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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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60凪桜の家




 典子先生から式神術を教わることになった日の翌日。

 今度は、潤一平先生から剣術を教わった帰り。


 いつもは、日が暮れかけている時間に、稽古は終わるが、今日は先生も別の予定がある理由で、早めに終わった。


 桐生さんが運転する車に乗って、東京都の都心にある九十九神楽本邸に戻っている最中。


 俺は、ふと…思い立った。


 「桐生さん…このまま本邸じゃなくて、『雷下ろしの樹』のそばに寄ってくれない?」

 「は、はい?『雷下ろしの樹』ですか?」


 桐生さんが戸惑う。

 俺がいきなりルート変更を要求したためだ。


 『雷下ろしの樹』とは、九十九神楽本邸から道のりで数キロ離れた場所にある樹のことだ。


 大昔に、雷を落ちた樹であるとか、なんとか。


 「何故、その場所に?」

 「ちょっと友達に会いに」

 「お友達ですか?」


 友達と聞かれ、俺は頷く。


 確かに、友達である。

 この二回目の人生では。


 「うん、”凪桜”に会いに」


 友達とは、神木凪桜のことである。


 一回目の人生で俺を殺した人。









 桐生さんは、俺の要望通り、『雷下ろしの樹』の近くまで運転して、道の端に車を止めてくれた。


 俺の目の前には、『雷下ろしの樹』があった。


 『凄い木だね』


 福丸が、黒い樹木を見上げて感心する。


 その樹は、普通の樹よりも、一際大きく、幹も枝も、地面から少し顔を出す根っこも真っ黒である。

 葉っぱは一枚も生えていない。


 さらに、特徴的なのは、上から巨大な刀で斬られたかのように、綺麗に2つに割れているのだ。

 樹木の半分近くまで、割れている。


 そんな樹が、住宅街の少し広めのスペースにあった。


 「『雷下ろしの樹』…言い伝えでは、江戸時代に天から降った巨大な雷が直撃し、2つに割れたとか」


 桐生さんが眼鏡を直しながら、説明をする。


 「江戸時代…そんなに昔から、この樹はあったんだ」

 「ええ、推定樹齢400年以上の樹です」


 『雷下ろしの樹』を眺めつつも、俺は辺りを見渡す。


 周囲には、何人かの人が歩いていた。

 そこで、俺は近くにいる散歩をしているお婆さんに話しかける。


 「すみません、ちょっとお尋ねしますが、神木さんが住んでいる家を御存じですか?」

 「え、神木さん?………ああ、神木春桜さんのことね。それなら、あそこの角を曲がって行けば、すぐに見つかるわよ」

 「ありがとうございます」


 俺はお婆さんにお礼を言って、歩き出す。




 角を曲がると、古びた一軒家が目に入る。

 木造建築の和風溢れる家。


 表札を見ると、「神木」と書かれてあった。


 うん、ここで間違いない。


 「宵明様、私は車の中で待っています」

 「うん、了解」


 桐生さんが、友達との対面であると考え、気を利かせてか、車で待機すると言う。


 福丸は、いつも通り俺の側だ。


 「すみません」


 俺は、玄関の扉を叩く。


 少しすると、扉が開かれる。


 「どなたかな?」


 出てきたのは、薄桜色を交えた白鬚の老人。

 神木凪桜の祖父の神木春桜さんである。


 「こんにちは」

 『こんにちは』


 春桜さんは、挨拶をする俺と福丸を見て、目を大きく開く。


 「おや、これは…宵明」

 「どうも、折角なので、寄って来ました。お邪魔でしたか?」


 邪魔かと聞くと、春桜さんは和やかに笑い、俺の黒髪を優しく撫でる。


 「なぁに、邪魔は訳がない。よく来てくれた。さぁ…上がれ。友達が来たと聞けば、凪桜も喜ぶじゃろ」


 春桜さんは、俺を招き入れる。


 俺も会釈しつつ、玄関に入る。


 外から見ても、そうだが、玄関から中を見ても、普通の一軒家である。

 しっかりと、生活感がある。


 とても、一回目の人生の時に、殺人鬼と成り果てた少女の家とは思えない。




 「凪桜、お友達の宵明じゃ」


 凪桜は居間で、本を読んでいた。


 春桜さんの声掛けで、本から少し視線を外し、静かに俺を見る。

 俺を見た時、若干目を見開くが、それも一瞬。


 「あ…よう」

 「うん」


 なんて挨拶していいか分からなかったので、声量を小さくして声掛けをする事ぐらいしか出来なかった。

 凪桜は、軽く返事をする。


 視線を俺に移した後、また手元の本に戻す。


 「今、ジュースでも持ってくる。それと、鰹節でも持ってくるかの」

 『やった!鰹節!』


 鰹節と聞いて、喜ぶ福丸。


 春桜さんは台所へ行く。

 俺は取り敢えず、凪桜の近くに行き、座布団の上に座る。


 「「………」」


 しばらくの間、俺も凪桜も無言であった。


 思い立って来たものの、俺は何を話していいのか分からないし、凪桜も無言で本を読んでいる。


 絵本では無い。

 チラッと、本の中身を見ると、びっしり文字がある。


 「な、何読んでいるの?」


 沈黙に耐えられず、つい尋ねる。


 「『妖怪と都市伝説との関係性』」

 「へ、へぇ…」


 凪桜は本への視線をそのままに答える。


 俺は苦笑いするしかなかった。


 俺と同じ5歳なのに、随分年齢に似つかわしく無い本を読んでいるな。


 その本、普通に漢字が使われていると思うが、ちゃんと読めるのか。

 思えば、凪桜は実年齢に対して、妙に賢い一面がある。


 凪桜との会話は一旦保留にして、家の中をじっくり観察する。


 年季の入った箪笥に、コツコツと音を鳴らす古時計。

 液晶テレビとコタツ。


 居間の隣には、多くの本が置かれた書斎のような部屋があった。


 多分、凪桜の読んでいる本は、あの部屋から持って来たものだろう。


 そう言えば、春桜さんは学者で、主に妖怪の生態や歴史、神話を研究する「妖異学」という学問を学んでいたんだっけ。


 文学好きな俺の爺ちゃんと、随分話が噛み合ってたな。


 俺が凪桜の家に来た理由は、一つに単純に思い立ったから寄ってみようと思ったから。


 もう一つは、この家には、もしかしたら一回目の人生で、凪桜が殺人鬼になってしまった原因があるのではと、考えたからだ。


 でも、見渡しても、そんな原因なんて見つからない。


 本当に、ごく一般的な家の風景である。


 「………ん、あれは?」


 そこで、俺の目に入ったのは、神棚である。

 俺と凪桜がいる部屋の上側に置いてある。


 神棚とは、神様を祀るための小さな祭壇。

 神社から授与された神札を納め、日々の健康や家内安全を祈願して、感謝を捧げる場所である。


 と言っても、家に神棚自体など珍しくない。


 取り分け、何の変哲もない神棚。

 でも、その神棚には、ある置物があった。


 俺の手のひらに乗るぐらいの小さな金色の彫刻。


 何故か、俺の目を引く。


 それは、4足歩行の馬のような形状の生き物。

 でも、頭部はまるで竜。

 たてがみも生えている。


 神々しい。


 どこかで見たことがある生き物。

 何だっけ。


 「あれは………」


 俺が頭を捻って、生き物の名前を思い出そうとする。


 確か、伝説上の生き物であり、幸運の印からロゴにも使われているもの。


 「あれは、【麒麟】。神様の使い」


 答えが出たのは、俺のすぐそば。


 凪桜の口からである。




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