表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『九十九神楽の式神使い』 ~失墜御三家の陰陽師である俺は過去へと戻り、絶望未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる~  作者: 星衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

006宵明の母




 「ショウちゃん!元気にしてた!」

 「うげ?!」


 部屋に入り込んだ20代中盤ほどの女性は、入ってくるなり、俺に抱きつく。


 思いっきり、俺の頭を胸で抱きしめるので、息がしにくい。


 「柔らかい髪!」


 その女性の髪は、神社の門と同じ色の朱色。

 その朱色となった長い髪を、丁寧に器用に編み込んで、後ろで一つに束ね、ポニーテールのようにしている。


 俺の金色が少し混じった目と似た琥珀色の瞳は、大きく、クリっとして綺麗である。

 薄手のコートを着ており、動きやすさ重視の服装だ。


 髪には、翡翠色のヘアピン。

 首には、白い勾玉の首飾り。

 左腕には、様々な色を合わせた組紐。


 まさに、『色』を体現した人である。


 「ショウちゃん、今日も可愛い!」

 「(ともえ)奥様!ぼっちゃまが苦しがってます」


 女性に遅れて、部屋に入ってきた婆やが、俺と女性とを引き剥がす。

 助かった。あれ以上、抱きしめられていたら、窒息死するかもしれなかった。


 折角、過去に戻ったのに、窒息死なんて洒落にならない。


 「う〜〜久々の我が子との再会だったのに!」


 俺と引き剥がさせて、ご立腹である。


 この女性の名は、九十九神楽(ともえ)

 俺の父の4番目の妻であり、俺の実の母だ。


 3歳に戻ってから、初めて俺は母さんの顔を見た。


 母さんだ…ちゃんと顔に"色がある"。


 「巴奥様、お仕事は如何されたのですか?」

 「ショウちゃんに会いたくて、仕事の合間を縫って会いにきたの」

 「仕事の合間を縫って……確か、今は宮崎県で起こってる怪異事件の担当をされていましたよね?」

 「うん。宮崎県の天岩戸神社にある結界の緩みで湧き出た怪異たちを、皆んなで協力して退治してる。あらかた私の”紙”で祓ったけど、残党をみんなが祓ってくれてる。だから、その合間に来たの」

 「それは…残党狩りとは言え、かなり大掛かりな物では?合間とは言え、巴奥様が抜け出すのは.……」


 婆やが巴に苦言を呈する。


 九州にある宮崎県と、この屋敷がある東京まで、飛行機を使ったとしても、かなり時間が掛かる。

 とても仕事の合間に行ける距離では無い。


 まぁ…それでも来てしまうのが、我が母だ。


 「だって!私、ショウちゃんに会いたかったんだもん!ショウちゃんに会いたいってお願いしたら、みんな良いよって!」

 「それは巴奥様が高名な陰陽師だからです。子供に会いたいと言ったら、大抵の者は反対できません」


 そこら辺の通行人のようなラフな格好に、明るさマックスな性格。

 初めて見た人が、母を陰陽師だと思う者は、果たしているのだろうか。

 

 しかし、その実…俺の母である九十九神楽(ともえ)は、名実ともに、日本が代表するトップ層の陰陽師の1人。


 多分、陰陽師で、俺の母を知らない者はいないのでは無いだろうか。

 しかも、母は御三家である九十九神楽家の妻の1人でもある。


 その者からのお願いなど、ほとんどの陰陽師にとって、命令に等しいだろう。


 「もう…常さんたら、お固いんだから」


 母さんは口をへの字にして、俺に向く。


 「ショウちゃんだって、私に会えて嬉しいよね?」

 「うん。おれも…かあさんに、あえて…うれしい。あと…かあさん、だいすき」


 俺は今の気持ちを包み隠さず言う。

 1回目の人生の俺なら、言わないであろう言葉を。


 「………へ?」


 巴母さんが俺を見て、固まる。

 どうしたんだろう?完全な放心状態になった。


 少しして、母さんは手をワナワナと震えさせる。


 「……きゃ……きゃ…」


 母さんが口から音声を出し始め、


 「きゃああああああ!!!」


 悲鳴のような叫ぶ。

 母さんは目尻に涙を浮かべ、両手をはしゃぐ子供のように大振りに動かす。


 そして、突進のように俺を抱きしめる。


 母さんは俺の頭を抱え上げて、


 「ウチの子、きゃわいい!!私、このままショウちゃんを仕事場まで持ってく!」

 「勿論、駄目です」


 婆やが、きっぱり反対する。


 親とは言え、子供の俺の存在をこんなに想ってくれる。

 息子の俺から見ても、巴母さんは親バカである。


 だからこそ、1回目の人生の時は、気恥ずかしさから、母さんに本音を言う機会が全くなかった。

 会えて嬉しいとか、大好きとか…そんな子供らしい言葉は言い難かった。


 ギュ…。

 俺は抱きつく母さんを抱きつき返す。


 今考えたら、母親が親バカだから恥ずかしいと言う理由だけで、心の距離をとった自分が大馬鹿だった。


 もし、1回目の時の自分が目の前にいたら、ぶん殴っていただろう。


 実の母親が、いずれ"再起不能"になると分かっていたら、もっと母さんへの愛情や感謝の言葉を何度も伝えたはずなのに。


 そうなのだ。

 高名な陰陽師で、あんなに明るく元気な母さんは、"ある事件"がきっかけで、遠からず心が壊れ、廃人状態になるのだ。


 思い出すのは、1回目の人生の時。


 精神病院にいる巴母さん。

 ベッドに座り込み、無表情の母。俺がどんなに話しかけても、何の反応も返ってこない。


 どんな事をしても、母さんの落ち窪んだ目に光が灯ることも、『色』の抜けた顔に、『色』が塗られることは無かった。

 俺は無力だった。


 大丈夫だよ、母さん。

 2回目は、そうはさせない。


 俺、強くなって…母さんの『色』を、必ず守ってみせるから。




 その後は、母さんが俺から離れるのに、時間が掛かった。


 また仕事で、母さんは羽田空港まで言って、宮城県に戻る。


 屋敷の門の前には、羽田空港まで送ってくれる車が止めてあった。

 母さんほどの高名な陰陽師なら、政府から移動のサポートも手厚い。


 「……ショウちゃん」


 俺が婆やと共に、屋敷の門まで見送ったのだが、母さんが車のある場所まで少し進んでは振り返り、俺を寂しげに見る。


 俺が婆やと共に手を振ると、母さんは嬉しそうに手を振りかえす。

 だけど、また少し進んで、振り返り、お互い手を振る。


 これの繰り返し。


 何とか、母さんは車に乗ってくれた。




 巴母さんを門まで見送って、部屋に戻るのに、相当な時間が掛かった。


 「ぼっちゃま。巴奥様がお土産で持ってきた宮崎マンゴーを小さく斬って、お部屋に持って行きますね。チキン南蛮は……流石に、衣とソースが喉に詰まるので」


 う……俺、チキン南蛮好きなんだけど。しかも、宮崎県発症のチキン南蛮なんて美味しいに決まってるじゃん。

 でも…確かに、3歳など喉の詰まる危険性がある。


 もっと大きくなってから、いつか食べよう。




 俺が部屋に戻ると、座敷童子の紬さんが目につく。


 そう言えば、紬さん少し前に何かを言いかけたな。

 母さんが部屋に入ってきたから、中断されたけど、何を言うとしたんだろう?


 「つむぎさん、さっきのはなしのつづき」

 「………」

 「つむぎさん?」

 「………」

 「反応しない」

 「………」


 紬さんはピクリとも動かず、何も話さなかった。


 ただの物言わぬ人形となったようだ。


 嘘?!あれで終わり!

 あんな思わせぶりなこと言っておいて!









 その後、婆やが持って来てくれた子切りにされた宮崎マンゴーを食べて、すっかり紬さんの言葉は忘れてしまった。


 宮崎マンゴー…甘くて美味しいね。


 次の日…紬さんは俺の部屋から、いなくなっていた。

 夜中に人知れず、歩いて何処かに行ったようだ。


 結局、俺がこの日以降に、紬さんと会話できるのは、かなり後になる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ