52かくれんぼ
俺の術式によって、生み出された異空間にある十二の扉。
その扉の内、肆の扉の先にいた式神。
四つの耳を持った兎。
その兎は、忍者にもなれる。
兎と忍者の式神である。
この式神と正式に契約する条件は、今から始まるかくれんぼで、俺が勝つこと。
俺が見つける側で、式神が隠れる側。
『では…これより一分間…目をお瞑りください。その間に、私はこの屋敷邸の何処かに隠れます。貴方は、この異空間にいられる時間内に、私を見つけてください』
「分かった」
そう言って、俺は両手で顔を隠す。
このまま一分間目を閉じる。
『それでは、私は身を隠します』
くノ一の式神が立ち上がり、隠れようとする。
チラ…。
そっと、俺は両手の隙間から見ようとする。
それを、
『宵明様…不正は行けません』
しっかり注意される。
金色の目を鋭く細めて、俺を睨む。
俺がズルしているのを、しっかり咎める。
「ご、ごめん!」
慌てて、俺はしっかりと視界を両手で塞ぐ。
「1、2、3、4…」
そこから俺は、しっかりと一分間目をつぶって、カウントを取る。
それと同時に、くノ一が離れる気配がする。
この時…俺はさっきのくノ一の言葉に、何か”違和感”を持っていたのだ。
でも、それが何か分からなかった。
「56、57、58、59、60…一分。もういいかい!」
俺は大声で確認するが、返事は返ってこない。
取り敢えず、一分経ったので、俺は式神を探そうと思う。
この異空間にいられるのには、限りがある。
ゆっくりしている場合はない。
式神が隠れていそうな場所は、いくつもある。
まず、屋敷内部。
ここにある屋敷邸には、複数の屋敷がある。その分、隠れられそうな部屋は、何個も。
そして、庭。
背の高い草がある場所もあり、池の中や生えている木々などを含めれば、見つけるのは簡単ではない。
俺も一回目の人生の時は、かなり苦労した。
どこを探しても、式神の姿は、いなかったから。
何回も何回も探しても、見つからないので、終いには式神から呆れた顔で、『分かりました。少し手加減します』と言われる始末。
手加減されたけど、一回目の人生で、かくれんぼで式神を見つけられたのは、小学生に上がる直前ぐらいだったかな?
かなり掛かったイメージだ。
でも、二回目の人生の俺は、一味違う。
何せ、今の俺には「練気」がある。
俺は体にある霊力を編み物ように組んで、濃密な霊力…練気を纏う。
これで、身体能力が向上する。
「おら!」
それによって、上がった脚力で、屋敷中を走る。
くノ一は17歳ほどの少女の体格をしている。
隠れられる場所がいくつもあっても、細い箇所や隙間に隠れられるサイズではない。
5歳らしからぬ速度で、広間や廊下、床下、便所、天井裏に至るまで。
注意深く隈なく探す。
でも、くノ一の姿は何処にもない。
ならばと、隣接している他の屋敷も探し出す。
「何処だ!何処だ!」
練気をフルに使って、複数の屋敷を探索する。
しかし、くノ一は発見できない。
俺は一旦、元いた広間に戻る。
では、他の場所に?
この屋敷邸を隅から隅々まで探さないと行けないのか。
「すぅ…はぁ…落ちつけ」
そこまで考えて、俺は深呼吸する。
慌てては行けない。
一回目の人生の時も、俺は無我夢中で、探して、まったく探せなかった。
その最大の理由は、分かっている。
くノ一の式神は、かくれんぼにおいて、”移動しながら”隠れているのだ。
もっと言えば、目視で俺の姿を確認しつつ、隠れる場所を、その都度変えているのだ。
一回目の人生の時も、これでやられて、全く見つけられなかった。
俺は式神が常に同じ場所に、ずっと隠れていると考えていたのだ。
つまりは、今もこうして、何処かで俺の姿を遠目で確認しつつ、隠れている。
俺がいるのは、襖が開け放たれた屋敷の中。
ならば、庭からなら、俺を確認できる。
そこまで考えて、俺は練気を意識して、ジッと目を凝らし、屋敷から庭を見る。
「何処だ〜」
練気で上がる視力。
景色がより詳細に見える。
草…池…石…木々。
うん、俺を確認するなら、木が最適だ。
それも、木の上の方。
その時…木々の中の一本の木。
その枝。
その枝が、微かに動いたような気がした。
この場所では、風は吹かない。
俺は目を細め、枝を見る。
何の変哲もないように見えるが………少しだけ見えたのは、白い髪。
「見つけた!」
俺は練気を使って、一気に木へ駆け寄る。
それと同時に、ガサガサ…と、数本の枝が揺れる。
俺に居場所を突き止められたことに、向こうも気づいたみたいだ。
慌てて移動したのだろう。
確認したのは、髪の一部。
これは、見つけたことにならない。
しっかりと全身を確認しないと。
俺は目的の木に辿り着く。
目的の木の根元に、葉っぱが複数落ちている。
慌てて木から別の場所に移動した拍子に、落としたのだろう。
やっぱり、さっきまで、ここにいたんだ。
では、今は何処にいるのか。
辺りを見渡す。
周囲には、同じ木々……だけでなく、倉庫みたいな建物もあった。
江戸時代なら、物置に使われそうな建物。
その建物の両開きの扉が、少しだけ開いていた。
つまり、誰か入った。
俺は物置に近づいて、両開きの扉を押す。
ギィィ…。
渋い音と共に開き、中が見える。
「本だな」
そこには、多くの古い本があった。
物置と思っていた建物は、どうやら書庫だったみたいだ。
本特有の紙の匂いが、俺の鼻腔を刺激する。
さて…くノ一は何処にいるのか。
そう思って、中を探す。
何処にもいない。目につくのは、当然本。
そこで、俺は好奇心で、本の表紙を見る。
でも、
「読めん」
何を書いているのか分からない文字で書かれてある。
平仮名や漢字を続け字のようにした文字。
こういうのを、くずし字とか、江戸文字というんだっけ?
なんとなく読めそうなんだけど、読めない。
ガタ。
突然、背後で音がする。
その後、タッタッタ…という小走りに走る音。
振り向くと、両開きの扉が片方動いていた。
やられた。
きっと両開きの扉の裏に、息を潜めて隠れていたのだろう。
「待て!」
俺は急いで追う。
書庫の外には、くノ一の姿はない。
見失ってしまった。
俺は、くノ一が逃げた方向を考える。
ここからなら、木々の方や高い草に隠れられる。
もしくは、近めの屋敷に逃げ込むことは出来る。
俺は考えながら、書庫を離れる。
手あたり次第見つけようとするのは、悪手だ。
一回目の人生でも、あのくノ一は、俺の意表をいつも突くのだ。
移動しながら隠れていたのもあるが、隠れているはずの無い場所に隠れて居たり、実はすぐ近くに隠れていたなど。
「………ん?」
そこで、俺は足を止める。
実はすぐ近くに隠れていた?
もしや、くノ一は…車庫から離れたように思えたけど、まだ近くにいる?
俺は、足を止め、さっきまでいた書庫を振り返る。
書庫の屋根部分。
そこに…少しだけ見える白い髪。
「いた!」
『っ?!』
くノ一は扉の外に出て、遠く離れていると思わせて、実は屋根に隠れていたのだ。
慌てて、逃げるくノ一。
くノ一は、俺の視界に入らないように、書庫の影を使い、上手く身を隠し、近くの高い草原を頼りに逃げる。
高い草が生えている場所に沿って、俺も追いかける。
「今度は何処だ!」
高い草原が途切れた場所は、丁度屋敷邸の真ん中。
傍にあるのは、屋敷邸の中央に位置する池。
その池の表面が、少し波打っている。
俺は思いっきり、池の中へダイブする。
冷たい水が俺の体を覆う。
池の中は意外と浅く、5歳の俺が池に底に足をつけば、ギリギリ頭が出る深さである。
そして、俺は見つける。
池の中で、黒と赤の装衣を着用し、金色の目と短い白い髪も持ったくノ一を。
くノ一は俺と目が合うと、ギョッと驚く顔を見せる。
俺は腰を屈め、頭を池の中に突っ込んだ状態で、言う。
「びゅいづけだ!」
見つけたと言い放つ。
くノ一は完敗だとでもいうように、残念そうに池の中で、頭を垂れる。
こうして、俺は肆の扉の先に来て、たったの一日で、式神と契約する条件を満たせてしまった。




