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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第四章 東京幼年霊法競技大会

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73鼠の怪異




 いきなり、典子先生から怪異の群れを倒せと言われ、若干困り果てる俺。


 「あれを………全部倒せと?」

 「ああ、そうだ」


 呆然とする俺に、無造作に頷く典子先生。


 「数十体以上も、いるように見えますけど」

 「良いじゃねぇか。実戦の方が稽古になるだろ。一週間後の東京幼年霊法競技大会で優勝したいんだから、あれくらいの怪異の群れは倒さねえとな」

 「はぁ…」


 俺はため息をつく。


 気まぐれである、この人は。

 とは言え、典子先生の気まぐれは、今に始まった事じゃない。


 けれど、ここで閃く。


 「もしかして、こうして俺に実戦経験を積ませるために、俺を裏東京に?」


 若干の希望を込めて聞くと、典子先生は何を言っているのか分からない表情をする。


 「は?何言ってる?裏東京に連れてきたのは、黒式札と、何かあった時のために、宵明に任せるためだ」

 「………そうですよね」


 うん、分かっていた。

 典子先生は、そこまで計画性のある人じゃないと。


 でも、これは良いチャンスだ。

 確かに、典子先生の言う通り、実践はかなりの経験値になる。


 『ちょっと待ちなさい、典子!今度は宵明君に、怪異の群れの相手をさせる気?!何かあったらどうすんのよ!』

 「大丈夫、大丈夫。何かあれば、アタシが助けてやるから」

 『何処が大丈夫よ?!てか…この流れ、また?!』


 常識人(妖怪だけど)の歌子さんが声を荒げる。


 「分かった、分かった。じゃあ、念のためにアタシの"護符"を宵明に貸すから」


 そう言って、典子先生は懐から、一枚のお札を取り出す。

 達筆な文字が書かれた長方形の札。


 それは、陰陽師にとって必須アイテムの霊符によく似ている。

 しかし、これは霊符ではない。


 護符というものだ。


 簡単に説明すると、持っているだけで、その護符に込められた霊術が、自動的に発動するものである。


 俺は典子先生からの護符をもらい、ポケットにしまう。


 すると、俺の体に合わせて、結界が張られた感覚がした。

 なるほど、「守りの護符」か。


 これなら、怪異からの攻撃を貰っても、護符が機能している限り、俺は無事な訳だ。


 さて…護符も貰ったし、怪異を倒しに行くか。


 俺は、さっきの通り魔の男を制圧するために【鉄生成】で作った刀もどきを、何回か振り回しながら、ゆっくり怪異の群れに近づく。




 『『『チュチュチュ』』』


 側にある建物の影に隠れながら、怪異の群れの様子を伺う。


 灰色の体に、長めの尻尾と出っ歯。

 怪異の正体は、鼠の怪異である。


 それが目に見える限り、百体ほど。


 たくさんの鼠の怪異が、建物と建物の間や周辺に蠢いていた。

 各々、街の地面に落ちているゴミを漁っては食っている。


 ポン!ポン!ポン!

 ここで、ゴミを食べていた鼠の怪異たちに変化が。


 『増えてる!』


 福丸が言う通り、ゴミを食べた鼠の怪異は、体を膨らませたかと思ったら、2つに分裂して、数を増やしていた。


 「そうだな。錆の怪異みたいに、何かを食べて、増殖するタイプか」


 なるほど、ああやって、こんなに数が増えたのか。

 裏東京の地面は汚いからな。


 「福丸、怪異の等級は?」

 『ニャ〜〜〜…みんな六級だね』


 気配に敏感な福丸が髭を揺らしながら、鼠の怪異が皆、六級と答える。


 一番下の六級。

 でも、これ以上放置すると、手がつけられないほど増える可能性があるな。


 早めに手を打たないと。


 俺は自身の術式【十二支将】を発動する。


 「出ろ。忠吉、ヨツミ」


 何もない空間に、白い光を現れる。

 次の瞬間には、人形態の忠吉とヨツミが召喚される。


 『『宵明様』』


 召喚された忠吉とヨツミは、一斉に膝をつき、こうべを垂れる。


 俺は2人に、これから鼠の怪異の群れを退治するから、手伝ってほしいと言う。


 いくら一体一体が六級でも、あの数なら人手が必要だからね。

 この2人は、人ではないけど。


 『わぁ…凄い数ですね。僕と同じ鼠さんですか』

 『ふ…ようやく私に相応しい命令が来ましたか』


 忠吉は鼠の怪異の数に驚き、ツヨミは不敵に笑いながら懐から苦無を取り出す。


 よし、やるか。

 俺は左腰にあるポーチから、式札を10枚取り出す。


 悪霊用の黒式札ではなく、通常の式札。

 その式札には、既に俺が式神生成術を使って、霊体を降ろしている。


 俺は、10枚の式札を鼠の怪異の群れ目掛けて、投げ込む。


 「【式神弾】」


 投げた10枚の式札は、霊力を放出させて、勢いよく飛翔する。


 ドン!ドン!ドン!

 霊力を纏った式札が、鼠の怪異たちがいる集団のあちこちに飛ぶ。


 これは、降ろした霊体の霊力を全解放させて、一発限りの弾丸として飛ばす【式神弾】。


 『『『チュチュチュ?!』』』


 【式神弾】の着弾で、鼠の怪異たちは混乱する。


 こちら側が少数であり、相手が多数。

 さらに、敵側がこっちに気づいていない時は、強襲が最も適している。


 「今だ!」


 俺は隠れていた建物から飛び出し、怪異たちに躍り出る。

 それと同時に、忠吉とヨツミも動き出す。


 「は!せ!ふ!」


 刀もどきで、鼠の怪異をどんどん斬っていく。


 しっかりと一撃一撃に、腰を入れて斬ることで、正確な威力が出る。

 鼠の怪異は、一撃でただの霊力へと消滅する。


 『『『チュチュ!!』』』


 鼠の怪異たちは、早速俺を敵と認識して、襲いかかる。


 「我らを守る壁となれ【簡易結界】」


 俺は詠唱により、【簡易結界】を展開する。

 【簡易結界】に、ぶつかったり、齧り付く鼠の怪異たち。


 【簡易結界】は、短い詠唱かつ、少ない霊力で展開できる。

 たとえ壊れても、すぐに新しい【簡易結界】を貼り直せる。


 展開した【簡易結界】を、盾や壁のように使い、囲まれることを防ぐ。


 でも、結界だけでは物足りない。

 俺はポーチから式札の束を取り出す。


 式札の束を、空中に投げ出す。


 「【乱札】」


 その式札を、指令を出しながら、霊力を使って操る。


 操った式札は、小さな鳥のように宙を舞い、鼠の怪異たちの隙間を縫って、視界の邪魔をしたり、足を止めさせたり。


 これは、式札を使った式神術である。

 霊体を降した式札に指令を出して、敵を攪乱させる技。


 今の俺なら、複数の式札を別々で操るのは、御茶の子さいさい。


 【乱札】によって、鼠の怪異たちの注意も分散される。

 その隙を狙って、刀もどきで斬りつける。


 こっちは、順調である。


 一方の忠吉とヨツミはと言うと、


 『う、うわ?!』

 『鼠、そのまま怪異どもの注意を引きつけろ』


 戦闘能力皆無の忠吉は、ひたすらに逃げ回っていた。

 その逃げ回る忠吉を、鼠の怪異たちが追う。

 その忠吉を追っている鼠の怪異たちを、ヨツミが仕留めていた。


 ヨツミは、周囲に建物があることを利用して、壁に張り付いてから、


 『は!』


 くノ一らしい軽やかな身のこなしで、飛びかかる。

 そして、苦無で斬りつける。


 そのままなら、鼠の怪異たちの囲まれるだけだが、


 『【跳躍】』


 そのまま飛んで斬りつけたまま、ヨツミは人形態での術式【跳躍】を発動して、空中でジャンプを行う。


 ゲームでよくありそうな二段ジャンプを決め、また周囲の建物の壁に張り付く。

 その後、また飛びかかり、斬りつけては、【跳躍】で離脱。


 これの繰り返し。

 まさに、空中殺法。


 【跳躍】は、空中に見えない足場があるみたいに、一回ジャンプが出来る。


 【跳躍】出来るのは一回だけだが、【跳躍】の後に、何処かへ着地するか、壁に張り付くなりすると、また使えるようになる。


 『わわ?!』


 ここで、忠吉が鼠の怪異たちに群がられ、噛みつかれて消滅する。


 俺の霊力で作られた式神は、一定以上のダメージを受けると、消える。


 怪異が六級でも、多数から攻められれば、戦闘力の無い忠吉は、すぐにダメージを受けて、消えてしまう。

 でも、大丈夫。


 『【子孫繁栄】』


 俺の頭の中に、忠吉の声がする。


 『復活です!』


 俺のそばで、忠吉が無傷のまま復活する。


 復活した忠吉は、また走り出し、鼠の怪異たちの一部の注意を引きつける。


 人形態での忠吉の術式は、【子孫繁栄】。

 これがあれば、俺の霊力が尽きない限り、何度も復活が可能なのだ。




 こんな感じで、百体ほどいた鼠の怪異も、俺、忠吉、ヨツミにより、瞬く間に数を大きく減らした。


 けれど、数が全体の3分の1以下まで減らした時、


 『『『チュ!チュ!』』』


 残りの鼠の怪異たちが、一か所に集まり始める。


 この現象、見覚えがある。

 前にやった工業施設の廃棄場での、錆の怪異退治でも見たことがある。


 一箇所に集まった鼠の怪異たちは、やがて一体の大きな鼠の怪異となる。


 『チュー!!』


 『衆合』である。

 弱い怪異たちが徒党を組んで、一体の強い怪異へと変貌する偶に起こる現象。


 「福丸、こいつの等級は?」

 『う〜ん…五級…いや、四級かな』

 「四級か。慎重に行くか」


 陰陽師や霊衛に、六級から一級まで等級があるように、怪異にも等級がある。


 四級は、通常なら陰陽師や霊衛になりたてのものならば、多人数で徒党を組んでも、被害が出ることが多い。

 典子先生から貰った守りの護符があるとは言え、今の俺には油断していい相手では無い。


 これが、三級なら即逃げ一択だった。


 『おっきい鼠さんですね。僕も鼠ですが』

 『ふん、鼠風情が大きくなったところで、たかが知れています』


 忠吉とヨツミが、俺の両隣に来る。


 だが、そこで俺はあることを考えつく。


 「2人とも、ちょっと良い?2人だけで、あの怪異の注意を引き付けてほしい。でも、倒そうとしないで」

 『引きつける?』

 『宵明様、どう言うことですか?』


 俺の言葉に、忠吉とヨツミが首を傾げる。


 「あの怪異は、悪霊式・式神生成術で倒したい」


 俺はそう言って、さっき典子先生が買ってくれた黒式札をポーチから取り出す。


 典子先生直伝の式神術をとくと見よ。




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