077円柱結界
「ぼっちゃま、一位でしたね!凄いです」
「おにぃ、一位!」
九十九神楽家族組がいる観客席に戻ると、早速婆やと茉昼が笑顔で迎えてくれる。
「やるじゃないか!」
パチパチ。
澪姉は元気よく背中を叩き、利久は、静かに拍手をしてくれた。
「「………」」
鈴姉はお行儀よく観客席に座り、籠目義母さんのそばにいる縁姉は読書に夢中。
どっちも、俺の事なんて関心なさそうである。
「「………」」
一方で、無言で俺に視線を送る2人。
少し目を細めて俺を見る幸子義母さん。
俺と、俺の母に対抗意識を持つ幸子義母さんは、俺が活躍するのは、あまり嬉しくないのだろう。
そして、眼鏡越しに俺を観察するように見る籠目義母さん。
まるで、研究者。
いや、まるでもなにも、"籠目義母さんは研究者"か。
籠目義母さんの考えてることは、よく分からない。
この人は、一回目の人生でも、殆ど俺も関わらなかったから。
「宵明ちゃん、おめでとう!」
「早速一位ですね!」
「ほっほっほ、練習の成果がでとるのぅ」
『凄いわ』
『しっかり見てたポン!』
今度は、鈴木事務所組の観客席に行ってみると、千景さん、理人さん、関助さん、ヨルルさん、歌子さんが祝福してくれる。
皆んなが喜ぶ中、潤一平先生は腕を組んで、口をへの字にする。
「ま、俺の教え子なら、当然か」
「これ、潤坊!しっかり褒めんか!」
「いて?!」
関助さんが、潤一平先生に軽く拳骨をする。
「全く、潤ちゃんは…本当は宵明が一位になれて嬉しいはずなのに」
「変なところで意地を貼りますね」
千景さんと理人さんが苦笑いしながら、潤一平先生を見ていた。
「ぐぅ…」
ところで、大会が始まる前から観客席で眠っていた典子先生だが、まだ寝てる。
『コラ、典子!起きなさい!』
『そうポン!自分の教え子がいるのに、寝てるとは、先生失格!』
「ふぎゃ?!何だ?」
ヨルルさんが銀色の尻尾で、歌子さんがフワフワの尻尾で、典子先生の頭を叩く。
慌てて起きる典子先生。
口から涎を垂らしながら、寝ぼけ眼で辺りを見渡し、もう大会が始まっている状況を理解する。
「んあ、もう始まってんのか。まぁ、宵明が優勝掻っ攫うだろ」
「いいえ、そう言うわけにも行かなそうです」
典子先生の言葉を否定した理人さんは、手元の紙を見る。
それは、この大会の参加者名簿。
「さっきの宵明君と同じA組には、賀茂家の子がいました。ほら、さっきの競技では、宵明君に次いで二位だった」
「賀茂家…御三家。そりゃあ、大物じゃの」
関助さんは、しんみりとした表情をする。
「ええ…しかし、賀茂家だけではありません。予想はしていましたが、他のにも、著名な陰陽師の名家が参加しています。例えば、B組では、鷹司家や西園寺家、天城家。C組では、土御門家に、月代家。D組なら、九条家。そして…九十九神楽家」
「ひゃあ、賀茂家に九十九神楽家。御三家じゃん!そんな凄い家の子と、宵明ちゃんは競うんだ。大変だね…」
「っ?!」
九十九神楽と聞いて、つい俺は反応してしまう。
D組の九十九神楽家とは、匠兄のことだ。
鈴木事務所のみんなは、俺が同じ九十九神楽だと、梅雨知らず。
俺のことは、ただの一般家庭の子だと思っている。
それから、B、C、D組の霊導玉による霊力操作の競技が終わり、次の競技に入る。
ちなみに、D組で、一位を取ったのは、匠兄。
やっぱり匠兄は手強い。
さぁ、霊力操作の次は、結界術だ。
会場に運ばれてきたのは、一枚の霊符と、小さいプラス機なような機械。
これで何をするのかと言うと、今から用意された霊符を使って、プレス機の中に、結界を構築するのだ。
そして、構築した結界を、プレス機が荷重をかけて、強度を計測する。
そうして主に、結界を展開する速度、精度、結界自体の強度などを測定し、最も優れた者が一位となるのだ。
プレス機自体は一つしかないので、1人ずつ結界構築を行う。
俺はA組4番。つまり、4番目だ。
「始め!」
職員の掛け声で、A組1番の男子が、霊符で結界を構築し始める。
「我らを囲む霊の力よ、そして天地に満ちる清き流れよ。我が声に応じ、我が意に従い、ここに集いて形を成せ。四方を巡り、境を定め、内と外とを隔てよ。
その境を堅く閉ざし、何者をも無断で越えさせるな。
内なる者を守り、外なる災いを退ける、堅牢なる守護の壁となれ【結界】」
【簡易結界】の省略された詠唱とは全く違う、フル詠唱。
普通なら、覚えて噛まずに言うのも、幼い子には大変だろう。
詠唱によって、プレス機の下に生成される結界。
生成された結界の形状は、立方体。
バランスの良い綺麗な形状の結界である。
流石、あの子も陰陽師の名家なのだろう。
構築速度も、精度も高い。
でも、勿体無いのが、やはり立方体という形状。
上から広く平らな壁がプレスするために降りてくる。
プレス機が構築された結界を押し潰そうとする。
最初はまだ耐えられた。
でも、時間が経つごとに、プレス機の荷重は増していき、次第には。
パリン…。
「ああ?!僕の結界!」
結界を構築した男の子が、声を上げる。
結界は見事に破られる。
そこから、複数人の職員による結界術の点数が採点される。
「点数は…32点!」
その後、結界構築に掛かった時間、精度、強度に応じて、総合的な点数が言い渡される。
この競技での、結界構築は一回だけの一発勝負。
それから、A組2番、A組4番の子が結界を構築する。
それぞれ、28点と30点。
そして、次は俺の番。
俺は霊符を握りしめる。
職員の人の合図を聞いて、俺は即座に詠唱を開始する。
「我らを囲む霊の力よ、そして天地に満ちる清き流れよ。我が声に応じ、我が意に従い、ここに集いて形を成せ。四方を巡り、境を定め、内と外とを隔てよ。
その境を堅く閉ざし、何者をも無断で越えさせるな。
内なる者を守り、外なる災いを退ける、堅牢なる守護の壁となれ【結界】」
前の3人のこと同じ、フル詠唱だ。
構築速度や精度は、悪くないはずだ。
俺には、一回目の人生の知識と経験がある。
さらに、典子先生と同じ三級陰陽師であり、結界使いである関助さんから、稽古の休憩時、結界術をちょくちょく教わっていた。
俺はプレス機の下に、結界を構築する。
その形状は、円柱である。
上と下の面の円部分を広くして、側面の部分の高さを出来るだけ、短くした。
円柱結界だ。
過去の大会の映像で、プレス機で結界の強度を測るのは、事前に周知済み。
ならば、そのプレス機に中々潰されない結界を作るのが、効果的。
それが、円柱。
ガリ…。
プレス機が俺の円柱結界を押し潰そうとするが、そう簡単に潰れない。
「耐えろ…」
思わず呟く。
最初の子が、立方体の結界を作ったが、あれは負荷が角に集中してしまう分、最も上からの荷重に耐えられない形状だ。
そこで円柱は、上から加わる力を円形の断面全体で受け止め、周囲へ均等に分散させる。
だから、力が一か所に集中しにくく、押し潰されにくい。
さらに、柱を太く低くすれば、横へ曲がったり折れたりもしにくくなる。
これぞ、物理学。
パリン!
荷重を徐々に増すプレス機には、耐えられなかった。
でも、かなり耐えたぞ。
「点数は……おお!58点!」
職員が、つい驚きの声を出す。
俺で、まだ4人目だが、職人の反応から、相当高い点数なのだろう。
「よし!」
俺も、ついガッツポーズをしてしまう。
ジ…。
でも、その時、周囲から数人の視線を感じる。
それは、俺と同じ参加者の子供たち。
数人が俺を睨んでいた。
敵意を込めて。
俺が終わり、A組5番、6番、7番、8番、9番…10番の賀茂若葉の番へ回ってくる。
緑色のおさげの女の子が、前に出る。
「始め!」
職員の掛け声で、賀茂若葉が、霊符で結界を構築し始める。
「天地に満ちる霊よ、内なる者を守り、外なる災いを退ける壁となれ【結界】」
短い詠唱で、真球の結界を構築する賀茂若葉。
「な?!詠唱省略!」
俺は目を見張る。
それは、本来なら長い詠唱をしなければいけないものを、短く省略する技術。
単純だが、高等テクニック。
俺よりも、ずっと結界術が秀でている。
前に、典子先生が式札に霊体を降ろす際に、やっていた式神術の詠唱省略。
あれの結界術バージョンだ。
俺と同年代で高度な結界術。
やはり、賀茂家か。
賀茂家は、結界術を司る陰陽師家。
きっと、俺が剣術や式神術の稽古に費やしてきた時間を、賀茂若葉は結界術の鍛錬に全て降ってきたのだろう。
賀茂若葉の真球の結界は、俺の円柱結界のように、かなりプレス機の荷重に耐えたのち、割れる。
結界の構築速度は、詠唱省略した分、間違いなくA組で1番早い。
精度も高かった。
果たして、賀茂若葉の総合点数は?
「点数は…なんと!61点!」
俺を超えている。
結果的に、それがA組での結界術最高得点だった。
そして、後のD組の最高得点は、匠兄の55点である。




