってくる。
「………そんなに畏まらないで。僕達は同じ賀茂家じゃないか」
「そう…ですね」
賀茂聖は同じと言っているが、賀茂若葉の反応は薄い。
そもそも本家の賀茂聖に対して、分家の賀茂若葉は立場が違う。
分家が、本家よりも立場が低いのは、良くある話である。
分家の本家への少しの阻喪で、家が断絶したという話もあるほど。
いくら、本家の人間が友好的に接しても、分家の人間は警戒と畏怖を持ってしまうのは、当然なのだ。
そうして、賀茂聖は控え室にいる子たちに会釈をして、護衛の人たち、そして賀茂若葉と一緒に行ってしまった。
小さな嵐が過ぎ去った感覚である。
それにしても、賀茂聖は多分、大会の参加者の名簿を見て、同じ御三家ということで、匠兄に話しかけてきたのだろう。
そんで、改めて俺は参加者の名簿を見たら、この大会で参加してる賀茂家は賀茂若葉のみ。
そうか…分家の子が出場する大会を見にきたのか。
"相変わらず"賀茂聖は、家族思いだな。
「ふぅ…」
匠兄が息を吐く。
そして、ジト目で俺を見る。
「それにしても、宵明…"津久井"宵明というのは…」
「あはは、この大会…俺の先生たちも来てて、先生たちには、俺が九十九神楽ってこと隠してるから。匠兄も、俺が先生たちと一緒にいる時は、余り話しかけてこないで」
「はぁ…分かったよ」
匠兄は、ため息を吐きつつも、一旦は納得する。
さて…あと、結界術、五行術、式神術の試合が残ってる。




