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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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61麒麟




 神棚に飾られている金色の彫刻は、麒麟であると、凪桜から言われる。


 凪桜は、いつの間にか読んでいた本を畳んで、神棚を眺めていた。

 ああ、そうだ…麒麟だ。


 【麒麟】…神話に登場する伝説の生き物であり、平和を象徴する聖獣とも言われる。

 凪桜が言ったように、神の使いとしても知られる。


 有名な生き物なのに、つい忘れてしまった。


 でも、なんだろう。

 視線が神棚にある小さな麒麟の彫刻に引き寄せられる。


 「………綺麗」


 俺は、そう呟く。


 呪いか何かで、目が離せないとかではない。

 彫刻の美しさから、ずっと見ていたい気分になるのだ。


 「うん、綺麗だよね」


 俺と一緒に、麒麟の彫刻を見上げる凪桜。


 そこへ、


 「待たせたの………ん?どうしたんじゃ、2人共。上を見て」


 春桜さんが、ジュースの入ったコップ2つと、大きな鰹節をお盆乗せて、部屋に入ってきた。


 そこで、俺と凪桜揃って、上にある神棚を見ていたので、春桜さんが首を傾げる。

 俺は神棚の麒麟を指差す。


 「ちょっと、神棚にある…麒麟の彫刻が気になりまして」

 「おお、あれのことか」


 お盆をコタツの上に置いて、春桜さんは嬉しそうに語る。


 「あれは、神木家に代々伝わる物でな。不思議と見入ってしまうだろ」

 「はい。とても綺麗です」

 「そうか、そうか…綺麗か。神木家にとっては、お守りみたいな物でな、江戸時代から受け継がれた代物というわけじゃ」


 江戸時代…そんなに昔から。

 今から400年前である。


 つまり、神木家は江戸時代から存在する家系と言う事になる。

 江戸時代と言えば、我が九十九神楽家が創設された時代でもあるな。


 江戸時代から受け継がれる物。


 余程大事なものなのだろう。


 「麒麟は、太古の昔の日本にいた妖怪じゃ。天から人を見守る神が、自身の分身として、地上に送った使者」


 そして、春桜さんは一呼吸置いて、語りだす。


 「その体からは、雲が生み出され、その雲を足場に空を駆ける。その黄金の体毛からは、神罰の雷が降り注ぎ、敵を滅する。その青い眼は、一切の曇りが無く、天から地を見下ろす………古文書には、そう書かれてあった」


 春桜さんは「妖異学」を学んでいるが故に、昔の文献には詳しいのだろう。


 「さらに、麒麟は、【妖王】の一体でもある」

 「【妖王】ですか」


 【妖王】。

 それは、一回目の人生においても、俺が何度も耳にした単語である。


 直近で耳にしたのは、5歳の誕生日。


 以前、5歳の誕生日に、神木家が来た際、春桜さんは妖異学のことで爺ちゃんと意気投合していた。

 その時に聞いたのが、「妖王」、それと「霊亀」といった単語だ。


 それを伝えると、春桜さんは大きく頷く。


 「左様。【霊亀】も、【麒麟】と同じく妖王の一体。大昔の日本には、そこにいる猫又のような普通の妖怪は殆ど居らず、代わりにいたのが、妖王たち。全ての妖怪の王と位置付けられる存在」


 全ての妖怪の王である妖王。


 その単語は、これから通うであろう小学校、中学校、高校で何度も聞くだろう。

 日本では、一般常識。


 妖王という存在が、昔の日本にいたことは確かに事実としてある。


 しかし、現在は居らず、何故いなくなったのかも不明。


 「ワシは、妖王である【霊亀】が現在、存在する妖怪たちの祖先であると考えておる。妖王から、妖怪たちは生まれたんじゃ」


 それは、御三家の者である俺でも、全く知らない内容。


 現代日本で、妖怪が存在する理由は、人が放出する霊力が集合したことで生まれる


 多分、一般的には知られていない神話の類の話である。


 『え?じゃあ、僕も【霊亀】って、妖王の子孫になるの?』

 「そうじゃな。ワシの仮説が正しければ」


 福丸が気になって、耳をピンと立てて聞く。

 微笑みながら、答える春桜さん。




 春桜さんが持って来てくれたジュースを、俺と凪桜が飲む。

 オレンジジュースである。


 『がぶがぶ』


 ちなみに、福丸は、まるまる削られていない鰹節を無我夢中で齧りついている。


 「宵明は、剣術の稽古を今も、続けているのか?」


 ジュースを飲んでいると、春桜さんから質問される。


 「はい。続けてます。今は剣術だけでなく、式神術も教わることになりました」

 「ほぉ…式神術か。宵明は陰陽師の家系じゃからな」

 「式神術の先生は、三級陰陽師の方で。ちょっと癖の強くて、一般的な式神術を使う人では無いですけど。優しい人です」


 それを聞いて、春桜さんは軽く笑う。


 「ほっほ…そういう普通とは違う陰陽師は、意外と優秀な場合が多いぞ」

 「そうなんですか?」

 「そうじゃ。癖の強いというのは、決まった型に縛られるのを嫌う者が多い。自分なりの型を見つけて、それを磨く。自分の道を常に突き進むのは、秀でた才能が必要だ」


 典子先生の悪霊式・式神生成術は、聞いたことも無い。


 きっと彼女独自の技術なのだろう。


 そもそも、悪霊を式神にしようという発想自体、典子先生に会うまで、考えたことすらない。


 「俺…めっちゃ強い式神使いになりたくて」


 これから訪れるだろう九十九神楽と家族の悲劇を回避するには、強さが必要だからである。


 「ふむ?前は、剣も行ける陰陽師になりたいと言っていたような」

 「はい。剣も行ける、めっちゃ強い式神使いになりたんんです!」

 「な、なるほど」


 春桜さんは、戸惑いつつも納得の姿勢を見せる。


 俺への会話を一旦終えた春桜さん。

 次いで、春桜さんは孫の凪桜に話しかける。


 「ナギは今日、幼稚園で何をしたんじゃ?」

 「本読んだ」


 凪桜の答えは簡潔。


 「他には?」

 「陽菜(ひな)と一緒に遊んだ」

 「そうか…陽菜ちゃんと遊んだのか。何をして遊んだのじゃ?」

 「一緒に、本を読んだ」

 「い、一緒に本を読んだ以外は?」

 「何も」

 「そ、そうか…」


 少し困った顔を取る春桜さん。


 一緒に本を読むのは、一緒に遊んだうちに入るのか?


 俺も、春桜さんも、そう思ったが、あまり深く聞かないことにした。




 ジュースを飲んだ俺と凪桜は、互いに会話したり、遊んだりすることもなく、凪桜はまた本を読み始める。


 本当に物静かな子だ。


 「宵明、ちょっと…こっちに」

 「はい?」


 俺は春桜さんから、凪桜がいる部屋の隣の部屋に、呼び出される。


 春桜さんは、隣の部屋で本を読んでいる凪桜を見て、小さなため息を一つ付いた後、


 「その…宵明を読んだ理由は、宵明には今後、凪桜とも友達として…仲良くして欲しいという訳で」

 「凪桜と?」


 春桜さんが隣部屋の凪桜に聞こえないように、小さな声で言うので、俺も小さな声で答える。


 「そう、凪桜と。凪桜は、まぁ…あの性格じゃから、友達が殆ど居らず、幼稚園でも外で遊ぶ事はなく、本ばかり読んでいると聞く。友達も、陽菜という子、1人」


 なるほど、確かに凪桜は常に、無表情無言であるので、同年代の子も寄りつかないだろうし、友達なんて出来にくいだろう。


 「宵明が良いのなら、是非…凪桜と遊んでやってくれ。無理とは言わん。偶に、家に来て、凪桜と一緒にいるだけでも構わん」

 「えっと…それだけで良いのなら、余裕がある時でも、こちらに来ます」

 「すまん、宵明」


 春桜さんは、申し訳さなそうに言う。


 そんなに畏まらなくても。


 「あ、なんなら、いつでもウチに来て良いですよ。正門をいつも守ってる人にも言うので、是非…我が屋敷に遊びに来てください。俺の妹の茉春も、なんか…凪桜のこと気に入ってるみたいなんで」

 「宵明の屋敷に、いつでも………。それは有難い」


 何かを含んだ表情で頷く春桜さん。


 まぁ…御三家の屋敷に遊びに行くなんて、一般人の感覚からしたら、いろいろ抵抗あるだろう。




 春桜さんとの密談?を終えた俺は、早速本を静かに読んでから凪桜の所に行く。


 よし、春桜さんから凪桜と遊んで欲しいと頼まれた手前、ここは即行動に移すのに限る。


 「よし、凪桜…遊ぼう!」

 「………」


 突然の俺の遊ぼう発言に、凪桜は本から目を離して、怪訝な顔をする。


 「………何をして遊ぶの?」

 「かくれんぼだ!」

 「……かくれんぼ」


 パタっと、本を閉じる凪桜。


 青い目を細めて、俺を見る。


 「この家で、かくれんぼ?2人で?」

 「俺と凪桜だけじゃない。福丸も混ぜて、あと2人を入れて、5人だ」

 『あ、僕もやるんだ』


 凪桜は、俺と福丸を見てから、


 「あとの2人は?まさか、お爺ちゃん?」

 「その2人は、俺の式神だ。来い!忠吉、ヨツミ」


 俺は術式を意識して、2人を出す。


 虚空から2人が出現する。

 現れたのは、人形態の忠吉とヨツミ。


 『忠吉、参りました!』

 『宵明様、御用件は何でしょう?』


 礼儀正しく頭を下げる忠吉に、片膝をつくツヨミ。


 「2人とも、今から凪桜と、かくれんぼをやる。一緒にやって欲しい」


 俺は召喚した2人に、かくれんぼを一緒にやるように指示を出す。


 『かくれんぼ!面白そうですね!』

 『か、かくれんぼ…ですか。掃除に続いて、今度は…かくれんぼとは。全く、宵明様は』


 快く了承する忠吉に対して、ヨツミは顔を引きつらせる。


 そして、召喚された2人を見て、驚いているのは、凪桜と春桜である。


 「鼠色の髪のお兄さんに、白い髪のお姉さん。この人達は…」

 「これは人………ではないな。霊力の感じからして、式神?」


 俺は頷く。


 「そうです。俺の術式の式神です。こっちが鼠の忠吉。こっちが、兎のヨツミ」


 俺は、凪桜と春桜に、2人を説明する。


 「鼠?もしかして、前に見たことがあった鼠の…」

 「うん、あの鼠が人になった姿」


 忠吉とヨツミを物珍しそうに眺める凪桜。


 だけど、凪桜を見たヨツミは、一瞬驚いた顔をして、その後に警戒するような表情に帰る。


 (宵明様…)


 そこで、ヨツミから念話で話しかけられる。


 (どうした?)

 (宵明様と同い年に見える…この女の子は、何者ですか?)

 (へ?凪桜のこと?俺の友達だけど)


 ヨツミの金色の目が、凪桜を鋭く見つめる。


 (私には、彼女が人(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)何(・)か(・)に見えるのですが)

 (何?)


 俺は怪訝な顔を取る。


 それは、前に忠吉が俺に念話で言ってきた内容と同じであった。


 忠吉も、初めて凪桜に会った際、凪桜のことを、「人の姿をした何か」と表現した。

 結局、それが何なのかは分からず仕舞いだったけど。


 まさか、ヨツミも同じ反応をするとは。


 ヨツミは、凪桜の頭の上から足の下まで、じっくり観察したのち、


 (いや、私の気のせいです)


 ヨツミは、何でもないと首を振る。

 一体、何なのか。




 ヨツミが感じた違和感は分からなかったが、俺、凪桜、福丸、忠吉、ヨツミの5人で、早速家の中で、かくれんぼをして遊んだ。


 春桜さんの家は、一般的な木造の家であったが、意外と広く、隠れられる場所は、いくつもあった。


 「宵明、みっけ」

 「う…見つかった」


 テーブルの下に隠れていた俺を、呆気なく見つける凪桜。


 凪桜は、無表情ながらも、しっかりと俺たちと一緒に、かくれんぼをしてくれた。

 しかも、俺なんて、すぐ見つけてしまう。


 単純に、俺が隠れるのが、下手なだけだけど。


 つい、夢中になり過ぎて、時間がかなり経ってしまった。

 桐生さんが態々、神木家に来て、俺を迎えに来るほど、かくれんぼに熱中した。


 因みに、かくれんぼで猛威を振るったのは、くノ一のヨツミであった。


 ヨツミは、身軽なフットワークと、忍者特有の隠れ術を使って、見事に隠れていたのだ。

 凪桜も、全く見つけるのに、苦労するほどに。


 かくれんぼが終わった後、俺が凄いと言うと、


 『ふん!当然です。異空間の時は、多少、手加減していましたけれど、本気を出せば、こんな家でも完璧に隠れられます!』


 誇らしげに、そう言った。




 こうして、俺と凪桜は、彼女の家で、ちょっとした楽しいひと時を過ごした。


 この日を境に、俺は凪桜と関わる頻度が、多くなっていったのだ。

 でも、それは決して悪い事では無いと、俺は思っていた。


 凪桜との関りが、俺の二回目の人生にて、どのような影響を与えるのか。


 それが分かるのは、遠い未来になる。




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