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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第四章 東京幼年霊法競技大会

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68ライバル1人目




 可笑しいそうに笑う塗壁の八重。


 「優勝出来ない?俺だって、2人の先生の元で、稽古してるんだ。同年代なら負けるつもりないけどね」

 『ふん!アンタって、鈍臭いから。きっと、うっかり転んだり、凡ミスしたりするのよ!』


 自信ありげに言う八重。


 くっ!

 ありそうで、強気に言い返せない。


 確かに、潤一平先生や典子先生からも、俺は最後の最後で詰めが甘い部分があると言われることがある。


 『こら、八重。宵明を揶揄うんじゃない』

 『はーい!』


 父親である十兵衛の言葉に素直に従う八重。


 『すまねぇな、宵明』

 「あ、うん…別に気にしてないから」


 頭を下げているつもりなのか、大きな壁を傾ける十兵衛。

 俺は気にしてないと言う。


 そんな俺たちをニコニコで見ている八重。


 本当に、この親子は性格は似てないな。

 似ているのは、見た目と能力ぐらいか?


 塗壁は、日本の九州北部で伝わる。

 夜道を歩く人に、行手を遮る壁の妖怪。


 昔は病気に対する治療が乏しく、病により歩行困難になった人が、妖怪のせいだと思い始めてのが原因と言われている。


 その言い伝え通り、塗壁は他の様々な壁に擬態することができ、自身の身体を透明にさせ、見えない壁となることも出来る。


 さっき俺が見えない何かにぶつかって、尻もちを付いてのは、八重が透明になっていたからだ。


 八重に水を刺されたが、俺だって、5歳から三級霊衛の潤一平先生と三級陰陽師の典子先生から、教わった身だ。

 さっきも八重に言ったが、同年代には負けるつもりは無い。


 ………少なくとも、俺が知る同年代が参加しない限りは。


 チラッと、俺は凪桜を見つつ、取り敢えずトイレに行った。




 トイレから戻ってくると、


 「ねぇ…宵明。一勝負しよう」


 凪桜が、そう言ってくる。


 その邪気のない蒼い目を、俺に向けて。


 彼女の手には、小さな木刀があった。

 凪桜自身が家から持ってきたものだろう。


 「良いよ」


 俺は軽く了承する。


 "今日も"か。


 凪桜と関わる機会が増えたのと同時に、よく俺は凪桜から、剣の試合を頼まれる。


 幼い子供同士がやるようなチャンバラでは無い。

 互いに木刀を使った、ちゃんとした試合だ。


 これまで、何度も試合をした。


 一年前、凪桜がここで従家である槍山家の連を倒してから、彼女の中には、剣に対する強い関心が生まれたように伺える。


 ちなみに、凪桜には、一度も勝てていない。


 俺はいつも素振りに使っている木刀を持って来る。


 そして、庭の広い場所に行き、5メートルほど離れて、お互い持っている木刀を構える。

 どちらも正眼の構え。


 「ふむ…」

 「おにぃ!おねぇ!頑張れ!」


 それを遠目で見る春桜さんと茉昼。


 「「………」」


 一方の俺と凪桜は、無言で互いの顔を見る。


 開始の合図は無い。

 いつでも初めてオッケーだ。


 ヒュ…。

 その時、俺たちの間に、小さな風が流れる。


 結果的に、それが開始の合図になった。


 タン!

 いきなり目の前の凪桜の姿があった。


 既に、木刀を振り上げ、後は振り下ろすだけの態勢を取っている。


 瞬間移動なんかでは無い。

 彼女の常人ではない移動速度の踏み込みによって、いきなり目の前に現れたように見えただけだ。


 「っ!?」


 俺は目を見開きつつ、何とか凪桜の動きの反応する。


 素早く、持っている木刀を上へ水平に構える。


 バン!

 凪桜の振り下ろしと、俺の守りがぶつかる音がする。


 重い!俺と同い年の威力とは、思えない!

 木刀を持った俺の両腕が、少しだけ痺れる。


 ガタイが良いとは言えず、寧ろ華奢な身体の凪桜。


 6歳の女の子の振り下ろしても、あれほど速い動きが加わると、こんなにも剣が重いのか。


 潤一平先生の日々の剣術稽古と、事前に凪桜はとても速いという事を知っていたからこそ、防御が出来た。


 「はあ!」


 気合を入れて、俺は反撃を行う。


 水平に構えた防御の態勢から、木刀を返し、左上から右下へと打ち込む。

 凪桜の右腕を斜めに斬り下ろすみたいな軌道だ。


 でも、


 「うっ?!」


 カン!

 その籠手狙いは、簡単に凪桜の右の払いで弾かれる。


 そして、弾かれ、俺の木刀が左へ大きく逸れたところを狙って、凪桜は右の払いから、そのまま突きに移行。


 無駄のない動作。


 彼女から見たら、右側から、俺の腹部に向かって、木刀を突く。


 「がは?!」


 腹部に衝撃を受けた俺は、情けない声を上げながら、尻もちを付く。


 透明になって八重にぶつかった時も尻もちを付いたが、本日二回目の尻もちである。


 完全に、凪桜の一本取られた。

 一回戦目は、凪桜の勝ち。


 「大丈夫?」


 立ち上がろうとすると、凪桜は手を差し伸べてくる。


 俺は彼女の綺麗な手を取り、立ち上がる。


 そして、木刀を再び構える。

 凪桜も同じ。


 二回戦目である。


 タン!

 また、凪桜が目にも止まらぬ速さで、踏み込む。


 今度は、防御せずに、後ろに下がる。

 木刀が鼻先をかすめる。


 俺は躱した直後に、持っている木刀の先で、凪桜の木刀を抑える。

 握り手に力を込めて、しっかりと。


 そのまま、木刀を下に抑えたまま、斜め上へ逆袈裟を行おうと思った。


 けれど、俺に押さえつけられていた木刀も、凪桜は容易に、手首を捻り、逃れる。


 自由になる凪桜の木刀。

 一方、俺の木刀は、下に押していたこともあり、押さえつけるものがなくなり、地面に木刀が着く。


 一瞬、無防備になる俺に、


 「う?!あ?!ぐが?!」


 続く速い剣筋からの右払い、袈裟切り、振り上げの三連撃を食らう。

 反撃の余地も無い連撃。


 二回戦目も、凪桜の勝ち。


 一向に勝てる気がしない。


 凪桜の動きも剣も速い。

 剣術も巧い。


 俺も努力してるのに、凪桜は何もかも違いすぎる。


 「すぅ…はぁ…」


 俺は深呼吸をする。


 普通に、戦っていたら、凪桜に何て勝てない。

 だから、使うか。


 練気を。


 練気を編み物のように複雑に組んだ霊力。

 これにより、身体能力を強化させる。


 練気を身体中に纏う。


 己の肉体や武器で、怪異や妖怪と戦う霊衛にとっては、必須技術。


 であるのだが…鈴木事務所の小野寺理人さん曰く、練気は習得自体、かなり難しいらしい。

 才ある霊衛の中でも、10歳になる前に練気を習得する者は、極一握り。


 同い年の女の子相手に使うなんて、大人気ないが(まだ子供だけど)、俺だって勝ちたい。


 「ふ!」


 身体能力を底上げした俺は、思いっきり踏み込む。


 今度は、こっちが初手に攻撃側。


 踏み込みながら、木刀を振り上げる。

 一回戦目の凪桜と同じ動き。


 至近距離からの振り下ろし。


 凪桜みたいに速さだけの振り下ろしではなく、練気による上がった腕力で、力と速度の乗った振り下ろし。


 でも、上がった動体視力で見た間近の凪桜の顔は、全く焦っていなかった。


 スカ。

 俺の振り下ろしは、左足に重心移動して、半身になった凪桜に簡単に躱される。


 受けるのは、危ないと思った凪桜は、回避を選んだのだ。


 「は!」


 回避されるのは、百も承知。


 俺は、振り下ろした木刀を刃を上に返して、腕力で無理やり、振り上げる。


 俗に言う、燕返し(もどき)だ。


 真下から右上への振り上げ。


 「うりゃあ!!」


 これまでで、最も気合の入った声。


 そんな振り上げに対して、凪桜は…トン。

 軽く右足を木刀に沿える。


 次の瞬間、俺の振り上げに合わせて、凪桜が"空を飛ぶ"。


 比喩表現ではなく、マジで空を飛んだ。

 俺は口を大きく開く。


 凪桜が地面に付いた左足を、地面へ垂直に踏み込み、ジャンプしたのだ。


 それだけでなく、思いっきり振り上げる俺の木刀に右足を乗せたことで、さらに上に行く力を得たのだ。


 10メートル以上、上に舞い上がる凪桜。

 上に行き、空中で静止。


 天に存在する凪桜に、神秘を感じる。


 しかし、それも重力の影響を受けて、また下へと戻される。


 シュン!

 その落ちていく勢いを活かして、凪桜が真っ直ぐ上から下へと唐竹割りを繰り出す。


 俺は、また木刀を水平にして防御する。


 「うひゃ?!」


 これまた情けない声を出しながら、俺は地面にうつ伏せに倒れる。


 空からの一撃は、戸惑っていたとは言え、俺の防御を押しのけ、俺を地面へ叩きつける。


 また負けた。

 3戦3敗。


 練気を使って尚、勝てないのど。


 『ほーら!友達すらも勝てないじゃん!』


 俺と凪桜の試合を観戦していた八重が、ケラケラと笑いながら野次る。


 『八重!』

 『うぎゃ?!』


 そんな八重に拳骨を落とす十兵衛。


 『宵明様、凪桜様。どうぞ』


 屋敷に雑用を主にしている人形態の忠吉が、2つのタオルを俺と凪桜に渡す。


 俺はともかく、汗一つかいていない凪桜には不要だと思うが。


 「凄いですね、凪桜ちゃんは」

 「そうだな」


 汗を拭いていると、2人の声が聞こえてくる。


 いつの間にか、婆やが来ており、春桜さんのそばに座っていた。


 「春桜さんにも、剣の才能がありましたが、ひょっとしたら凪桜ちゃんは、貴方と同等…」

 「いや、それ以上じゃ」


 春桜さんが、婆やの言葉を切る。


 春桜さんにも、剣の才能。

 そう言えば、前に春桜さんが凪桜と一緒に屋敷に来た際に、春桜さんは剣の振り方を見せてくれた。


 洗練された動きだから、もしかして、昔は強い剣士だったのでは?

 そう思った。


 「凪桜は間違いなく、神木の血筋を受け継いでおる。あの子が、剣士としての道をいくのなら、遠からず、ワシを容易に超える剣士になるだろう」


 それは、俺も同意である。


 天賦の才。

 まさに、凪桜は剣の天才。


 春桜さんや何処かで、剣を習ったわけでも無い。

 勘だけで、剣を操作しているのだ。


 槍山虎太郎が、凪桜を見て、剣士としての鬼才を感じると言ったのも、頷ける。


 「だが、凪桜には、それだけでは無い」

 「それだけじゃない?凪桜ちゃんに、何か?」

 「凪桜は、もしかしたら……我が一族が信(・)仰(・)していた………」


 春桜さんが、凪桜に関して何か言おうとした時、


 「おねぇ、カッコいい!!」


 茉昼が大声で、縁側から凪桜に駆け寄り、抱きつく。


 お陰で、春桜さんの言葉が、最後まで聞こえなかった。

 取り敢えず、額を汗を拭く。


 「………宵明」


 凪桜が俺に話しかける。


 「うん?何だ?」

 「私も、その大会に出て良い?」

 「へ?」

 「霊衛部門に出てみたい」

 「な、凪桜が出るの?!」

 「うん」


 突然の言葉に、俺は思考が一瞬停止する。


 大会に出る?

 大会というのは、さっきまで話していた東京幼年霊法競技大会のことだ。


 まさか、参加するということか?!


 俺は顔を引き攣らせる。

 だって、大会で優勝しないといけないのに、霊衛部門には、凪桜という強力なライバルがいることになる。


 優勝が、一気に絶望的になった。




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