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『九十九神楽の式神使い』 ~失墜御三家の陰陽師である俺は過去へと戻り、絶望未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる~  作者: 星衛門


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005座敷童子




 「ふう…」


 俺は婆やが持ってきた茶碗の水を飲み干し、一息つく。

 一汗かいた後の水は美味しい。


 さて…強くなるために、また『周天巡霊』で霊力の鍛錬をせねば。

 そう思って、再び霊力を動かそうとすると。


 ジ……………、


 「ん?」


 ふと…俺は何かの視線を感じ取る。

 誰かに見られている。


 俺は部屋の周囲を見渡す。


 部屋には、畳に箪笥、障子、ちゃぶ台。昨日と何も違わない。

 視線を彷徨わせると…部屋の隅に、小さな人形が1つ。


 ……………ん?人形?

 それは昨日まで無かったもの。


 それは3歳である俺の体よりも小さい、おかっぱ頭の白い和服を着た人形。

 目は大きく、品のある顔の造形は、とても可愛げがある。


 見た目は、ただの人形なのに…生気を感じる。


 「ばあや…あれ」

 「はい?」


 俺は部屋の隅にある小さな人形を指差す。

 婆やは俺が示した方向を見る。


 婆やは人形を見て、表情に喜びを含ませる。


 「あ!(つむぎ)さん!」


 人形を見て、嬉しそうな婆やは両手を合わせて、人形に向かってお辞儀をする。


 「九十九神楽の"座敷童子"様。今日も良い一日が来ますように」

 「つむぎさん……」


 縁起の良いものを見た気でいる婆やに対して、俺は座敷童子の紬さんを懐かしげに見る。


 あの人は九十九神楽家の本家の屋敷に住み着いている妖怪…座敷童子の紬さんだ。


 座敷童子とは、岩手県を中心とした東北地方に伝わる子供の精霊。


 夜中に物音を立てたり、イタズラをしたりする妖怪で、古い屋敷や家屋に住んでいるとされ、住んでいる家には幸運を運んで来ると言われている。


 とても縁起の良い妖怪。


 「今日は、ぼっちゃまの部屋ですか。ぼっちゃまは運が良いですね」


 あの座敷童子が、いつ九十九神楽の屋敷に住み着いたのか誰も知らない。

 分かっているのは、神出鬼没であり、日中はじっとしているが、夜中にこっそり動き出しては、また別の場所に移る。


 使用人たちは、あの座敷童子を親しみを込めて、(つむぎ)さんと呼んでいる。


 紬さんを見て、お辞儀をした者は、今日一日、幸運が訪れるとか、無いとか。


 俺も婆やに習って、お辞儀をしておく。

 どうか、九十九神楽家が存続しますように。




 婆やが部屋を出た後、また『周天巡霊』をやろうとする。


 けど、


 「………」


 俺は無言で紬さんを見る。


 ジ……………。


 何か…紬さんから視線を感じるんだよな。

 集中が出来ない。


 「つむぎさん、おれのこと…みてる?」

 「………」


 俺の問いかけに、紬さんは無言を貫くのみ。

 まぁ…悪さをしないなら、別にいいんだけど。


 ちなみに、俺が紬さんを見て、懐かしい気持ちになった理由は、紬さんも将来的に、死ぬ…というか、消える。


 俺が住んでいる九十九神楽本家の屋敷は、そう遠く無い未来に、大火事によって無くなる。

 その過程で、座敷童子の紬さんも消えるのだ。


 座敷童子は一度、家に住み着くと、その家と一蓮托生。

 家が無くなれば、座敷童子にとって、消滅を意味する。


 安心して、紬さん。

 この屋敷も守る。紬さんも守る。

 大火事なんて起こさせない。


 決意を固め、俺は霊力の鍛錬を再開させる。


 ジ……………。


 うん…やっぱり視線を感じる。









 1日後。


 「ふぁ…」


 俺は布団から起き上がり、欠伸をする。

 今日も、『周天巡霊』で、霊力の操作訓練をせねば。


 昨日は、休み休みやっても、数回でバテてしまった。

 霊力を循環させるのは、本当に大変だ。


 でも、霊力の鍛錬は根気と積み重ねだ。


 俺は昨日と同じく、部屋の真ん中に行き、『周天巡霊』をしようとする。


 そこで、ジ……………。

 また視線を感じる。


 俺は部屋の隅を見る。


 案の定、座敷童子の紬さんがいた。


 しかも、気のせいか。昨日の位置から動いていないか?

 若干、俺が布団で寝ていた場所に近づいているような。


 ………気のせいだよな?

 今日も紬さんの視線を感じながら、『周天巡霊』をするのだった。









 そして、1日後。


 「ふぁ………ん?……んん?!」


 起きて早々、視界の片隅に紬さんを認識する。

 昨日と、また違った場所で。


 昨日よりも、さらに俺が寝ている場所に近づいてる。

 俺が起きてる時は動いていないのに、夜中にゆっくりと移動して、俺に近づいているのか?


 今日も紬さんから視線を感じながら、鍛錬をする。









 さらに、1日後。


 「………」


 紬さんが俺の布団の数メートル先にまで迫っていた。


 これは勘違いでも何でも無い。

 確実に近づいている。


 何が目的で、俺に近づいているのかは知らない。


 今日は、かなり近くからの視線を感じながら、鍛錬をするのだった。









 もう、1日後。


 「ふぁ…うわ?!」


 欠伸が完了する前に、驚いてしまった。

 枕元にまで迫っている紬さんに。


 俺は顔を強張らせる。

 一体何が目的なのか。


 俺は思い切って、顔を近づけさせる。


 恐らく5歳ほどの女の子を模倣した精巧な人形。

 俺は恐る恐る、紬さんの顔を突っつく。


 プニプニ。

 意外と顔は柔らかい。


 触り心地が良かった。


 なので、つい魔が刺して俺は今度、紬さんのおかっぱ頭の髪に触れようとする。


 もう少しで俺の手が髪に触れる…その瞬間、


 「これ、宵明。女の髪を勝手に触るものでは無い」


 急に、口が開き、喋り出す。

 大きな目がはっきりと俺の顔に向けられていた。


 「おお?!」


 いきなり喋り出したので、俺は驚きのあまり、後ろに転げ落ちた。


 体勢を立て直しつつ、紬さんを見る。


 「つむぎさんが……しゃべった」

 「ふむ…話すのは久方ぶりか」


 訝しげに見る俺を気にせず、紬さんは淡々と話す。


 「数日前から屋敷から妙な気配を感じた。気配の出どころは、この部屋。数日間、この部屋にいたが、妙な気配の原因は…お主じゃな、宵明」

 「お、おれに?」


 心当たりは………ある。

 それも凄く。


 数日前に、この部屋で何があったか。


 それは、俺が18歳の記憶を保持したまま、3歳の体である過去の自分に戻ったこと。


 座敷童子は吉報と凶報を知らせる妖怪でもある。

 まさか、紬さんは、過去に戻ったことを、妙な気配として感じ取ったのか。


 「悪き気配では無い。だが、同時に良き気配でも無い。今後、宵明…お主には………」

 「おれには……?」


 俺が紬さんの言葉の続きを書こうと、身を乗り出していると。


 ドタドタドタ!!

 誰かが廊下を走る音が聞こえる。


 その足音は、俺の部屋に近づいていき。


 ガラ!

 部屋の障子が開けられる。


 部屋に入ってきたのは、婆や………では無く、


 「ショウちゃーーーん!!!」


 20代中盤ほどの女性であった。




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