47潤一平の過去②
「そんなことが…………」
『ガシャ髑髏って、そんなに強いんだ。僕、一瞬で食べられちゃうかも』
一通り、先生の話を聞いて、俺は先生に掛ける最適な言葉が重い浮かばなかった。
俺の膝に乗る福丸は、先生の話から聞いたガシャ髑髏の強さに驚く。
この日本では、怪異だけでなく、妖怪によって命を絶たれる者は決して少なくない。
福丸や禍丸のような人に友好的な妖怪もいるが、中には人に害を為す妖怪もいる。
ガシャ髑髏は、その典型だ。
「この話は、これで終わりじゃねぇ」
「終わりじゃない?」
「この事件の後、俺は事件の全ての責任を取らされて、自衛隊を自主退職する羽目になった」
「は?え…な、何で?」
先生は心底呆れた感じだ。
俺は開いた方が塞がらない。
この話の流れで、何故先生が責任を?
むしろ、ガシャ髑髏という凶悪な妖怪を再度封印した功績を得るだろ。
「俺は副リーダーの立場として、リーダーを死なせ、部隊を壊滅一歩手前までしちまったからな」
先生は苦笑いする。
「そもそもの話…あの島にガシャ髑髏が現れたと言う事実すら…世間には、公表されてねぇ。島の魔除けとして封印されていた強めの妖怪が暴れて、向かった部隊が半壊しつつも、再度封印した…それだけだ」
公表された情報に、抜けが多い。
確かに、パソコンで見た先生の経歴には、ガシャ髑髏に関するものはなかった。
普通は、皆んなで協力して封印したとはいえ、確実に功績の一部としてなるはずなのに。
「なんで公表をされなかったのですか?」
「自衛隊や警察側のお偉いさんが、俺や千景、理人を含めて生き残った奴に、事件を世間に口外しないように命令して、政府も事件を隠蔽したからだ」
「自衛隊や警察側のお偉いさん……政府……」
話が、かなり大事になってきてる。
そこまでして情報を隠すのか。
「政府が事件を隠蔽した理由って…」
「馬鹿な陰陽師が封印を解いたからよ!」
「馬鹿な陰陽師?」
俺の疑問に答えたのは、後ろの座席に座る千景さんが先生の代わりに答える。
千景さんの顔は、怒りに満ちていた。
夫の理人さんが空かさず、千景さんを落ち着かせる。
そこで、理人さんが説明する。
「宵明君、ガシャの髑髏の封印が解けたのは、長年の封印が劣化したとか、封印の墓石が事故で壊れたとかでは無いのです」
ここで、理人さんは一呼吸おいて、
「陰陽師が意図的に墓石をいじったから、ガシャ髑髏の封印が解かれたのです」
「はい?何処の馬鹿が、そんなことを?」
なんて無謀な。
ガシャ髑髏が封印する墓石に手を出すなんて、余程…その陰陽師は馬鹿だったのだろう。
「私も…その事件の後、いろいろ自分で調べたんです。そこで判明したのは、ガシャ髑髏があの島で暴れる前日…島には、本州から陰陽師が来ていたんです。その陰陽師は本来、島の中央にある封印墓石…ガシャ髑髏が封印されている墓石の調査を名目に来ていました」
「つまり、墓石の調査の際に、誤って…ガシャ髑髏の封印を解いたと?」
「そうなります。しかし、そもそもの話、その島にガシャ髑髏が封印されていたことすら、全く情報がありませんでしたし、島の住民すら知りませんでした」
そこまで聞いて、俺はあることを思う。
「その陰陽師が封印を解いたのと、お偉いさんとか政府が、ガシャ髑髏の事件を隠蔽したのには、何か関係が?というか、それなら先生だけの責任ではなく、誤って封印を解いた陰陽師にも、責任ありますよね?」
「そこなんですよ」
理人さんは少し言い辛そうにする。
「封印を解いた陰陽師は、その…かなり……格の高い家出身の方でして。いろんな大人の事情が動きまして」
格の高い家出身の陰陽師。
言い換えると、陰陽師の名家の者。
それだけで、何故理人さんが言い辛そうにしたのか、何故先生が責任を全て背負ったのかの事情が何となく把握した。
つまりは、そういう事だ。
「名家出身の陰陽師がガシャ髑髏を解き放った。その事実が明るみに出ると、陰陽師全体のイメージが大きく下がります。日本にとって、陰陽師の存在はなくてはならないもの。世間への影響力を考慮して、政府が揉み消したんですね」
俺は少しの罪悪感を持って言う。
昔は陰陽師は極一部の者しか知らない役職だったが、現代は子供がなりたい職業ランキング1位な程、大人気な職業となっている。
陰陽師は、現代日本の治安や防衛だけでなく、経済や日常生活においても重要な存在。
さらに、陰陽師の名家は社会的立場においても、強い力を持つ。
権力を持つ者は、身内の不祥事を、出来れば隠したいに決まっている。
それに、名家が不祥事を起こしたという事実は、政府などと言った国の上層部にとっても、都合が悪い。
そう言った様々な観点から、ガシャ髑髏の件は、隠蔽し、責任を先生に合わせた方が都合が良いのだろう。
陰陽師の名家が、身内の不祥事や悪事を、立場が高い者と協力して、隠蔽するのは、実際にある話なのだ。
一回目の人生にて、俺がもっと大きくなった時に、知る話だ。
陰陽師は、世間が思っているほど、ヒーローのようなものではない。
特に、名家では。
自分がやった訳ではないのに、同じ陰陽師名家出身として、罪悪感を覚えてしまう。
俺の言葉を聞いて、先生たちは顔を見合わせ、感心した様子を見せる。
「ガキンチョなのに、よく知ってるな」
「しょ、宵明ちゃん…頭良いんだね」
「5歳とは思えない聡明さですね」
うん、一回目の人生込みで、中身大人だからね。
『名家の陰陽師と言えば、宵明も…むぐ?!』
「うん、福丸…ちょっと黙ってて」
慌てて福丸の口を塞ぐ。
危うく福丸が、俺が九十九神楽だとバラしそうになった。
俺は何を隠そう名家中の名家…御三家陰陽師の子供だ。
先生たちには、俺が御三家の九十九神楽だということは、もちろん隠してるよ。
皆んなには、"津久井"宵明という名前で通ってるから。
「ええ…宵明君の考えの通りです」
理人さんの話によれば、封印を解いた陰陽師の家が、事件のことを口外しないように、徹底的に圧力を掛けたらしい。
謝ってガシャ髑髏を解いたとはいえ、相手は中々の名家の陰陽師。
自衛隊や警察の上層部、政府も出来れば穏便に済ませたかったのだろう。
だから、あの事件で生き残った潤さんに、飛び火した。
封印解除を隠すために、先生に注意が行くようにしたのだ。
胸クソ悪い。
「だけど…いくら、政府が事件のことを隠しても、島に行っていない警察部隊の人たちや、潤ちゃんの自衛隊本部の人たちの間で、噂が広がったの」
千景さんが悔しさからか…ギリっと、奥歯を噛みしめる。
「妖怪退治に島に行ったと思ったら、部隊が半壊して帰ってきたから。噂で有ること無いことが広がって、終いには、潤ちゃんが無理な指令を出して、部隊を半壊させたって、話が出回って」
俺は両手を握る。
なんて酷い噂を。
「特に、潤ちゃんの上司だった仮谷さんって言う人には、友達がたくさんいたから…自衛隊や警察経由の噂で、潤ちゃんを軽蔑する人がたくさんいて」
先生を軽蔑する人。
ここで、俺は少し前に会った大太刀の男が先生に言い放った…恥知らずという言葉を思い出す。
「もしかして、あの大太刀を持った人も」
「ああ…刈谷さんの友人だ」
先生は肯定する。
「刈谷さんは示現鬼神流の使い手として、有名な人だった。自衛隊だけでなく、他の事務所の霊衛にも、友人はたくさんいた。あの大太刀を持った男…金山という奴も、その一人だ」
そして、ため息をつく先生。
「金山からしたら、俺は仮谷さんを死に追いやった奴が、のうのうと…事務所構えて、霊衛やっているのが気に食わないのかもな」
「だから、恥知らずと?」
「そうだ。俺も恥知らずという言葉自体、否定していないしな。…………っと、着いたぞ」
話している内に、車が鈴木事務所に到着する。
降りようとする先生。
俺は掛けなければいけない言葉を、先生に言う。
「先生!俺…先生のこと…恥知らず何て思っていませんし。これからも、ずっと先生の生徒です。あと、蝮の怪異を倒した場面は、超カッコ良かったです!」
俺は、はっきりした意思を持って伝える。
「あっそ」
それに対する先生の回答は、呆気ないものだった。
小野寺夫婦は互いに顔を見合わせて、小さく笑う。
それなりに、付き合いのある千景や理人には、分かる。
潤一平は、少し取れている。
そして、嬉しそうにしていると。
潤一平は、強くて、不器用であり、優しい。
だからこそ、潤一平が自衛隊を止め、事務所を開くと聞いた時、一早く警察に退職届を出して、潤一平に仲間に入れて欲しいと頼んだのだ。
あの島で生き残れたのは、潤一平のお陰と言っても、言い過ぎにはならない。
部隊のために、必死に戦ってくれた潤一平に、少しでも報いるために。
夫婦は事務所で働いているのだ。




