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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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58式神術




 突然、部屋の中に大量の悪霊が出てきて、俺、福丸、忠吉、ヨツミは慌てふためく。


 黒いシミ…悪霊たちは、俺たちがいる居間の壁や天井、床に至るまで、ありとあらゆる場所から大量に出現し、動き回る。


 そのいくつかは、俺に興味を持ったのか、床を這いずり、俺の近くに来ては離れるを繰り返している。

 正直、ちょっと怖い。


 『宵明様、私から離れないでください』

 『ニャ?!ぼ、僕も!』


 俺を後ろで守りつつ、苦無を持ちながら、周囲を警戒をするヨツミ。


 戦えない福丸が、慌てて俺のそばに寄る。


 『ぼ、僕も守ります』

 『鼠…貴様は戦力外だろ』

 『う……それは』


 忠吉も俺の傍により、守ろうとするのを、ヨツミは余計な事をするなと訴える。

 こんな時でも、仲の悪い鼠と兎。


 そんな俺たちの様子を見て、典子先生はケラケラと笑う。


 「なんだい?悪霊を見るのは、初めてかい?」

 「は、はい。初めてです!」


 二回目の人生では、悪霊に遭遇するのは初めてである。


 俺も一回目の人生ですら、悪霊と遭遇するのは稀である。

 怪異みたいに頻繁に出現するわけじゃないからな。


 悪霊は、現代でも霊力のように、はっきりした正体は分かっていない。


 しかし、怨念や後悔を持って死んだ人の霊力の集合体なのでは?

 というのが、有力な説だ。


 怪異と同じく、人や妖怪を襲うことは、度々ある。

 悪意と害意が詰まった霊力の塊ゆえに、攻撃性が高い。


 そのため、悪霊は見つけた瞬間に、退治が基本だ。


 悪霊を専門にする陰陽師とは、事前に聞いた先生からの情報に無かった。

 部屋にいる悪霊たちは、逆に典子先生には、何かする動きも気配もない。


 「まぁ…生徒を、いつまでも怖がらせるのも味気ないか」


 典子先生が自身の霊力を抑える。


 それに伴い、部屋に充満していた悪霊も消え始める。

 人の悲鳴みたいな耳障りな音も無くなる。


 重苦しい空気が解かれ、俺たちも警戒を解く。


 「ほら、なにボサっとしてる?掃除を片付けな」

 「は、はい!」


 俺は一息ついてから、再び残りのゴミを片付け始める。


 そうか…この部屋には、大量の悪霊が潜んでいたんだ。


 だから、初めてこの家に来た際に、福丸が敏感に嫌な気配を感じていた。

 そして、虫などの小さい生物も、悪霊を嫌がって、ゴミだらけの家にも寄らないのだ。


 それにしても、悪霊か。


 典子先生は、相当癖の強い式神使いのようで。




 典子先生と俺たちがいる居間のゴミは、片付けた。


 忠吉も、ヨツミも、一旦消しておいた。

 召喚し続けていると、霊力を食うからな。


 「ところで、アンタ…えっと……」

 「宵明です」

 「そうだった…宵明。アンタは、式神と式神術について、何処まで知ってる?」


 典子先生から、式神と式神術について聞かれる。


 「式神は、陰陽師に指令によって動く鬼神、もしくは精霊。仲間のようなものです」

 「では、式神術は?」


 これに対して、俺は右手の指を2本立てる。


 「式神術は、主に2種類あります。「式神契約術」と「式神生成術」の2つ」


 典子先生は、興味深そうに俺を見る。


 「ほぉ…じゃあ、その、2つの違いは?」

 「式神契約術は、妖怪と契約を結び、その妖怪を自身の式神とする術。式神生成術は、媒体となるものに、霊体や精霊を降ろすための道具を使って、霊力による式神を生み出す術です」


 俺の説明を聞いて、典子先生は満足気に頷く。


 「なるほど、一丁前に式神術の基礎知識は押さえていると。これなら、ご丁寧に式神や式神術のナンチャラを教える手間は省けるね」


 さっき言った式神や式神術に関しての知識は、一回目の人生で学んだことだ。


 というか、俺はこれでも式神に関して比類なしの巴母さんの息子。

 式神について、誰よりも知っている。


 本当は、母さんから式神術を教わる(母さんも喜んで教えそうだし)のが良いだけだ、母さんは忙しいしな。


 そうそう…今言ったように、式神術には、2種類ある。


 ・式神契約術

 ・式神生成術


 元々存在する妖怪を式神にするか、道具を使って自分で式神を生み出すかの違いである。


 「アンタのそばいる、そこの猫又は…」

 『僕、福丸。宵明の始まりの式神!』


 福丸は、始まりの式神という部分を強調して言う。


 「ああ、そうかい。福丸だな。宵明の式神の福丸は、式神契約術で契約して、式神にした妖怪だろう?」

 「そうです」


 5歳の誕生日に、妖怪である福丸と正式に式神として契約したことがあったが、あれがまさに「式神契約術」である。


 巴母さんが持っていた直径2メートルほどの環状の和紙に文字が書かれた『契約霊環紙』を用いて、互いの髪の毛と毛の一部を使い、契約を果たした。


 契約後は、福丸と見えない線で繋がっているような感覚がするのだ。


 この契約により、以下の2つが出来る。


 ・互いの危機的状況を把握できる

 ・少しだけ霊力の譲歩が可能


 これは、「式神契約術」において、初歩的なものだ。


 もっと強力な契約を行えば、出来ることが増えていく。

 とはいえ、今のところ、俺と福丸との契約は、現在の契約状態で十分である。


 「えーと…確か、この辺りに……」


 典子先生は、居間にある箪笥の引き出しを開けて、何かを探し始める。


 「お、あった」


 そして、探して出てきたものは、手の平に丸々収まるような大きさの白い和紙。

 それも、人の頭部、両腕、胴体が備わったような形の和紙である。


 あれは、知っている。


 「それは、式札ですね」


 陰陽師…特に、式神使いなら必須アイテム『式札』である。


 式神契約術以外の、もう一つの式神術である「式神生成術」で必ずといって使う和紙。

 あれに、式神を降ろすのだ。


 式札以外にも、式神を生成するための道具はある。


 でも、コスパを考えたら、式札が最も適している。


 「アタシが見本として、ちょっくら、簡易的な式神生成術をやる。見ておきな」

 「おお!」


 典子先生が直々に、式神を作る。


 一挙一足見逃さないように、しっかりと見ないと。


 典子先生は、箪笥から出した何枚かの式札の内、一枚を持つ。

 そして、目を瞑り、唱えだす。


 「幽世(かくりよ)に漂う形なき霊体よ。我の声に導かれ、現世の器に降り来たれ」


 それは、式神生成術を行使する際に、唱える一般的な詠唱。

 詠唱自体は、霊術の一つであり、霊力を言葉に乗せることで、大きな効果や複雑な術を発動する。


 唱えるのと同時に、典子先生は霊力を手に持っている式札に込める。


 静まり返る部屋。

 何か起こる気配がない。


 そう思っていたら、式札に込められた典子先生の霊力は、別の霊力が何処からか発生して、式札に入る。

 いや…この場合、"降りる"か。


 典子先生の霊力を呼び水に、普段は現世にいない霊体が、式札という器に乗り移ったのだ。


 「一丁完了」


 典子先生が、持っていた式札をテーブルの上に乗せる。


 ピョン。

 次の瞬間、式札が跳ねる。


 「現世の裏側にある世界…幽世(かくりよ)から霊体を探り出し、適切な霊体を呼び込んで、器に降ろす。これが、基本的な式神生成術。本当はもっと長い詠唱が必要だけど、訓練次第で、簡易的な詠唱でも、式神は作れる」


 さっきまで、ただの白い和紙で作られた物だったに、まるで意思が宿ったみたいに、テーブルの上を歩いたり、跳ねたりする。


 式札に霊体が降り、一体の式神となったのだ。


 福丸のような妖怪や、俺の術式『十二支将』の式神である忠吉とヨツミとも、また違う存在。


 『可愛い!』


 テーブルで動く式神を珍しそうに眺める福丸。

 福丸は、式札による式神を見るのは、初めてか。


 腕を伸ばして、肉球で触ろうとして、それから逃げる式神。


 「と、こんな感じで式神を作るって訳だ。だけど、アタシが主に使うのは、この普通の式札じゃねぇ」


 典子先生は、今度は箪笥からではなく、部屋の壁の隅に置かれたポーチに手を伸ばす。

 何の変哲もない黒いポーチ。


 そのポーチの中に手を入れ、取り出したのは、また式札であった。


 唯一違うと言ったら、色だ。


 新しく取り出した式札は、真っ暗な紙で作られ、何か赤い字が刻まれている。


 「この悪霊専用の式札を使う」

 「なんか…禍々しいですね」

 「そりゃあ、悪霊を降ろすための式札だ。普通の式札だと、降ろせねぇ」


 典子先生は苦笑いする。


 悪霊専門の式札なんて、一回目の人生でも見なかったものだ。

 つまり、相当珍しい。


 興味本位で、ついジッと見てしまう。


 「悪霊を操るなんて、危険じゃないんですか?」

 「危険か危険ではないかで聞かれると、危険だね。アタシが悪霊を態々操るのは、悪霊の有用性と、"アタシ自身の術式"が大きい」

 「悪霊の有用性と先生の術式?」

 「悪霊を降ろして生成した式神は、良い子ちゃんじゃない。さっきの式神と違い、簡単に命令に従わないし、最悪降ろした者に牙を向くこともある」


  典子先生は指を1本立てる。


 「それでも、メリットはある。一つは普通の式神よりも、基本的に戦闘力が高い。悪霊は元々怨念の集合体と言われるからね。攻撃性そのものが高いんだよ」


 そして、指をもう1本立てる。


 「さらに、もう一つ。悪霊による式神は、敵に様々な呪いを付与できる。これが強い」

 「ゲームで言うところの状態異常ですか?」

 「適当に言えば、そんなもんだ」


 ・通常の式神より戦闘力が高い

 ・呪いと言った状態異常を敵に与えられる


 それなら、態々悪霊の式神を使うメリットは出てくる。


 そこで、典子先生は煙草の箱から、煙草を取り出し、火をつけ、吸い始める。


 「で、アタシの術式だけど。アタシはね…『黒ノ巣』という術式を持ってる。一言で言えば、悪霊に好かれやすいのさ。それが悪霊を降ろすのに、相性が良い」


 典子先生が持つ『黒ノ巣』という術式。


 名前からして、悪霊に関連した術式っぽい。

 術式の名前は、概ねその性能を表した名称をしている。


 「強そうな術式ですね」


 俺が忖度の無い感想を述べる。


 すると、典子先生は途端に真顔になる。


 「良いことはばかりじゃ無いよ。アタシは生まれつき、この術式を持っていたせいで、何度悪霊に殺されかけたか。もし、選べるんだったら、術式無しで生まれたかったよ。………そんで、”普通”の人生を歩みたかった」


 そう語る典子先生は、真顔でありつつも、何処か悲壮感を感じさせた。




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