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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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48忠吉の術式




 俺が潤一平先生の生徒になって、剣術を習ってから、およそ2ヶ月が経った。


 11月の早朝と言うこともあり、冬特有の冷たい風が吹き始める。


 そんな冷たい風が吹く九十九神楽本邸の広い庭の一箇所では、


 「38…39…40…41…42…43…」


 ブン!ブン!ブン!

 木刀が風を切る心地よい音が聞こえる。


 俺が木刀で素振りをする際に発生する音だ。


 ひたすら、木刀の先を頭の後ろに持って行き、腕を前に出して、真っすぐ振り下ろす。

 体の正中線に沿うように、素振りを行う。


 目の前に、俺と同じ身長の子供がいるとして、その頭部の真ん中を狙う感じ。


 今が早朝なので、素振りで少し暑くなった体に、冷たい風が当たって、丁度いい。


 早朝からの素振りは、この2ヶ月ですっかり俺の日課になった。

 先生の事務所には、週に3日通っており、それ以外の日は、こうして自主的に素振りをしているのだ。


 普段は午前に『周天巡霊』をやるけど、現在は素振りを始める前に少しやって、素振りをメインにやる。


 先生から教わった素振りの方をひたすら反復練習するのだ。


 それだけだけど、何事においても基礎が重要。

 基礎が大切なのは、先生が口を酸っぱくして言っていることだ。


 「46…47…48…49………50」


 素振りの50回目を数える。


 俺は腕を回したり、肩を回したりして、身体を解す。

 数分間休憩した後、また素振りを再開させる。


 さっきの素振りとは、別の素振り。


 今度は、真っすぐではなく、俺から見て右上に木刀を振り上げ、左下に振り下ろす。

 そして、左上に振り上げ、右下に振り下ろす。


 それを繰り返す。


 これは相手の肩を斜めに斬る感じだ。

 今度も50回素振りをする。


 次は、木刀を地面と完全に水平に構えて、水平に保ったまま、素振りをする。

 これは、相手の胴体を狙う感じである。


 これも50回素振りする。


 似たように、右下から左上に、左下から右上への切り上げを50回。

 真下から真上への、真っすぐな切り上げを50回。


 これで、1セット目終わり。


 この一連の流れが、潤一平の型のメニュー。

 基礎を徹底的に組み込んだ構成になっている。


 俺は木刀を地面に置き、俺自身も地面に座り込む。


 「ふぅ…」


 一息ついて、長めの休憩を取る。

 すっかり火照った体を冷やすために。


 そこへ、スッと水の入ったペットボトルが出される。


 『どうぞ、宵明様』


 俺に水を寄越したのは、鼠色の髪に、鼠色の木綿を着て、俺と同じ金色の目をした10歳ほどの少年。

 人形態の忠吉である。


 俺の術式によって、契約した式神の忠吉は、鼠形態も人形態の両方になることが可能。


 俺と忠吉は近い距離なら、念話という頭の中で会話が行えるが、人形態になると、自身の口から人の言葉を発せられる。

 これは、他者にも聞こえる。


 「うん、ありがと」


 俺は手渡されたペットボトルの口を開けて、水を飲む。


 喉が渇いていたのか。

 ペットボトルの水は、直ぐに半分になる。


 水を飲んだ後は、忠吉はタオルを渡してくる。


 『汗、拭きますか?』

 「拭かせて貰おう」


 手渡されたタオルで、額の汗を拭う。


 使い終わったタオルを忠吉に戻す。

 忠吉は縁側に座り、そばにあるブラシを取って、福丸の毛を優しく擦る。


 三毛猫特有の三色の毛並みが、ブラシが移動するごとに揺れる。


 『福丸さん、どうですか?』

 『ニャ〜気持ちいいニャ』


 福丸はご満悦である。


 見ての通り、今の忠吉は人形態になって、俺や福丸のお世話係みたいなことをしているのだ。

 いつも婆やが俺にやっていることを、忠吉がやっているようなもの。


 福丸の毛並みをブラッシングした後は、雑巾で縁側の床を綺麗にし始める。


 一回目の人生の時にも、こうして忠吉は雑用をしていた。


 忠吉自体、直接的な戦闘力が皆無である。

 基本スペックが、見た目通りの子供なのだ。


 本人も、それを自覚しており、戦闘以外で役に立つために、進んで雑用をしている。


 「忠ちゃん、ご苦労様」

 『あ、常様』


 縁側に来た婆やに対し、忠吉は礼儀正しく座りながらお辞儀をする。


 そんな忠吉に、婆やは軽く笑う。


 「ふふ…忠ちゃんは今日も、ぼっちゃまを見てくれてたんですか?」

 『はい。僕には、それ以外出来ることが無いので』

 「そう卑下しないで下さい。ぼっちゃまのお世話も、大切な仕事ですよ」


 婆やは忠吉の鼠色の髪を、ヨシヨシと撫でる。


 「ぼっちゃま…お茶とお茶菓子は、どうですか?」


 婆やが待ってきたお盆には、お茶の入った急須と、いろんな煎餅があった。

 美味しそう。


 「じゃあ、頂くよ」


 俺は木刀を壁に立てかけて、縁側に座り込む。

 湯呑みに注がれたお茶を飲みながら、煎餅をポリポリと音を立てて、食べる。


 「ほれ、煮干し」

 『お、煮干し!』


 5歳の誕生日で、婆やから貰った緑色の腰巾着から、煮干しを取り出し、福丸に与える。


 ちなみに、同じく5歳の誕生日で、巴母さんから貰った黒金の糸で紡がれた組紐は、左手首に巻いている。


 俺が煎餅を美味しそうに食べるのを、健やかな笑みで見つめる忠吉。

 そんな忠吉を見て、福丸はある疑問をぶつける。

 

 『忠吉は食事とかしないの?』


 忠吉を式神として契約してから、2カ月が経った。

 そんな忠吉が何かを食べる光景は見たことが無い。


 『僕は何も食べなくても平気です。宵明様の霊力がありますから』

 『宵明の霊力?』

 『はい。僕は宵明様から霊力を拝借して、顕現しています。宵明様の霊力がある限り、僕はずっと顕現し続けられます』


 忠吉は俺の術式による固有の式神である。

 そのため、顕現するのにも、当人である俺の霊力を消費する。


 忠吉とは、見えない霊力の線で繋がっているイメージだ。


 福丸は、さらに疑問に思う。


 『忠吉って、ここのところ…ずっと顕現してるよね?宵明の霊力で、顕現してるなら、宵明の霊力なんて、すぐ無くなっちゃうんじゃないの?』


 顕現するだけでも、霊力を消費する忠吉を出し続けていれば、俺の霊力があっと言う間に無くなることを心配する福丸。


 忠吉は胸を張る。


 『大丈夫です。宵明様の霊力を拝借すると言っても、宵明様の御体に支障が出ない範囲で、ほんの少しだけです』


 忠吉が、ほんの少しと言った通り、本当にほんの少しである。


 具体的にいうと、忠吉を顕現する際に生じる消費霊力よりも、俺の体が霊力を回復させる速度の方が僅かに上というほど。

 本当に、忠吉は低コストな式神なのだ。


 『へぇ……あ!そうそう、これも気になってたけど、忠吉は何か能力とかあるの?』

 『能力ですか?』

 『うん、ちなみに僕は探知っていう能力持ってる』


 福丸は自慢げに髭を見せる。


 福丸の髭による探知は、広大な九十九神楽本邸の外側の怪異の存在すら感じ取るほどだ。


 ただし、お腹が空いていなければ、という条件付きである。

 だからこそ、婆やに貰った腰巾着などに、煮干しを常に入れておく必要がある。


 能力は何だと言われ、俺を見る。

 忠吉が考えているのを、察した俺は頷く。


 そうして、俺の許可を確認した忠吉は、指を2本立てる。


 『能力というなら、僕には2つの能力……いえ、"2つの術式"があります』

 『ニャ?2つの』

 「術式ですか?」


 聞いていた福丸と婆やは、目を見開く。


 それは、そうだろう。

 何故なら、式神に術式があり、しかもそれが2つと聞けば。


 術式とは、それは、この世界の一部の人が持っている魂に刻まれた固有の力。

 つまり、”人だけが”持っている能力なのだ。

 そして、基本的に術式は、1人につき1つだけだ。


 そんな常識を知っているからこそ、福丸と婆やは驚いたのだろう。


 え?では、何故…俺の術式の式神である忠吉が、人でも無いのに、術式を2つ持っているかだと?


 うん、知らん。

 一回目の人生でも、今の人生でも、そう言うものだとしか俺は考えていない。


 きっと何事にも例外があるのだろう。


 忠吉は立ち上がる。


 『僕には、人の姿と、鼠の姿の2つがあり、それぞれの姿に、1つの術式が備わっています。まず今の人の姿ですが…宵明様、宜しいですか?』

 「ん?何だ?」

 『僕を"倒して下さい"』

 「分かった」


 倒して欲しいと言われ、俺は即答する。


 すると、俺は壁に立てかけてある木刀を持って、忠吉に構える。

 そして、霊力を操作して、肉体強化のための練気を体に纏わせる。


 滾る力を感じながら、俺は木刀の先を背中に押し付けるほど、振りかぶる。


 次の瞬間、


 「ぜあ!!」


 気合いの声と共に、渾身の振り下ろしを、忠吉に放つ。


 今の俺の最大攻撃力だ。


 バン!

 軽い衝撃音と、大きな煎餅を叩き割ったような感覚を感じる。


 俺の振り下ろしを受けて、忠吉は消滅する。


 俺の霊力で作られている忠吉のような式神にも、ゲームのキャラクターのようなHPが存在する。

 ダメージを受ければ、当然HPは減り、HPが0になると、消滅する。


 『ちょ!な、何してるの、宵明?!』

 「ま、まぁ?!」


 福丸と婆やは、俺の行動に、混乱する。


 だけど、そんな混乱の声を上書きするように、


 (【術式】『子孫繁栄』)


 何処からか、忠吉の念話による声が聞こえる。

 そして、


 『復活です!』


 俺のそばで、消滅した忠吉が、復活する。

 何事も無かったかのように。


 これこそが、人形態での忠吉の【術式】である『子孫繁栄』。


 性能は、さっき見た通り。

 大きなダメージを受けて、消滅しても俺のそばなら、即座に復活が行える。


 ゲームで言えば、死んでも何度もセーブポイントから復活が行える的な?


 ともかく、俺の霊力が尽きない限り、何度も復活が可能なのだ。


 そして、ドロン!

 少年の姿であった忠吉が消え、


 『チュウ!チュウ!』


 代わりに手の平に乗るような小さな鼠が現れる。

 鼠形態でも、術式がある。


 さて、その内容は、


 (【術式】『窮鼠猫を噛む』)


 忠吉が念話越しに、術式の発動を宣言する。


 忠吉が壁に近寄る。

 そうして、起こったのは。


 ガリガリガリガリ。

 とても小さな…何かが削られる音が聞こえる。


 『え?齧ってる…』

 「齧っていますね」


 福丸と婆やが、鼠の姿になり、屋敷の壁に齧りつく忠吉を見て、何を言って良いのか分からない顔をする。


 一見すると、ただ壁を齧っているように見える。

 というか、ただ齧っているだけだ。


 でも、これこそが、鼠形態での忠吉の【術式】である『窮鼠猫を噛む』。


 本来の窮鼠猫を噛むの意味は、絶体絶命に追い詰められた者が、最後の反撃とばかりに、攻撃に出る事を指す。


 しかし、忠吉がやっているのは、ただ壁を齧っているだけ。

 しかも、全く壁に傷が付いていない。


 攻撃力は皆無なようだ。


 まとめると、忠吉には、人と鼠の姿で、それぞれ術式がある。


 人なら、『子孫繁栄』という、低コストでの復活の能力。

 鼠なら、『窮鼠猫を噛む』という何かを齧りつく能力。


 『どうでしょうか?』


 忠吉がまだ、人の形態に戻り、どうだったかと聞く。

 果たして、福丸と婆やの反応は、


  「す、凄いですね」


 婆やは、気を利かせて褒める。


 『こ、これ…2つの術式って、何かの役に立つの?』


 福丸は、そう聞いたので、俺は率直に答える。


 「まぁ…戦闘では、役に立たないな。日常生活では……………う~ん…なんかの役に立つんじゃないのか?」


 疑問形で言う。

 だって…一回目の人生でも、忠吉の術式が2つ共、これと言って、役に立った時は無かったもので。


 忠吉の術式を、福丸と婆やに見せた後は、俺はまた素振りをやり始めようとする。

 その時、


 「あの…」


 声が掛かる。


 声を掛けたのは、屋敷で働く使用人だ。

 何か用だろうか。


 「正門で、神木と言う方が、いらっしゃっています」


 そう言ってきた。


 神木…そう聞いて、俺は即座に、1人の少女を思い浮かべる。


 神木と言ったら、神木凪桜である。

 彼女が来ているのか。


 俺は素振りを止め、正門に向かう。




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