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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第四章 東京幼年霊法競技大会

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74悪霊式・式神生成術




 『衆合』によって、多数の六級の怪異から、一体の四級の怪異となった。


 その怪異に対して、俺は典子先生から教わった悪霊式・式神生成術を持って倒すと言う。


 ちなみに、五級以上の怪異退治は、法的に陰陽師や霊衛の資格を持った人で無いと、許されていない。


 でも、ここは裏東京。

 地上の法律など、あってないようなもの。

 無法地帯なのだ。


 「取り敢えず、悪霊を降ろすから、2人は時間を稼いで。くれぐれも倒さないで。あれは、悪霊で倒したいから」

 『わ、分かりました』

 『はぁ…出ました。主の気まぐれ』


 常に俺に肯定の忠吉は頷き、ヨツミはため息を吐いて、俺の気まぐれさを憂う。


 気まぐれ?何を言っている?

 気まぐれなら、典子先生の方がずっと上だと思うけど。


 憂い顔のヨツミだったが、首を振って、怪異を見る。


 『まぁ…主の命令ならば。従いましょう。時間稼ぎならば、獣の姿が良いですね』


 ヨツミは片手の中指と人差し指を立てる。

 忍者が、何か忍術を使う際にする手印に似ている。


 ドロン!

 忍者の姿が消え、代わりに現れたのは、金色の目と白い毛並み、そして4つの耳の兎。


 ヨツミの獣形態である。


 これから何をするのかというと、


 『【二兎追う者は一兎も得ず】』


 ポン!

 一兎であったツヨミの姿が二兎に増える。


 それだけでは無く、ポン!ポン!ポン!

 二兎が四兎。

 四兎が八兎。

 八兎が十六兎に。


 さっきは鼠の怪異たちが、地面のゴミを食って、増えていたが、それと似た光景である。


 指数関数方式で、増え続けるヨツミ。

 忍者の影分身である。


 これが、獣形態でのヨツミの術式【二兎追う者は一兎も得ず】。


 『チュ?!』


 術式で増えたヨツミたちが、一斉に鼠の怪異に、飛びかかる。

 鼠の怪異は、慌てつつも無作為に暴れて、ヨツミたちを倒そうとする。


 (無駄です。本体である私が倒されない限り、無限に増え続けます)


 ツヨミからの念話が聞こえる。


 ヨツミの分身は、本体の一体がダメージを受けて、消滅しない限り、分身の増加は止まらない。


 良いね。

 ヨツミは、怪異を倒さずに足止めをすると言う指令を忠実にこなしている。


 『が、頑張れ!』


 忠吉は、自身が戦力外というのを理解して離れて応援している。


 さて…俺も。

 俺は、黒式札を持って、集中するために目を閉じる。


 自身の方から出るは、悪霊を降ろすための詠唱。


 「天にも受け入れられず、地にも安らげず、幽世(かくりよ)の狭間を彷徨う、怨念に染まりし悪霊よ。名を失い、姿を歪め、ただ一念を抱き、なお現世を呪いし者よ。我が声を楔(くさび)とし、黒き符を鎖とし、我が霊力を道として、隔世の境を越えよ。我は汝に器を与え、形を与え、役目を強いる者。汝が怨念を力とし、汝が憎悪を刃とする。抗うことなく我が命に従い、今一度、現世の黒き器に降り来たれ」


 口にする速さは早過ぎず、かと言って、遅過ぎず。

 適切な早さで、言葉を紡ぐ。


 一語一句、はっきりと。


 詠唱の言葉は、全て俺の頭の中に入っている。

 これまで何度も口にして練習した詠唱だ。


 これは、典子先生から教わった悪霊を降ろすフル詠唱。

 通常の霊体を下ろす際に、言うフル詠唱を、悪霊式に改変したものだ。


 詠唱とは、言霊であり、この世の事象に干渉する言葉の力。

 これこそが、悪霊式・式神生成術の詠唱。


 典子先生は生まれつき【黒ノ巣】という悪霊に好かれてしまう術式と向き合って、この詠唱を編み出したのだ。

 あの人は、別方面での天才である。


 詠唱することで、こことは違う世界…霊体がいる幽世に繋がる感覚がする。

 そこから最適な"悪霊"を見つけ出す。


 活きの良い悪霊は………コイツだ!


 手に持った黒式札に霊力を込める。

 すると、器になった式札に、霊体が降りてくる。


 悪霊式神の完成である。


 『ゲギャギャ!!』


 悪霊を下ろした黒式札から、何か奇怪な声が聞こえる。

 コイツが悪霊だ。




 俺は続く詠唱で、さらに4枚…合計5枚の黒式札に、悪霊を降ろす。

 準備万端である。


 「待たせたな。足止めは、もう大丈夫。あとは俺が」

 (分かりました)


 俺の指示に応じて、ヨツミが足止めを止める。

 自由になる鼠の怪異。


 そこで、手に持った黒式札を構える。


 「【乱札】」


 2枚の黒式札を飛ばす。

 すると、宙を舞い、鼠の怪異に向かう。


 【乱札】自体、複数の式札を使って、敵に軽く体当たりしたり、視界を邪魔したりして、少し攪乱させるだけの式神術。


 でも、黒式札を使うと、


 『チュ?!』


 黒式札が当たっただけで、図体が大きくなったはずの鼠の怪異の体を、強く押す。


 そのまま、2枚の黒式札は鼠の怪異の周囲を回り、翻弄する。

 たった2枚で、これだ。


 『チュチュ!』


 鼠の怪異が、俺に向かってくる。

 この場の脅威が、黒式札を操る俺だと判断したのだろう。


 「我らを守る壁となれ【簡易結界】」


 簡易結界を張って、壁を作る。


 ガリガリ……バリン。

 それも、出っ歯で噛みつき、割り始める。


 流石、『衆合』によって、四級になったまである。


 俺は、結界が割られる前に早いとこ、もう2枚の黒式札を構え、放つ。


 「【縛札】」


 追加の2枚が、鼠の怪異に向かう。


 そして、最初に放った2枚と合わせて、鼠の怪異の前後左右に、それぞれ1枚ずつ黒式札が置かれ、4枚の黒式札が、押さえつけるように怪異を拘束する。


 『チュ?!』


 鼠の怪異は、拘束を逃れようとするが、黒式札4枚は、全く剥がれる気配はない。


 【縛札】は、式札を使って、敵を拘束する式神術。

 この術は、本来ならもっと多くの式札で、敵を拘束するのだ。


 悪霊を使った式神は、通常の式神と違うところは、2つある。


 その1つが、基本的に通常の式神より戦闘力が高いということ。

 馬力が違うのだ。


 そして…違うところの、もう1つは、


 「食らえ!【式神弾】!」


 俺は最後の黒式札1枚を放つ。


 その黒式札はドス黒い霊力を解放させ、4枚の黒式札で拘束されている鼠の怪異に、一直線で飛翔する。


 『ゲギャギャ!!』


 黒式札に降ろした悪霊が、高らかに笑う。


 一発限りの弾丸となって、黒式札が鼠の怪異に命中する。

 通常の式札よりも、何倍も威力のある式神弾。


 『チュチュ?!』


 鼠の怪異は悲鳴を出し、倒れる。


 倒したかな?

 そう思っていると、鼠の怪異は、どうにか起き上がる。


 まだ、やれていなかったみたいだ。


 しかし、


 『チュ!!』


 鼠の怪異が大きく痙攣する。


 鼠の怪異の体に、黒い痣が現れたと思ったら、鼠の怪異は苦しげに、少しもがいた後、消滅する。

 完全に倒したみたいだ。


 これが、悪霊による式神の特徴の1つである"呪い"だ。


 悪霊を降ろした式神の攻撃には、呪いがあるのだ。

 つまり、攻撃時に、呪いと言った状態異常を敵に与えられる。


 さっきの鼠の怪異は、呪いによって、トドメを刺されたのだ。


 「戻れ、悪霊」


 俺は、鼠の怪異を縛っていた4枚の黒式札を操って、ポーチの中へ戻す。


 「上手く倒したじゃないか。宵明も、5枚の悪霊を操れるようになったかい」


 そこへ、典子先生が煙草を吸いながら、寄ってくる。


 悪霊を降ろした式神は、攻撃性が高く、呪いもある反面、制御が難しいのだ。

 悪霊って、ちょっと気を許すと、すぐに勝手な行動をしようとするからな。


 今の俺でも、同時に5枚が限界。


 でも、もっと訓練して、もっと多くの悪霊を操れるようになりたい。

 典子先生みたいに。


 さぁ…今度こそ、地上に帰ろう。

 そう思ったのに。


 ドン!!

 近くで重いものが落ちたような音がする。

 次いで、足元が揺れるほどの振動。


 「今度は何だ?!」


 俺は呆れて、音の方を見る。


 地面から巨大な物が生えていた。


 それは、大きな薔薇の花だ。

 地面から茎を伸ばして、巨大な赤い蕾を咲かせていた。

 薔薇の怪異だ。


 家を一個丸ごと覆うほどの蕾を持った薔薇。

 大きな茎には、じっしりと棘が生えていた。


 なんか…迫力がある。


 『ニャ?!この怪異、三級!間違いなく、三級はある!』

 「マジか」


 肩に乗る福丸が、警戒心を出して叫ぶ。

 俺は、息の飲む。


 三級か。

 一般的に、霊衛でも陰陽師でも、三級以上は上級と言われているが、それは怪異でも同じ。


 四級と三級の怪異の力の差は、雲泥の差。

 三級からは、怪異の強さが跳ね上がる。

 別次元の強さがあるのだ。


 俺は潤一平先生と典子先生のおかげで強くなった。


 でも、決して自分の強さを甘く見積もってはいない。

 今の俺では、三級の怪異には勝てない。


 逃げ一択だ。


 「先生、逃げましょう!」

 「んあ?」


 逃げようと言う俺に対して、典子先生は呑気に欠伸をしていた。


 その時。

 ビュン!


 薔薇の怪異から攻撃が来る。


 茎から生えた何個もの棘が、投げ槍のように襲ってきた。

 棘と言っても、大人の顔ほどの大きさがある。


 たくさんの棘が、一直線に俺と典子先生に向かう。

 あれに当たったら、痛い程度では済まない。


 「我らを守る壁となれ【簡易結界】!!」


 即座に、結界を出す。


 間に合った。でも…………バリン!

 俺が展開した【簡易結界】は、複数の棘に当たり、糸も容易く割られる。


 そのまま棘の攻撃が、俺と典子先生に向かう。


 『宵明様!!!』

 (宵明様!!!)


 忠吉が、なんと俺の前に体を入れて、壁となる。

 ヨツミも、再び術式で兎の姿を増やして、壁になる。


 けれど、


 『あ?!』

 (獣の姿では限界が!)


 そんな忠吉の肉壁も、棘は簡単に貫通し、忠吉は消滅する。

 術式で数を増した獣形態のヨツミも、次々に消滅する。


 忠吉も、獣形態のヨツミも、直接戦闘型ではない。


 「くっ?!」


 俺は急いで後ろへ飛んだ。


 ガキン!

 向かってきた3個の棘の内、2個を刀もどきで弾く。


 棘は石のように硬かった。


 そして、残りの1個が、俺の肩に当たる。

 直後、俺の肩を棘が掠り、別の方向に飛んでいく。


 危なかった。

 咄嗟に後ろに飛んだから、直撃は免れたし、なにより典子先生から貰った守り護符のお陰だ。


 守りの護符が、棘の攻撃を弾いてくれた。


 は!そう言えば、典子先生は?!

 俺は、典子先生の安否を確かめる。


 典子先生は…………、


 「危ないねぇ…………たく」


 典子先生は無事だった。

 体から出ている複数の”黒い手のようなもの”が、棘の攻撃を受け止めていたのだ。


 巨人のような手の大きさ。


 数本の黒い手は、典子先生を守るように、周囲を囲っていた。


 グシャ…。

 黒い手が、棘を握りつぶす。


 凄い握力。


 「お返しだよ」


 そう言って、典子先生は懐から複数枚の黒式札を取り出す。

 さっき俺が使っていた物と同じものだ。


 「【乱札】」


 典子先生は、同時に”10枚の”黒式札を操る。


 黒式札一枚一枚が薔薇の怪異の周囲を高速で回ったり、軽く体当たりなどして、妨害する。


 一方の薔薇の怪異は、地面から巨大な蔓を生やして、黒式札を叩き落とそうとする。

 でも、黒式札はそれを躱したり、叩き落としてもすぐに復帰したりして、それは叶わない。


 『?!』


 薔薇の怪異には声帯が無いので無音だが、典子先生の操作する黒式札を大変煩わしそうにしていた。


 10枚の黒式札は、完全に薔薇の怪異を翻弄していた。

 さらに、典子先生は、もう10枚の黒式札を取り出す。


 「【縛札】」


 新しい10枚の黒式札と、今の10枚の黒式札が、規律正しく薔薇の怪異の四方を陣取る。

 次に、20枚の黒式札が薔薇の怪異を抑えつける。


 それにより、薔薇の怪異を拘束する。

 薔薇の怪異は、棘を出すことも蔓を操ることも敵わない。


 典子先生は、今20枚の黒式札を操作している。

 俺でも、同時に5枚が限界なのに、あの人は涼しい顔で。


 だけど、典子先生は、それだけに留まない。


 さらに、もう追加の黒式札を取り出す。


 「行きな【黒ノ手】」


 手に持った黒式札から、黒い霊力が溢れ、先程典子先生を棘から守っていた黒い手のような物が出てきた。


 あれも、典子先生の悪霊式・式神生成術の一つである。


 その名の通り、【黒ノ手】である。


 「しっかり掴みな」


 複数の黒い手のようなものは、黒い腕を伸ばして、薔薇の怪異の茎や蕾をがっしり掴む。


 20枚の黒式札での【縛札】で、拘束されている薔薇の怪異は、その黒い手を払うことはできない。


 掴んでどうするのか。

 さっき棘を握り潰すほどの強力な握力で握りつぶす?まぁ…それもある。


 でも、俺は知っている。


 悪霊式・式神生成術によって、生み出されたあの【黒ノ手】の真骨頂は、その大きな手で敵を握り潰すことでは無い。


 では、何か?

 それは、


 「吸い取りな」


 典子先生が指示を出す。


 すると、複数の【黒ノ手】で掴まれた薔薇の怪異に変化が訪れる。


 蕾にあった赤い花びらが一枚落ちる。

 そして、二枚目、三枚目。


 時間が経つごとに、蕾にあった花びらが落ちる。

 さらには、蕾そのものが干からび始める。


 まるで、水分を抜き取られたみたいに。

 それと同時に、薔薇の怪異から感じていた霊力の圧が急激に薄まる。


 元気を吸い出されているように。

 薔薇の怪異から感じる霊力の圧が、どんどんと無くなっていくのだ。

 これが、【黒ノ手】の真の効果である。


 薔薇の怪異は、何術もなく、そのまま消滅した。


 突如、発生した三級怪異は、典子先生の手によって、呆気なく片付いたのだった。




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