62閑話 私は、何処か変
私は、何処か変。
初めて、そう考えだしたのは、私が物心ついて、すぐだっただろうか。
私は、他の皆んなとは何処か違う。
そう思ってしまう。
皆んなと比べて、全く喋らないから?
皆んなと比べて、全く表情を変えないから?
皆んなと比べて、誰とも関わろうとしないから?
皆んなと比べて………"身体"が違うから?
私は皆んなと同じ人間。
何故か、そう思えない。
何だか…自分が皆んなと違う生き物のように感じる。
人と"別の何か"が混ざった存在に感じる。
私には、両親がいない。
唯一の肉親は、祖父のお爺ちゃんだけ。
私のお父さんは、お爺ちゃんの息子で、私のお母さんは、誰なのかも知らない。
お爺ちゃんが言うには、私の父は、お爺ちゃんと同じ学者だったらしい。
お爺ちゃん曰く、とても賢い子であったとのこと。
ある日…私のお父さんは、家を抜け出して、何処かに行ってしまった。
そのまま数年間、行方不明であったけど、お父さんは突然帰って来た。
赤ん坊である私を抱き抱えて。
その日は、近年稀に見る大雨と雷が一晩中ずっと降り注ぐ大嵐だったらしい。
お父さんは、赤ん坊の私をお爺ちゃんに託して、すぐに死んだ。
お父さんの顔は、写真でしか知らない。
だから、お父さんと一緒に居る同い年の子を見ると、少し羨ましい。
幼稚園では、いつも皆んなの輪から外れている。
遊びの時間になって、外に遊びに行く子もいれば、中で人形やおもちゃで遊ぶ子もいる。
そんな子に混じって、私は部屋の隅で、静かに本(と言っても、幼稚園なので絵本しか置いていないけど)を呼んでいる。
「凪桜ちゃん、みんなと遊んだら?」
幼稚園の先生は、そう言ってくるけど、いまいち皆んなと混ざって何かをする気になれない。
したいとも思わない。
そんな私相手に、誰も遊びたがらない。
「ナッキー!わたし、えほん、よむ!」
唯一、私と仲良くしようとするのが、私をナッキーと呼び、同じ幼稚園にいる陽菜である。
陽菜は、おっとりしており、動きのが苦手なのか、私とよく一緒に居ようとする。
きっと、この先、私には友達は居ないだろう。
居たも、とても少ないだろう。
でも、心の奥底では、皆んなと違う自分に、悲しさを持っている。
そう思っていた私に、"転換点"が訪れる。
それは、宵明との出会いだ。
宵明と初めて会ったのは、私が5歳の時、明治神宮での霊魂祭。
「あ、あの!」
お爺ちゃんと手を繋いで、歩いている時、突然話しかけられたのだ。
振り向くと、そこには、艶のある黒い髪に、金色の目も持った私と同い年ほどの男の子。
彼が、宵明。
家名は、九十九神楽。
後に、御三家と呼ばれる陰陽師家の子息だと分かる。
初めて会った際の宵明の顔には、私への好奇心と疑念…そして、多くの恐怖が含まれていた。
人の感情に起伏に敏感な私は、それが分かる。
でも…どうして、私に恐怖を?
私、宵明に…まだ何もしてないと思うけど。
「お父さん、いないの?」
「うん、いないんだ。俺…父親の顔なんて、写真でしか知らない」
どうやら、宵明も私と同じく父親が居ないらしい。
少しシンパシーを感じる。
この宵明との出会いが、私の生活に少なからず影響を与えた。
私は、何かに熱中したり、何かに興味を持ったりしたことは無い。
好きなものを強いて言えば、読書?
お爺ちゃんは「妖異学」の学者をしていたから、私の家には、お爺ちゃんの本が多い。
家にいる時は、私はそう言った本を読んでいる。
あ…でも、”雷”は好き。
嵐が訪れ、大雨が降った時、雷のゴロゴロと言う音や、落ちた際の、けたたましい音を聞くのも好き。
雷を見ると、不思議と落ち着く。
偶に、雷が降るような雨が来ると、私は外に出て、シャワーのように浴びるのだ。
お爺さんは風邪を引くからと止めようとするけど、やっぱり落ち着くのだ。
だけど、そんな私に雷以外で、とても惹かれるものが出来る。
それは、剣。
私がお爺ちゃんと、宵明の屋敷に行った時に、宵明が木刀を振っていた。
何でも、剣も行ける陰陽師になるとか。
剣も降る陰陽師?
ちょっとカッコいいかも。
宵明が素振りをしている姿を見ると、何だか血が騒ぐのだ。
自分も剣を振りたいと言う気持ちが、沸き起こってくる感じ。
だから、私も剣を振りたいと言った。
剣の握り方や振り方は、教わったことが無い。
そもそも、剣自体、それまで見たことが無い。
でも、分かるのだ。
どう握って、どう身体を動かせば、剣を使えるのか。
体の隅々に、剣の理が刻まれているような。
お爺ちゃんは、私にも神木家の血が入っていると言っていたけど、神木家の血?
お爺ちゃんは、昔剣士をやっていたと聞いたけど、それに関係するのだろうか。
宵明が、私の家に来た。
誰かが私の家に来るのは、初めてでは無いだろうか?
本を読みつつも、意識は少しばかり宵明に向いていた。
「そう、凪桜と。凪桜は、まぁ…あの性格じゃから、友達が殆ど居らず、幼稚園でも外で遊ぶ事はなく、本ばかり読んでいると聞く。友達も、陽菜という子、1人」
お爺ちゃんが隣の部屋で、宵明に私と今後も仲良くして欲しいと言う。
聞こえてるよ…お爺ちゃん。
私、耳が良いから、聞こえちゃう。
「宵明が良いのなら、是非…凪桜と遊んでやってくれ。無理とは言わん。偶に、家に来て、凪桜と一緒にいるだけでも構わん」
「えっと…それだけで良いのなら、余裕がある時でも、こちらに来ます」
宵明は、そう言った。
「あ、なんなら、いつでもウチに来て良いですよ。正門をいつも守ってる人にも言うので、是非…我が屋敷に遊びに来てください。俺の妹の茉春も、なんか…凪桜のこと気に入ってるみたいなんで」
しかも、いつでも宵明の住んでいる屋敷に来て良いよとも。
宵明は、どうして、私に気を掛けるのか。
初めて会った時からそうだった。
その時から、宵明の私に対する恐怖心は、かなり無くなっていると、感じ取れた。
私が宵明と出会って、一年以上経った。
今、私と宵明も6歳。
あと半年ほど経てば、小学生になる。
私はお爺ちゃんと一緒に、頻繁…という程ではないけど、宵明の屋敷に行くことが増えた。
別に何か特別なことをするわけでも無い。
出されるお茶菓子を食べたり、屋敷の広い庭を見たり。
「いらっしゃい、凪桜」
屋敷に来た時に、宵明がいれば、宵明は快く私を受け入れる。
「おねぇ!」
抱き着いてくる朱色の髪をした女の子。
この子は、茉昼ちゃん。
宵明の2つ下の妹。
この子も、初めて会った時から、妙に私に懐いてくる。
不思議と悪い気がしない。
私は、無意識に抱き着いてくる茉昼ちゃんの頭を撫でる。
茉昼ちゃんは、嬉しそうである。
九十九神楽には、私を受け入れてくれる人がいる。
それだけで、なんだか少し嬉しい。
私は、何処か変。
そう思うのは、変わらない。
けど、今は…それで良いかも。
神木凪桜は、そう思うのだった。




