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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第四章 東京幼年霊法競技大会

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65あと2か月




 その日は、12月31日。

 その年の最後となる日…大晦日である。


 大晦日の夕刻。


 九十九神楽に連なる多くものが、九十九神楽本邸の大広間に集まっていた。


 「皆、一年ご苦労であった」


 俺の祖父である九十九神楽巌(いわお)が、厳かな声で言い出す。


 「今年もまた、多くの者が九十九神楽の名を背負い、それぞれの務めを果たしてくれた。怪異を討った者、傷ついた者を支えた者。そして、この家を守り、子供たちを育ててくれた者。その働きに軽重は無い」


 爺ちゃんが、大広間に居る皆んなを見渡す。


 「中には、己の術式に向き合う者、強くなろうとする者も居た」


 爺ちゃんの視線が、俺と匠兄の2人を交互に捉える。


 でも、それは一瞬。

 すぐに、視線を大広間全体に戻す。


 「当主として、皆がこうして無事に年を越せることを、何より嬉しく思う。九十九神楽の名は、己を大きく見せるためにあるものではない。力を持たぬ者の前に立ち、災いを引き受けるためにある。来年も、そのことだけは忘れるな」


 そこまで言ったところで、爺ちゃんはさっきまでの厳かな声を変えて、柔らかい口調にする。


 「もっとも、今夜まで堅苦しく過ごす必要はない。役目も階級も忘れ、家族として食い、飲み、笑え。子供たちは夜更かししすぎぬようにな」


 大広間に、小さいながらも笑い声が響く。


 爺ちゃんは、テーブルの上に置かれている酒の入った杯を手に取り、掲げる。


 「来年の暮れにも、欠けることなく、この顔ぶれで集まれることを願う。今年一年の働きと、来る年の無事を祈って…乾杯!!!」

 「「「「「乾杯!!!」」」」」


 爺ちゃんの乾杯の宣言を皮切りに、大広間にいる者全員が、乾杯を言い合う。


 そして、大広間に居る皆んなは、目の前のテーブルに置かれたご馳走に手を出す。


 それは、俺と匠兄の5歳の誕生日会の時以上に、手の込んだ料理が並んでいた。


 今日は九十九神楽家恒例の、その年最後の日を祝う会。

 九十九神楽に連なる者が集まり、互いに話し合い、食卓を囲う日である。


 一流の料理人たちが作った食事が並ぶのも当然。

 皆んなが料理に舌鼓を打つ。


 でも、俺は………、


 「おにぃ、これ美味しいよ!」

 「ショウちゃん、たくさん食べよ!」

 『もぐもぐ…』

 「うん、そうだね」


 俺の左右隣にいる妹の茉昼と巴母さんが、笑顔で話しかけ、福丸は俺の膝の上で、すでに魚の刺身にありついている。


 俺も笑顔で、2人に答える。


 だけど、その笑顔もすぐに真顔に戻す。

 思案をしながら、黙々と食事を取る。


 豪華な食事を楽しむ余裕は、今の俺には、少し無かった。


 今後について考えていたからだ。

 それは、


 「ぼっちゃま、お茶のお代わりは?」

 「……貰う」


 婆やが空になった俺の湯呑みにお茶を注ぐ。


 そんな婆やを、俺は静かに眺める。


 爺ちゃんは、来年の暮れにも、欠けることなく、この顔ぶれで集まれることを願う…と言ったが、このまま行けば、その願いは叶うことがないと知っている。


 何を隠そう、来年の2月に婆やが死ぬからだ。


 ずっと俺の世話をしてきて、祖父同然の婆やは、今から2ヶ月後に、妖怪に襲われ、大怪我を負って病院で死亡が確認される。


 思い出すのは、一回目の人生の時に、病院で既に冷たくなっている婆やの遺体。

 俺は何も出来なかった。


 3年以上前から過去に戻ってきて、九十九神楽や俺の家族、親しい人の不幸を回避するために、強くなろうと努力したけど、ついに…その努力が試される時が迫ってきた。


 あと2ヶ月しかない。


 期限が迫っている。


 そう考えると、美味しいはずの料理も、余り喉を通らず、味も感じにくい。




 料理がある程度食べられてくると、大広間の皆んなは飲み物などを持ったりして歩き回ったり、仲の良い人同士で会話し合う。


 「巴…陰陽師の職務、ご苦労様です」

 「文ちゃんも、いつも子供たちを見てくれて、ありがとう。あ!光希くんも、こんにちは!」

 「……………うん」


 巴母さんと文世義母さんは、互いに親しげに会話をしていた。


 いつものように、文世義母さんの後ろにいる弟の光希は、恐る恐る巴母さんに返事をする。


 「シャボン玉!シャボン玉!」

 『凄い水玉の数』

 「まだまだ増やせるぞ」


 姉の澪が、自身の周囲に拳台の水の玉を生成して、いくつも浮かべていた。

 あれは、澪姉の水の術によるもの。


 茉昼と福丸が、面白そうに眺めたり、水玉を突っついたりしている。


 巴一家と文世一家が、親しく交流している一方、


 「籠目さん、本年もお世話になりました。来年も、どうぞ宜しくお願いします」

 「…はい……幸子さん。来年も、宜しく…お願いします」


 幸子義母さんが、大晦日らしい挨拶を言ったのに対して、抑揚のない声で話す女性。


 彼女は、俺の父の3番目の妻である九十九神楽籠目(かごめ)。


 若草色の髪を短く切り、小柄な体格。

 特徴的な丸眼鏡は、理知的な印象を持たせる。


 普段は余り他人と関わろうとしない幸子義母さんだけど、籠目義母さんに至っては、同じ陰陽師の名家出身。


 そういった経緯から、こうして皆んなが集まる催しの際は、よく話したりしている。


 幸子義母さんの子供たちはというと、


 「姉ちゃん、兄ちゃん。これ…美味しいね」

 「……そうね」

 「そうだな」


 幸子義母さんの息子である利久が、同じく幸子義母さんの娘と息子である鈴音と匠に話しかけるが、2人の反応は、無表情で素っ気ないものである。


 冷たい。


 相変わらず、鈴姉と匠兄も、こういう場でも誰かと話したり、騒いだりしない。

 利久は、少し委縮して、黙ってしまう。


 「………」


 そして、大広間の隅で、物置のように、身動きせずに、本を読む女の子。


 籠目義母さんと同じ若草色な髪の女の子。


 あの子は、俺の姉であり、籠目義母さんの娘の九十九神楽縁(ゆかり)。

 九十九神楽の第四子に当たる子だ。


 縁姉も、相変わらず、本の虫である。


 俺の方は…と言うと、大広間の縁側から空を見ていた。


 空には、いくつかの光の点が見える。

 星だ。


 ここは、東京都内なので、星なんて余り見えない。


 もっと田舎の方に行けば、凄い星空を見れるのだろうか。

 でも、光り輝く一等星は見える。


 2ヶ月後に訪れる婆やの悲劇への焦りを紛らわすために、星空をぼんやりと見ていた…その時、


 「どうしたんだい、宵明。なんだか、辛そうな顔は……見えないけど、気配を出しているね」


 爽やかで、とても優しい声が降り注ぐ。


 その人は、


 「真兄(しんにい)……」


 女性のような美しく長い黒髪に、いつもの目元を覆う布を付けた俺の二つ上の兄がやってきた。


 九十九神楽家の第一子であり、長男の真である。

 俺が最も頼りにしている人の1人。


 「辛そうな気配出してた?」

 「そうだね。何というか、焦りと不安…それに、後悔の気配を感じるね」


 真兄は"呪い"のせいで、生まれつき病弱な体質をしている。


 さらには、真兄自身の術式により、普段は目を布で隠しているため、視覚が遮断されている。


 なので、真兄は視覚の代わりに気配を感じるのが得意なのだ。


 それにしても、俺のネガティブな感情が、気配で出ていたのか。

 負の感情を持っているのは、あんまり身内に、知られたくないのだが。


 「ちょっと…嫌なこと考えちゃって。それで、ネガティブになったのかも」

 「そうか。でも…私には、ちょっと…ではないような気がするな」


 中々、真兄は鋭い。


 このまま一緒に居ると、心の中を本当に見透かされそうだ。


 「一体、何に悩んでいるんだい?」

 「それは……」


 俺は口をつぐむ。


 二回目の人生を歩んでいる俺は、未来を知っている。

 絶望的な未来を。


 俺は、殺されて過去に戻ったんだ。


 それを今ここで、話したとしても、与太話にしか聞こえない。


 実は、前々から真兄にだけ、俺が過去に戻ったという事情を話そうかと考えた時が、何度かあった。

 でも、話せてない。


 俺が何も言葉を使わないでいると、


 「ふふ…話したくないか。悩みは自身の弱みでもあり、その弱みを他者に吐露するのは、勇気が必要だからね。無理に話さなくていいよ」

 「あ…えっと、ごめん」

 「謝らなくていいさ。私は宵明の兄であり、いつだって宵明の悩みを聞くし、宵明の力になるさ」

 「ありがとう…真兄」


 暫し、俺と真兄との間に沈黙が降りる。


 12月最後の夜は、肌寒いけど、何故かこの縁側だけは少しだけ暖かい気がする。


 ややあって、真兄は徐に、目元の布の手を掛ける。


 「久しぶりに、弟の顔でも拝もうじゃないか」

 「え?」


 俺が首を傾げる中、真兄は唐突に目元に掛けてある布を取るのだった。


 「………綺麗」


 思わず言ってしまう。


 現れたのは、縁側から見える一等星と同じく、美しく輝く真兄の2つの眼。

 とても小さな星が埋め込まれているのかと疑いたくなるぐらい、真兄の持つ紫の眼は、綺麗であった。


 「おや…宵明も、また見ない内に大きくなったなね」


 真兄が微笑み、俺の肩に手を置く。


 情弱な体質故に、痩せ細った手であるけど、なんだか力強さを感じさせてくれる。


 「まだ、俺…6歳だよ」

 「6歳なんて、あっという間に大きくなるさ。これから、どんどんと成長していって、いずれ九十九神楽を支える存在になる。でも…」


 そこで、言葉を区切ってから、


 「何も、自分の全てを投げ打ってまで、支える必要はない」

 「え?」

 「九十九神楽には、たくさんの頼れる人がいる。その人たちと一緒に、宵明も小さい助力でも良いから、皆んなと頑張れば良いのさ」

 「小さい助力で、皆んなと」

 「皆んなと協力し合うだけでなく、誰かに相談するのも良い」

 「相談ねぇ…」


 もしかしたら、俺は考えすぎなのかもしれない。


 真兄の声は、本当に聞く人の心を落ち着かせてくれる。


 「ありがとう、真兄。何だか、気持ちが晴れた。なんか…頑張れそうな気がする」


 それを聞いて、真兄は小さく笑い、また目元に布を巻く。


 「そうかい。話しただけで、弟の気分が晴れたのなら、兄としては嬉しいもんだ」


 俺は小さく呟く。

 真兄に、聞こえないぐらい小さく、


 「真兄…長生きしてね」


 真兄も、近く内に死ぬ運命が待っているのだ。


 俺が小学校に上がってすぐ。


 決して、そうはさせない。

 真兄も助けるんだ。


 だけど、その前に婆やを助けないと。


 俺は婆やを助けるための最適解を思案する。

 そこで、思いつく。


 婆やが死ぬ運命を変えるためには、やっぱり”アレ”が必要である。


 けれども、アレを借りるためには、当主である爺ちゃんの許可が必須。

 ならば、何としてでも、爺ちゃんから借りる許可を取るために、"相談"しないと。


 俺は腰を浮かせ、爺ちゃんの元へ歩く。




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