54十二支将
『十二支将』…それが、俺の術式名である。
式神系の能力であり、12人の式神と契約して、操る能力。
俺が眠っている中、訪れる十二の扉が存在する異空間。
あの扉の一つ一つに式神が待機している。
扉の先に待機している式神と正式に契約を結べば、外の世界に顕現させ、仲間に出来るのだ。
壱の扉には、鼠の忠吉。
肆の扉には、兎のヨツミ。
一の鼠に、四の兎。
感の良い人は、もう気づいただろう。
俺の術式のモデルは、まさに十二支だ。
古代中国に起源を持つ「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の12種類の記号の総称のアレである。
因みに、俺は蛇年。
あの異空間の壱の扉から、時計回りで順番に、十二支に基づいた式神がいるのだ。
つまり、合計12人…もしくは、12匹による術式固有の式神を仲間に出来ると言う事だ。
残りは、牛、虎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪。
あの異空間は、どれかの扉が入室できる状態でないと、行けない。
今回、肆の扉が開けていたが、初めに来た際は、肆の扉は開かなかった。
どのタイミングで、いずれの扉に入ることが出来るかは分からない。
何か条件があるのか?
何はともあれ…これから訪れる九十九神楽家への不幸を防ぐためには、まさに十二支将の力が不可欠であると考える。
昨晩、兎と忍者になる式神…ヨツミとの契約を果たし、早速その術式を確認した。
兎形態は、影分身。
人形態は、二段ジャンプ。
簡単に言えば、そんな感じだ。
『凄い!今度の術式は、何かで使えそう!』
『ふん…当然です』
福丸がヨツミの術式を褒める。
今度の術式は…と言っている辺り、忠吉の二つの術式は、使えそうになあと思っているのだろう。
まぁ…一回目の人生でも、忠吉の術式は、使える場面は殆ど無かった。
忠吉は『十二支将』最弱なので、仕方が無い。
一方の人形態のヨツミは、当然の評価であると、胸を張る。
私は優秀なのだからと、言わんばかりである。
だが、実際優秀なのは、確かだ。
ヨツミは、これから訪れる婆や救済の良い戦略になる。
俺は縁側に座り、大きく伸びをする。
『どうぞ』
「ん、ありがとう」
すかさず人形態の忠吉が、俺にお茶を差し出す。
俺は、お茶を啜りながら、忠吉の隣に座る婆やを見る。
婆やは一回目の人生において、俺が小学校に上がる直前に死んだ。
怪異に襲われて死んだのだ。
それを回避するために、ヨツミは必要だし、出来れば…他の式神の助けも借りたい。
「あと10人か」
『そうですね、宵明様。あと10人ですね』
俺の言葉に、忠吉が肯定する。
現在、顕現できる式神は、忠吉とヨツミの2人。
残るは、10人。
次は、どの扉が開くのか。
一回目の人生通りの順番なら、七番目…漆の扉だ。
でも、漆の扉の先にいる式神の契約条件は、なかなか簡単ではない。
十二支将の式神は、契約するには、異空間の各扉に入って、式神から出される契約条件をクリアしないと行けない。
ヨツミの場合、かくれんぼのように。
一番初めに契約した忠吉に、契約する条件がないのは、実は例外だったりする。
他の式神には、しっかり契約条件が存在する。
一回目の人生にて、他の何人かの式神が出す契約条件は知っている。
どれも癖が強い。
出来ることなら、婆やを助けるために、あと2人ぐらい式神と契約したい。
早く次の扉が開いて欲しい。
「ふぅ…」
俺は、一息つく。
……と、ここまで考えたが、俺は思考を止める。
いくら考えても、次のいずれかの扉が、いつ開くかは知らない。
次の扉が開く期間や条件みたいなものは、把握していないのだ。
つまり…ここで、考え込んでも仕方がないのだ。
「……婆や、きっと助けるからね」
「え?ぼっちゃま…何か言いました?」
「大丈夫、こっちの話」
何でもないと首を左右に振る俺。
ドン!
その時、軽い衝撃が俺の背中に伝わる。
「おにい!」
次いで、幼い女の子の元気な声がする。
それだけで、誰か分かる。
振り向くと、案の定、朱色の髪をした女の子がいた。
俺の妹の茉昼だ。
俺は、背中に抱きつく茉昼の背中をさする。
「どうした、茉昼?」
「あしょんで!」
遊んで欲しいようだ。
いつも通り元気いっぱい。
「そうか、遊んで欲しいのか。今から、俺…稽古なんだけど…婆や、相手して」
「ん〜!おにい!あしょんで!」
「ふふ…お嬢様は、どうやらぼっちゃまと一緒に遊んで欲しいようですね」
俺と遊びたいと駄々をこねる茉昼。
はぁ…仕方ないか。
本来なら、これから周天巡霊を少しやってから、素振りの稽古だけど、少しぐらい妹と遊んで良いだろう。
俺は茉昼を連れて、庭に行く。
そこで、
「だれ!」
女性の忍者…くノ一姿のヨツミを目にする茉昼。
『宵明様、こちらは?』
「俺の妹の茉昼だ」
『宵明様の妹ですか。余り、似ていな…いえ、何でもありません』
おい、今…俺と茉昼が似ていないと言いかけただろ。
確かに、母さん似の茉昼と、母さんに余り似ていない俺は、兄妹に見えにくいだろうな。
ヨツミは、礼儀正しく茉昼にお辞儀をする。
『お初にお目にかかります、茉昼様。私は肆の兎…ヨツミと申します』
「つよみ!」
茉昼はヨツミに興味津々な様子で、近づき、思いっきり足に抱き着く。
『元気がございますね』
ヨツミは眉根を寄せつつ、茉昼に引き離そうとする様子はない。
「よし!これから、ヨツミと福丸と一緒に、遊ぶか!」
「あしょぶ!」
大はしゃぎの茉昼。
『え?僕まで?』
『召喚されて早々…遊びですか』
茉昼との遊びに付き合わされる福丸とヨツミ。
その日は…ヨツミが得意なかくれんぼを、庭で行い、一日を過ごした。
楽しい一日だった。
そして、その日の夜。
いつも通り大広間にて、九十九神楽のみんなで集まり、夕食を取る。
大広間にいるのは、当主の爺ちゃんに、俺と茉昼、そして…真兄除く正妻の文世一家と、二番目の妻の幸子一家。
「匠よ」
夕食を食べている最中、爺ちゃんが匠兄に尋ねる。
「『十二霊符』を会得して、2ヶ月経つが、毎日稽古をしておるのか?」
『十二霊符』とは、俺と同じ誕生日に、俺が『十二支将』を会得したのと同時期に、匠兄が会得した術式。
この『十二霊符』は、全当主である俺の父親である誠と同一の術式である。
霊術を強化・補助するための霊符を十二枚召喚させ、操る能力。
汎用性においては、最強格の術式だ。
でも、それ故に、扱いは簡単ではない。
日々の努力と稽古が必要になってくる。
「ええ…御当主様。匠は、術式を自覚してから、毎日、稽古を積んでいます」
爺ちゃんの質問に一早く答えたのは、匠兄ではなく、母親の幸子義母さんである。
匠兄の肩に手を置いて、少し誇らしげな顔をしている。
普段の神経質そうな顔とは、違う。
匠兄が、前当主の術式を受け継いだのが、本当に嬉しいようだ。
俺が術式を自覚してから、本格的に剣術の稽古に取り組んでいる最中、匠兄は霊力鍛錬や霊術の学習だけでなく、術式のコントロールを向上させる稽古に勤しんでいるのだ。
「そうか。匠…稽古に励んでいるようだな」
「はい」
一方の匠兄は、真顔で答える。
余り嬉しくない様子である。
稽古が辛いのかな?
一回目の人生でも、匠兄は幸子義母さんから大きな期待を背負わされていたからな…プレッシャーを感じているのか。
そして、爺ちゃんは今度、俺に顔を向ける。
「宵明も、稽古を頑張っているようだな。なんでも、使用人や家宰の桐生からの話を聞くに、霊衛から剣術を教わっているそうだと」
「うん、潤一平先生っているんだ。正剣一刀流と教わってて」
「ほぉ…正剣一刀流。三大流派の一つの。宵明も、稽古に励んでいるみたいだな」
「俺、剣も強い陰陽師になりたくて」
「そうか…結構。無理のない範囲で、稽古を続けることじゃ」
その会話を聞いて、幸子義母さんは、俺を鋭く睨む。
「陰陽師が剣とは。はしたない」
「これ、幸子」
爺ちゃんが、幸子義母さんを諫める。
と言っても、陰陽師が剣など、実際変わっている。
「わたしも、じゅつしゅき、ほしい!」
俺の隣にいる茉昼は、自分も術式が欲しいと言い出す。
「茉昼が、術式を自覚するのは、もう少し待ってからだな」
「うう、ほしい!」
今すぐ術式が欲しいと駄々を捏ねる茉昼。
本来、術式というものは、この世界の一部の人たち自覚できる魂の力。
早々会得できるものではない。
でも、一回目の人生で知っている。
茉昼は、まさに高名な陰陽師である巴母さんの血を受け継いだ子。
あと数年後に、その子供として、相応しい術式を自覚するのだ。
そして、茉昼だけではない。
九十九神楽本家に生まれた俺を含めて、12人の子供全員が、術式を持つことになる。
それを知っているのは、世界でまだ俺だけ。
この12人の術式は後に…九十九神楽に大きな奇跡を生み出すこともあれば、取り返しのつかない悲劇を生み出すことにも繋がる。
とはいえ、それはまだ先の話。
今は夕食を楽しもう。




