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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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42練気

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 「全く、駄目じゃない。こんな子供を放って置いて、ソファで寝てるなんて」


 20代後半ほどの明るい茶髪の女性が、俺の手に消毒用のアルコールを塗りながら、俺の先生となった潤一平への愚痴を零す。


 この女性…小野寺千景さんは、素振りで豆や水膨れになった俺の手を治療してくれている。

 慣れた手つきである。


 「そもそも、一万回は冗談にしても、やり過ぎよ。ねぇ…宵明ちゃん」


 どうやら、あの衝撃計測器で10点以上を一万回というのは、俺のことを冷やかしと思った潤一平の冗談だったらしい。

 道理で、超ハードだった訳だ。


 『そうだ!そうだ!やり過ぎニャ!もっと言ってやるニャ!』


 福丸が鼻息荒く、潤一平を威嚇する。


 「どうぞ、猫又さん。鮪のお刺身です」

 『わ〜い!お刺身〜!』


 けれど、俺を治療してくれている女性と同年代ほどの眼鏡をかけた男性が、福丸に鮪の刺身を出す。


 さっきまでの潤一平への怒りは何処かへ行き、刺身を貪る。

 福丸…俺の分のお刺身、残してくれよ。


 「おい、その刺身…俺が夕飯に取っておいた奴」

 「良いではありませんか。お客人に出した方が、刺身も本望でしょう」


 この男性…小野寺理人さんは、千景さんとは夫婦の関係らしい。


 千景さんによって治療が終わった両拳を強く握りしめる。


 「先生!いつかは素振り一万回を出来るように目指します!」


 強い目標意識を持って宣言する。


 すると、千景さんは腹を抱えて可笑しそうに笑い、理人さんは口に手を当て、小さく笑う。


 「ぷぷ!潤ちゃんが、先生って」

 「潤さん、宵明君から随分慕われてますね」


 2人の笑いを聞いて、潤一平は不機嫌になることはなく、寧ろ肩をすくめる。


 「あたりねぇだ。俺レベルになると、先生と慕われちまうんだ」

 「おお!」


 俺は、潤一平の様子に感心してしまう。


 その良くて自信に満ちた、悪くてナルシストっぽい発言と態度。

 見た目は、筋肉質な色気のあるイケメンなので、謎の説得力がある。


 まさに、一回目の人生の配信「妖怪バスターズ@YouTube」で、何度も見た潤一平だ。









 晴れて潤一平を先生として、俺は生徒になった訳だが、すでに夕方であり、潤一平も生徒である俺の稽古のカリキュラムを考えるらしく、今日は帰ることになった。


 本格的な稽古は、来週の週末だそうだ。


 ずっと車で待っていた桐生さんと婆やは、数時間ぶりに潤一平のところから帰ってきた俺を、滅茶苦茶心配していた。

 もう少し俺の帰りが遅ければ、未成年誘拐の疑いで、桐生さんが警察に通報しようとしていたらしい。


 心配性だな。

 俺は何度も大丈夫だと言い、これから定期的に潤一平にところへ生徒として通うので、また車出しをよろしくとも言う。


 桐生さんは、ため息をつきつつ、生徒になれて良かったですねと…労ってくれる。




 そうして、俺は桐生さんが運転する車で、九十九神楽本邸に戻っている一方、潤一平の事務所では、


 「それで、潤さん。どうして、あの子を生徒に?」


 小野寺理人が眼鏡を掛け直しながら、潤一平に聞く。

 それなり、潤一平と過ごした理人は、軽はずみに彼が生徒を取るような人でないと思っている。


 潤一平は何て事の無い顔で答える。


 「そりゃあ、あれだ…見込みがあったんだ」

 「見込み?確かに、手を豆にしてまで長い時間素振りを続けさられた体力と忍耐は凄いですが」

 「それもあるが、アイツ…素振りする前に、霊力で肉体強化するところを俺に見せたんだ」

 「肉体強化?あの歳で、ですか?」


 理人が驚くのは、無理もない。

 普通、今の宵明みたいな5歳には、肉体強化を使用することすら極めて難しいのだから。


 丹田ある霊力を動かすのと、その霊力で肉体強化するのは、同じではない。


 「嘘?!あの子、もう『練気』を使えるの?」


 話を持っているのではと、千景が疑い深く、潤一平を睨む。


 『練気』とは、その名の通り、練られた霊力。


 この世界の生物が生まれながらに持つ霊力を、まるで丁寧に組まれた編み物ように、または、統率された軍隊のように、肉体強化のために体にある霊力を作り直したもの。


 練気の習得自体、並の技術ではない。


 というか普通に、高等技術だ。


 霊力が操作が上手いのは前提として、それを身体中に巡らせ、体を動かす際に、必要な箇所に必要なタイミングで、霊力を運用しないといけない。


 練気の習得できるか否かで、その者が霊衛としての才能があるか決まると言っても過言ではない。


 「ああ…まだ荒いが、あれは教え方次第で化けるだろうな」


 潤一平や理人、千景は知らないが、宵明は二回目の人生を歩んでから、霊力鍛錬である『周天巡霊』を毎日行い、今では屋敷周りの走り込みや肉体強化…つまり、練気を使った禍丸との追いかけっこをやっている。


 既に、宵明にとって、練気の運用は自然な動作で行えるまでになった。

 いくら、宵明に一回目の人生の記憶があるとはいえ、これは日々の努力の賜物だろう。


 とはいえ、潤一平からしたら、まだ精度の甘い練気だ。


 「なんとも、凄い子が潤さんの生徒になりましたね」

 「潤ちゃん、陰ながら応援してるよ」

 「全く他人事のように。……これから大変だな」


 そう言いつつも、理人も千景も、潤一平が久々に嬉しそうにしているのが分かる。









 そして、次の週末。

 桐生さんが運転する車に乗って、俺はまた鈴木事務所に向かった。


 桐生さんに、遅くなるかもしれないから、通報なんてしないでね…と、念押しして、福丸と共に、事務所に行った。


 潤一平先生は木刀を持って、また裏手の庭に俺を連れて行く。


 そこには、潤一平先生の他に、この間会った小野寺夫婦もいた。


 「そんじゃ…稽古を早速始めるか」

 「よろしくお願いします、先生!」

 「おう、そんじゃ早速剣術の指導をする。といっても、まずは握り方や足の開き方、振りの動作とか、基本的な剣の構えと振り方を教える」


 潤一平先生は、小さな木刀を俺に寄越す。

 この前、衝撃計測器に打ちこむために、俺が使った木刀である。


 そして、潤一平先生の剣術の指導が始まる………というところで。


 チョンチョンと、千景さんが俺の服を突っつく。


 「ねぇ…宵明ちゃん。潤ちゃんから聞いたけど、練気使えるって本当?」

 「練気?……ああ、肉体強化の際に使うやつですね。はい、使えますよ」


 そう言って、俺は木刀を一旦地面に置いて、練気を使って肉体強化を施す。


 取り敢えず、その場でジャンプ。

 5歳の肉体では、絶対無理そうな高さを飛ぶ。


 その後に、庭を軽く走る。

 成人男性の走り込みに近い速度。


 これも、5歳とは思えない速度である。


 それを見た千景さんは、目を見開いて驚く。


 「ほ、本当に練気を使ってる!わ、私なんて…練気の習得自体、中学生の時に、やっと出来たのに!」

 「なんだ、千景…俺の言葉が信用できなかったのか?」

 「だ、だって…この歳の子が練気を使ってるなんて、半信半疑で!」


 俺は首を傾げる。


 「そんなに凄いことなんですか?」


 千景さんは、俺が練気を使って肉体強化をしたことに驚いているが、そんなに驚くことなのかな?


 すると、千景さんの夫である理人さんが補足する。


 「宵明君、通常…練気の習得自体かなり難しいんですよ。才ある霊衛の中でも、10歳になる前に練気を習得する者は、極一握り。ましてや、宵明君のような歳で、練気を既に使っているのは、異常です」


 理人さんは、練気習得の一般的な状況を軽く説明する。


 説明によると、練気は基本的に、霊衛を専門的に育てる中学校で、修得するものらしい。

 そこから高校で、さらに練気の実践的な使い方を学ぶのだとか。


 千景さんは、中学生で練気を習得できたが、それでも中学卒業までに練気を習得できない子も、普通にいるそうだ。


 それほどまでに、練気の習得が難しい事実に、俺は少し面食らう。


 何せ、一回目の人生において怪異や妖怪の退治の任務で、俺の護衛をしてくれた人は、皆…練気を使いこなしていた。


 てっきり、練気自体、そこまで難しいものではないと思っていた。


 ………でも、よく考えてみれば、当然か。


 俺は曲がりなりにも、御三家の者。

 陰陽師の俺に対して、依頼されて護衛する霊衛なんて、レベルの高い者に決まっている。


 無意識に、俺の周囲にいるレベルの高い霊衛を、平均だと捉えてしまったのか。


 「宵明君には、霊衛としての才能があります」


 理人さんが自信を持って、俺に才能があると言う。


 妙な気分だ。

 陰陽師御三家の俺に、霊衛としての才能があるなんて。


 一回目の時は、霊衛の才能なんて、無いに決まっているという固定概念から、練気を習得しようなんて思いもしなかった。

 近接戦能力皆無の俺が、神木凪桜に刀で殺されたからこそ、二回目は近接戦能力を上げようと思ったのだ。


 才能がある…そう言われるのは、ちょっと嬉しい。


 「だが、練気を習得していると言っても、純粋な肉体強化の『纏い』だけだな。その『纏い』も、まだまだ精度は甘い。まぁ…お前なら、『纏い』の”先”を習得できるかもな」


 木刀を肩で担いで、得意そうな笑みを浮かべる潤一平先生に、俺は勢いよく頭を下げる。


 「今日は、よろしくお願いします!先生!」


 これから稽古が始まるのだ。




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