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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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44蛇の怪異




 俺は福丸と共に、潤一平先生と小野寺夫婦に連れられて、怪異が現れたという現場に向かうことになった。


 現場には、潤一平先生が所有する車にみんなで乗って、向かった。

 先生の車は、大柄のカッコいいフォルムで、車種は分からないが、高そうな車だと一目で分かる。


 流石、潤一平先生。


 車で移動して、10分ぐらい。

 連絡があったのは、鈴木事務所がある住宅地から、少しだけ離れた大きめの河川敷が流れる場所。


 目的の河川の近くに来たところで、車から降りて、歩いていく。


 すると、


 『むむ!髭がムズムズ…この先に怪異がいる!』


 福丸の髭がピンと張る。


 髭によるセンサーが反応したようだ。

 まだ怪異は確認していないけど、福丸は怪異の存在を感じるみたいだ。


 以前も、これで九十九神楽本邸の塀にいた煤黴という怪異を探知していた。


 怪異は人間だけでなく、妖怪も襲い、害を為そうとする。

 猫又は弱い妖怪であるが故に、自身に害を為す怪異を広い範囲で探知することが出来る。


 「可愛いお髭」

 『ニャ?!くすぐったい』


 千景さんがピンと張られた福丸の髭を面白そうに触る。


 福丸が探知する方向は、河川敷がある場所。


 そこには…結構な人の人だかりが出来ていた。

 近隣の住民だと思うが、皆一様に、河川敷の方を見ていた。


 住民の視線の先。

 そこには、


 「あれか」


 潤一平先生が怪異を確認する。


 俺も確認した。

 というか目立つので、普通に遠目でも確認できる。


 河川敷の川が流れるところの脇。

 高水敷に居座るように、ソレがいた。


 『シャアア…』


 音が掠れるような鳴き声。


 それは、蛇の怪異である。


 茶色い皮膚に、鋭い牙。

 目は瞳孔が縦に伸びており、ギョロリとしている。

 蜷局を巻いた状態で留まっており、口から頻繁に舌を出していた。


 さらに、10メートルを優に超える巨大。

 なんとも強そう。


 そりゃあ、あんな物が何の前触れもなく出現したのだ。

 住民が野次馬のように集まって、遠目で恐る恐る見るわけだ。


 怪異は、霊力の塊で出来た怪物。

 悪意と害意を持った霊力の集合体である。


 さっきも言ったが、怪異は何の前触れもなく、突然と出現するのだ。


 それが、怪異の恐ろしいところ。


 人が住んでいない山奥で出現することもあるが、こうして人が住んでいる街や近隣に、急に現れることも多々あるのだ。

 それ故に、怪異による事件は、交通事故並に毎日、日本のあらゆる場所で起こる。


 妖怪と同じように、怪異も昔から日本では研究や調査がされているが、怪異が発生する具体的な原因や、規則的な出現場所などは、はっきりした特定や解析に至っていない。


 はっきりと分かっているのは、怪異を見たら、逃げるか、対峙するの2択であることである。


 「電話にあった近隣住民の報告では、大きな蛇の化け物がいると言っていたので、あの怪異で間違いありませんね」


 理人さんは、あの蛇の怪異が、目的の怪異で間違いと言う。


 「等級は?」

 「少々お待ちください」


 先生から怪異の等級を聞かれ、理人さんは目を閉じて、何を探る仕草をする。


 数秒経って目を開ける。


 「怪異の等級は、感じる霊力から…ざっくり四級。いえ…もしくは三級まであるかもしれません」


 ここからでも、怪異の霊力を感じるのか。

 理人さんも、福丸ほどではないけど、中々の感知能力を持っている。


 理人さんは、蛇の怪異の等級を、四級か三級であると答える。


 怪異にも、等級がある。

 霊衛や陰陽師と同じく、六級から五、四、三、二、一、そして…零級まである。


 怪異の等級と同じか、それ以上の等級を持った霊衛や陰陽師が相手をするのが、基本である。


 霊衛でも陰陽師でも、三級以上は上級と言われているが、それは怪異でも似たようなもので、仮にあの蛇の怪異が三級なら、相当な強敵である。


 因みに、煤黴は最も低い六級である。


 「頭部が三角形ですね。さらに、茶色の鱗に、黒い斑点があります。(まむし)ですね。あれは、(まむし)の怪異です」


 理人さんは遠目から、蛇の中でも、蝮の怪異であると断定する。


 怪異には、種類がある。

 というか、種類が無数にある。


 今回の怪異みたいな蛇の怪異もいれば、牛や鳥などの獣の怪異。

 さらに、虫の怪異や植物の怪異など様々。


 煤黴は、まさにカビの怪異である。


 怪異は、その見た目のモデルになっている存在の特徴を色濃く持っている。


 煤黴が、古い家や誰もいなく手入れされていないような家の壁や天井に張り付き、傷ませたり、短時間で鼠算式に数を膨れ上がらせる性質は、カビの典型的な特徴だ。


 あれは、蝮の怪異である。

 それならば、


 「潤さん、気をつけてください。蝮なら、強力な毒を持っています。恐らく、毒の攻撃も仕掛けてくると思われます」

 「おう、任せろ。千景と理人は、宵明のそばにいろ。あれは、俺1人でやる」

 「任せて。宵明ちゃんは、私たちと一緒にいようね」


 千景さんが俺の手を握って、その場に待っているように言う。


 潤一平先生は、軽くストレッチをした後、左腰に紐で装着して携えてある刀を、鞘から引き抜く。

 先生の装備は、主に日本刀と言われている打刀に、コンバットナイフだ。


 武器は、この2つぐらい。


 打刀は抜いて右手に持ち、コンバットナイフは後ろの腰に刺してままの状態。


 ゆっくりとした足取りで、蝮の怪異に近づく。


 服装は自衛隊といった軍人がよく履くコンバットブーツに、厚めのズボン。

 黒めのスポーツシャツ。


 全体的に、ラフな格好だ。


 『シャア?』


 蝮の怪異は、近づく先生に気づく。

 長い舌を出しながら、その場から動かず、姿勢を低くさせて、先生に威嚇を行う。


 対する先生は、


 「ふぁ…」


 欠伸をしており、何とも気が抜けた感じだ。


 対称的な両者。

 両者との距離が、僅か15メートルぐらいになる。


 「………」

 『………』


 先生も蝮の怪異も黙り込み、両者見つめ合う。


 静寂が訪れる。

 でも、これは嵐の前触れ。


 戦闘が始まる。

 俺は固唾を飲んで、先生を見守る。


 次の瞬間、


 『シャア!!』


 蝮の怪異が、物凄い速さで体を伸ばし、先生に噛みつこうとする。


 いや、噛み付くと言うより、10メートルを超える巨大の噛みつきなど、人間からしたら丸呑みされるレベルである。


 しかも、噛みつきの速度も、遠目で見ていた俺の視力では、到底取られきれない速度。

 きっと練気で肉体強化して、動体視力を上げても、捉えきれないだろう。


 そんな近距離における尋常ではない速度の噛みつきに対して先生は…、


 「おっと」


 打刀を持ったまま、軽く躱す。

 余裕のある様子で。


 最小限の足運びと体捌きで、紙一重で躱したのだ。


 噛みつきを躱された蝮の怪異は、噛みつきをした体の勢いを維持しながら、そのまま先生の横を通り過ぎる。


 高速の噛みつきをした後、蝮の怪異は即座に体の方向を反転させて、先生に向き直る。

 そして、間髪入れず、


 『シャ!』


 二度目の噛みつきを放つ。


 一回目と同等の速度の噛みつき。

 高速の2連撃に対して、


 「当たるか」


 二度目の噛みつきも、先生はまたしても余裕で回避する。


 さらに、蝮の怪異は二撃目を躱された後も、体を即座に反転させ、先生に向き直してからの、三度の噛みつきを食らわすも、


 「見えてるは!」


 流れるような三回の高速の噛みつきを、何の怪我も負うことなく全て回避する先生。


 うん…俺だったら、3回死んでいるな。


 合計3回の攻撃を回避された蝮の怪異は、一度先生を警戒しつつ、再度動き出す。

 今度は蛇特有の蛇行で、先生の周りを回り始めたのだ。


 撹乱でもしているのか?


 自分の周りを回っているのに、先生は目で追うことなく、その場で立つのみ。

 暫く、先生の周囲をグルグルと周っていると、


 『シュルル!』


 蝮の怪異が、先生の後ろ…つまり、死角に移動したタイミングで、長い尾による薙ぎ払いを行う。


 あんな巨大な尾の薙ぎ払いなんて、まるで軽トラックが迫っているみたいだ。


 「よ!」


 その薙ぎ払いを…先生は後ろを向いたまま、上に飛んで避ける。

 後ろに目でも付いているのか。


 今度は、噛みつきだけでなく、尾の攻撃も多用し始める。

 でも、どれも先生に当たらない。


 手汗握る攻防。


 『さっきから避けてるばっかだよ!反撃しないと!』


 先生と蝮の怪異の戦いを、俺たちと一緒に遠くから見ていた福丸が叫ぶ。

 確かに、今の先生は、傍目には防戦一方だ。


 攻撃もしないし、反撃もしない。

 俺も心配になっているけど、


 「良いんですよ、あれで」


 理人さんが、あれで大丈夫だと言う。


 「あれは、蝮の怪異。つまり、蝮…いえ、毒蛇の特徴を持った怪異です」


 ここで、理人さんは指を二つ立てる。


 「蛇には、主に2種類います。毒を持っていない蛇と、毒を持った蛇の2つです。毒を持っている蛇は、俊敏性に優れています。牙に毒がありますから、一回でも対象に噛み付ければ、毒で対象を弱らせられます。だからこそ、毒を確実に当てるために、噛み付きは物凄い速さです。しかし、そこが毒蛇の弱点でもあります。潤さんは、その弱点を付いて、攻撃を避け続けているのです」

 「弱点?どういうことですか?」

 「見ていれば分かります。…………ほら、もう弱点が現れ始めました」


 理人は、戦っている潤一平先生と蝮の怪異を指差す。


 相変わらず、攻撃を避けて続けている先生だったが、段々と違和感を持って行く。

 何だか、始めに比べて、蝮の怪異の攻撃の速度や回数が、落ち始めている。


 俺でも、目で捉えられるほど、動きの切れが下がっているのだ。


 「お分かりですか?蝮の怪異の体力が切れ始めています。毒蛇は毒を当てるために、俊敏性に優れてはいますが、その反面、持久力が低いんです」

 「なるほど!だから、先生は攻撃を避けるだけだったんですか!」

 「ええ、ああして攻撃を避けていれば、いずれ…」


 理人さんの言葉の続きを示すように、蝮の怪異はとうとう攻撃の手を止め、身体の動きを止めてしまう。


 口からは涎が出ている。


 体力が消耗したみたいだ。

 さっきまでの元気が感じられない。


 こうなったら、やることは一つだ。


 「疲れちゃったか?なら、終わりだな」


 先生は右手に持っていた打刀を、正眼の構えで持つ。

 そして、一歩ずつ蝮の怪異に歩み寄る。


 蝮の怪異は、先生をただ睨むのみ。


 体力のある状態でも、先生にかすり傷一つも付けられなかった。

 では、体力の消耗している状態なら、尚更先生に勝てないだろう。


 俺がそう持ったのも束の間。


 バシャアア!!

 蝮の怪異は急に口を大きく開けたかと思ったら、紫色の液体を先生に吐き出す。


 見るからに、毒々しい。

 というか、毒である。


 毒を液体として、先生に飛ばしたんだ。


 テレビで見たことがある。

 毒蛇の中には、毒を飛ばす奴もいると。


 蝮自体には、毒を飛ばす特性は無い。

 でも、蝮の怪異だからと言って、それが蝮の特性だけを持っているとは限らない。


 不味い。


 10メートル以上の巨体での毒飛ばし。

 人間からしたら、噴水のようなもの。

 しかも、至近距離から。


 これは避けようがない。


 「正剣一刀流【正剣】」


 俺が見たのは、先生が一刀両断する姿。


 先生は迫りくる毒を一刀の元に、切り捨てたのだ。

 物が2つに割れるように、左右に切り開かれる毒。


 液体状の毒という…普通は切れはずのないものが切れた。


 目を見開いて驚いたのは、何も俺だけでない。

 蝮の怪異も、縦に伸びた瞳孔を、見開いて驚愕していた。


 ジリジリと…後ろに下がり、逃げようとする。


 「逃がすか!」


 勿論、それを逃がす先生で無い。


 右手で打刀を持ったまま、左手を高速で動かす。


 先生の左手から高速の何かが飛翔する。

 それは真っすぐ、蝮の怪異の額に刺さる。


 『シャアアア?!』


 蝮の怪異は大きく悲鳴を出す。

 余程、痛かったようだ。


 「あれは…潤さんのコンバットナイフが、蝮の怪異のピット器官を突き刺しましたね」

 「潤ちゃんの投石技術、凄いからね」


 先生の投石に、理人さんと千景さんが感心する。


 「ピット器官?それって…」

 「ええ、蛇の額にある第二の眼です。熱を感知する眼で、あそこを潰すと、蛇からしたら、致命的です」


 理人さんの説明に、俺は頷く。


 だから、あれほど蝮の怪異は悲鳴を上げたのか。

 蛇からしたら、目を潰されたようなもの。


 「お疲れ!」


 一気に距離を詰めた先生が、蝮の怪異の前で大きく飛ぶ。

 剣を振り上げた姿勢で。


 後は単純。


 振り上げた剣を振り下ろすのみ。


 先生が上から下へと、打刀を下ろす。

 それによって、蝮の怪異の頭部が斬られ、2つに割れる。


 『シャ………』


 蝮の怪異は、断末魔を上げる余裕もなく、倒れ込み、そして…消えていく。

 ただの霊力となったようだ。


 潤一平先生は無傷で怪異を倒したのだ。


 「これが…三級霊衛の実力」


 一回目の人生では、配信で怪異と戦いながら、暴言を吐きつつも、戦闘は華麗。

 まさに、さっきの戦闘がそれだ。


 今の俺なんて、逆立ちしても足元にも及ばない実力を目撃して、俺は感動するしかなかった。


 一回目の人生で、何度も配信で先生を見ていた。

 先生の強さは十分に分かっていたつもりだったが、実際に見ると、こんなに強いなんて。


 俺は、この人を先生に出来て本当に良かった。

 そう思うばかりであった。




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