075日本武道館
『東京幼年霊法競技大会、陰陽師部門の会場は、こちらです。事前登録枠のお子様は、右側のテント。当日登録枠のお子様は、左側のテントへの、お越しをお願いいたします。大会は、午前10時から開催です。当時登録枠のお子様は、9時半までに、登録を済ませて、指定したエリアに来てください。繰り返します。東京幼年霊法競技大会、陰陽師部門の………』
アナウンスから案内が聞こえる。
俺は今、北の丸公園という広場にある。
緑は豊かで、綺麗な川や池もある。
正確には、北の丸公園の中央にある日本武道館前だ。
八角形の屋根が特徴的な建造物。
屋根の天辺には、大きな宝玉みたいな物もある。
武道の聖地とも呼ばれ、柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道の「現代武道9種目」の大会がここで行われる。
武道に勤しむ者ならば、一度は足を踏み入れたいところである。
そして、俺が優勝しなければいけない東京幼年霊法競技大会も。
東京幼年霊法競技大会は、2日に分けて行われる。
1日目は陰陽師部門。
2日目は霊衛部門。
俺は両部門参加するので、2日連続だ。
『人がいっぱいだね』
福丸が人の多さに驚く。
日本武道館前には、多くの人が集まっていた。
「俺たちは、事前登録枠たがら、あっちのテントか。行こう、匠兄」
「ああ」
俺の隣にいる匠兄が頷く。
兄である匠も、陰陽師部門に参加するのだ。
とは言っても、参加するのは、母親である幸子義母さんの指示だと思うけど。
「おにぃ、頑張れ!」
「ぼっちゃま、応援してきます」
茉昼と婆やが、応援を掛ける。
「匠…良いですか?優勝ですよ。優勝だけを考えなさい」
「はい、母上」
幸子義母さんが匠兄に、優勝して来いと釘を刺す。
恭しく了承する匠兄。
「2人とも、ベストを尽くせ!」
「に、兄ちゃんたち、頑張って!」
俺と匠兄の両方を応援するのは、澪姉と利久。
「「………」」
一方の鈴姉と縁姉は、無言だった。
鈴姉は元々、俺だけでなく、他人とは関わろうとする性分でない。
チラチラと俺たちを見ては、視線を外す。
縁姉は、俺や匠兄を見ようとはせずに、片手で籠目義母さんと手を繋ぎながら、ずっと手元にある本を読んでいた。
縁姉も相変わらずで、俺は苦笑いする。
とは言え、鈴姉も縁姉も、試合を見に来てくれただけでも、上出来だろう。
家族で、今日ここに来ていないのは、病弱な真兄や九十九神楽本邸を見ていないといけない文世義母さん、文世義母さんにベッタリな光希、仕事で忙しい巴義母さんぐらいか。
「匠、宵明」
ここで、祖父である巌が話しかけてくる。
爺ちゃんも、俺たちに試合を見に、ここに来てくれた。
「九十九神楽の家名に恥じぬ試合をしてこい…………とは言わん。ただ…」
爺ちゃんは、俺と匠兄の肩に、それぞれ手を置いて、目をしっかり見る。
「互いに悔いの残らぬようにな」
「「はい」」
一寸違わず、返事をする。
それを聞いて、爺ちゃんは満足げに頷く。
匠兄と一緒に、出場準備を済ませるために、事前登録枠のテントに行こうとすると、
「ふぐ?!」
顔面に衝撃。
突然、見えない壁にぶつかる。
この感じ覚えがある。
俺は前方を睨む。
「八重、またか」
『ふふふ!』
透明になっていた塗壁の八重が、姿を現す。
お前も来ていたのか。
八重は、俺を指差し、愉快そうに笑う。
『アンタなんか、優勝できないと思うけど、折角だからアタシが応援してあげる!』
「はぁ…それはどうも」
『はあ?!何その空返事!』
「いや、うん…嬉しいよ」
『全然そう思ってないでしょ?!』
そんなこんなで、テントで登録の確認をした後、俺たちは日本武道館の内の会場に入る。
会場は中央に広い平地。
四方に多くの観客席。
天井には、大きな日の丸の旗があった。
すでに、中では多くの俺と同年代の子供たちがいた。
みんな、恐らく陰陽師の名家出身だろう。
一旦、俺たちは観客席に行く。
まだ、試合が始まるまで時間がある。
試合時間が近づくまで、俺は観客席に座って、俺に構ってほしい茉昼の相手をしていると、
「ん?おお、いたな」
「宵明」
「おねぇ!」
俺がいる観客席に、神木春桜と神木凪桜が来た。
茉昼は凪桜が来たことに喜ぶ。
今度は凪桜に飛び込む茉昼。
「凪桜は明日からじゃが、次いでじゃ。ちと、応援に来たぞ」
凪桜自身は、明日の霊衛部門に参加予定だけど、どうやら俺たちの応援に来てくれたみたい。
「あ!先生だ」
そこで、俺は今いる観客席の反対側に、見知った顔ぶれ…先生たちを見つける。
俺は、静かに爺ちゃんへ言う。
「爺ちゃん…先生たちがいるから、俺…あっちに行ってるよ」
「ふむ…なるほど。宵明に稽古をつけている方たちじゃな。分かった」
爺ちゃんの了承を得て、俺は反対側の観客席に行く。
爺ちゃんも、含めて家族たちは、俺が九十九神楽の身分を隠して、先生たちから稽古を受けている事情は知っている。
「お!いました。こっちです、宵明君!」
「いた!いた!宵明ちゃん!」
反対側の観客席に行くと、いち早く小野寺理人さんと小野寺千景さんが気づいてくれる。
「ほっほっほ!今日は宵坊の晴れ舞台じゃな」
『お弁当、たくさん作ってきたからね』
木下関助さんは、にこやかな笑みを作り、銀狐のヨルルさんは、頭を撫でているつもりか、銀色の尻尾で俺の頭をポンポン叩く。
今日は、鈴木事務所を休んで、みんなで俺の応援に来てくれたのだ。
「目指すは、優勝だな」
「はい、先生!」
潤一平先生の言葉に、俺は力強く頷く。
一週間前から、ずっと鈴木事務所のみんなは、俺のために大会の分析をしてくれていた。
それに報いるためにも、頑張らないと。
「ごが……」
ちなみに、典子先生は観客席で寝ていた。
典子先生は、朝に弱いからな。
そうこうしている内に、試合開始の時間が迫ってきた。
俺は観客席から中央に広場に行く。
多くの同年代が揃っている。
いよいよ大会開始である。




