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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第三章 二人の先生

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39霊衛




 俺が5歳になった日から、初めての週末。


 俺は車に乗って、婆やと福丸を連れて目的地に向かっていた。


 『お出かけ、お出かけ』


 俺の膝に上いる福丸が、屋敷を離れてからの遠出に、上機嫌である。

 お出かけではなく、先生の元に行くんだ。


 「宵明様、もうすぐで到着します」

 「ん、分かった」


 運転席にいる男の人が、助手席にいる俺に声を掛ける。

 車に少し揺さぶられながら、俺は返事をする。


 今、運転席で車を運転している、この人は、桐生正喜(きりゅうまさよし)さん。


 30代前半のような見た目であり、無骨なメガネをかけ、スーツをきっちりと着こなしており、全体的に仕事ができる人という印象持つ。

 彼は、我が九十九神楽に使える家宰。


 家宰とは、簡単言えば執事のような人?

 主家の政や仕事、事務など取り仕切ったり、補助したりする人のこと。


 桐生さんは、家宰の中でも、取り分け堅実な人で、些細な雑務も嫌味一つ言わず行ってくれる。


 今日も、俺が自身の先生としたい人が活動拠点にしているところに行きたいと言ったら、畏まりましたの一言で車を出してくれた。

 因みに、霊魂祭の時に、車を出してくれた人や、先生を自分で探したいと言ってパソコンを用意してくれたのも、桐生さんだったりする。


 「それにしても、宜しいのですか?」

 「宜しいとは?」

 「今から向かう鈴木潤一平という方は、陰陽師ではなく、"霊衛"ですよ。三級霊衛であるので、上級の方ですが、それでも宵明様が霊衛から教えを受けるのですか?」


 桐生さんの言いたいことは分かる。


 霊力や霊術を使う人のことを、まとめて『霊法使い』と呼ぶ。

 そして、霊法使いにも、いろいろあるが、大きく分けて2種類ある。


 まず、俺の家である九十九神楽のような『陰陽師』。

 霊術や式神などを使い、妖怪や怪異の退治を行う人のことだ。


 そして、もう一つが『霊衛』。

 霊衛とは、霊力での肉体強化や霊力を用いた武器術で、妖怪や怪異と戦う人のことだ。


 簡潔に言えば、陰陽師が後衛であり、霊衛が前衛なのだ。

 ゲームで例えるなら、陰陽師が魔法使い、霊衛が戦士である。


 パソコンで調べた鈴木潤一平は、三級霊衛。

 陰陽師ではなく、霊衛なのだ。


 霊力による肉体強化と霊術…この二つはどちらも霊力を使うが運用方法が、全く違う。


 九十九神楽家は、陰陽師御三家。

 陰陽師から教えを受けるのは分かるが、霊衛から教えを受けるのは、桐生さんからしたら余り理解出来ないのだろう。


 因みに、三級というのは、階級のこと。


 陰陽師にも、霊衛にも、その実力や優秀さに応じて、階級が存在してする。

 階級は主に、試験と実績で付けられるが、どちらも六級から始まり、数字が若い順に階級が上がる。


 世間では、三級からが上級だと言われているのだ。


 「それは、大丈夫!俺、近接戦も行ける陰陽師になろうと思ってるから!」

 「は、はぁ…それは良い目標ですね」


 ドヤ顔で言った俺に、桐生さんは少し戸惑った顔をしつつも、肯定してくれる。


 まぁ…内心、近接戦も行ける陰陽師なんて、変だ思っているのだろう。


 一般的に、霊術を使う陰陽師は、接近戦に弱い。

 なので、普通は霊衛に前衛になってもらい、後方から支援する。


 霊術の習熟は、一朝一夕には行かない。

 体力や霊力での肉体強化に時間を掛けるぐらいなら、霊術に時間を掛けた方が効率的である。


 でも、俺は近接面も鍛えたいのだ。

 それは、一回目の人生の経験から来ている。


 俺が一回目の人生で、凪桜に殺されたのは、単に凪桜が強かった理由が大きい。


 でも、それ以外の理由として、俺の近接戦能力が皆無だったのもある。


 一回目の人生の俺は、霊力が無ければ軽い運動でも息切れを起こし、霊衛になりたての初心者と比較しても劣るほど、霊力での肉体強化の練度は低かった。

 そんな貧弱な俺なんて、呆気なく殺されるに決まっている。


 だから、二回目の人生では、がっつり近接面を鍛えたいのだ。


 もう凪桜に殺されたくないけど、万が一凪桜が再び、俺を殺すような場面になっても、近接面を鍛えていれば、一回目のように呆気なく殺されない………………はずだ。


 「ぼっちゃまは、どうして、その鈴木潤一平さんに、教えを請いたいのですか?」


 後ろの席から婆やが疑問を言う。


 「俺の勘が、この人だと決めてるんだ!」

 「は、はぁ…そうなのですか」


 またしても、ドヤ顔で言った俺に、困惑するしか無かった。


 「鈴木潤一平…現在28歳。高校卒業時に、自衛隊に入隊。その後、26歳に退役。平均的な退役に比べれば、少々早いですね。その後、半年ほど前に数人の仲間を集めて、「鈴木事務所」という少人数の事務所を経営しております」


 桐生さんが鈴木潤一平の情報を捕捉する。

 概ね、ネットで公開されている鈴木潤一平の経歴だ。


 パソコンで調べた限り、鈴木潤一平には、目立った活動実績が無かった。


 それなのに、どうして鈴木潤一平を先生にしようと思ったのか。

 さっきも言った通り、俺の勘……………な訳では無い。


 俺はすでに知っているのだ、鈴木潤一平を。

 一回目の人生で。


 一回目の人生では、今の5歳の俺よりも、もっと大きくなった時…世界では、スマホやタブレットが一般庶民に普及して、撮った映像を世界中に送ったり、配信できたりする時代がやってくる。


 そうすると、自分が妖怪や怪異と戦う映像を生中継で見せる配信者が、指数関数で増えたのだ。


 多くの配信者が、配信で再生数を稼ぎ、注目度と金を集める。

 俗に言う「配信時代」である。


 そこで、頭角を現したのが、鈴木潤一平である。


 動画配信していた際の鈴木潤一平は、今の三級よりも上の二級霊衛になっており、所謂…"暴言霊衛配信者"で有名になった。


 その名の通り、1人、もしくは仲間と一緒に怪異の退治している間、暴言ばかり吐き続けているのだ。

 でも、その剣捌きや戦いぶりは丁寧であり、言葉は汚いけど、戦闘は洗練されており、さらにカリスマ性も高かった。


 そのギャップから、再生数やファンをどんどん稼いでいた。


 かく言う、俺もそのファンの1人。

 投げ銭も結構していた。


 そうそう…チャンネル名は、『妖怪バスターズ@YouTube」である。


 パソコンで名前を見た時、ピンと来た。

 この人を先生にするべきだと。


 あの人は、配信していた時は、関東全域を主に活動範囲にしていたけど、まさか配信者をやる前は、東京を活動拠点にしていたとは。


 会うのが楽しみである。

 そう思っていると、


 「着きました、宵明様。ここが、鈴木殿が活動拠点としている仮屋です」


 そこは、東京の中でも、比較的都心から離れた場所。


 車の窓から見えるのは、何の変哲もない二階建ての一軒屋。

 パソコンで調べなければ、ここが霊衛の活動拠点など、誰が思うか。


 俺は車から降りる。

 桐生さんも婆やも、同じく降りようとするのを俺が静止させる。


 「桐生さんと婆やは、車で待ってて。俺1人で行く」

 「はい?」

 「ぼっちゃま?」


 桐生さんと婆やは、首を傾げる。


 「だって、俺は九十九神楽家だと知られないように来たんだ。だから、絶対車で待機。手出す無用!」


 俺は厳命して、一軒家に向かう。

 桐生さんと婆やは心配そうな顔で、車の中から俺を見ていた。


 『僕は付いていくよ』


 唯一、俺の式神である福丸が隣を歩く。


 扉の前まで行くと、「鈴木事務所」という名札があった。

 ここで間違いない。


 俺は深呼吸して。


 ピンポーン。

 扉のチャイムを鳴らす。


 「………はい」


 余り待たずして、扉の内から男の人の声がする。


 ガチャ。

 扉が開けられる。


 「どなたですか?」


 扉から出てきたのは、180センチを超える長身の男性。


 黒目のTシャツに、ジーパンを履いたラフな格好。

 男の割に、少し長めの黒髪をウェーブ上に、綺麗に整えており、顔はワイルド系のイケメン。


 如何にも、モテそうな見た目である。


 でも、服を着ていても分かる恵まれた体格に、袖から出た両腕には、逞しい力こぶが伺える。

 一目で、鍛えている人のそれだ。


 何より、この人から強い人が発する覇気を感じられる。


 間違いない…この人が、三級霊衛、鈴木潤一平だ。

 一回目の人生の配信で、何度も見た顔である。


 おお!マジで、生の鈴木潤一平だ!


 俺は初めて、画面越しではなく、体面で会ったことに感動する。


 「は?え?子供?」


 一方の潤一平は俺を見て、目を見開き驚く。

 扉を開けたら、いきなり5歳の男の子が立っているのだ。


 驚くのは、無理はない。


 俺は肺に空気をたっぷり吸い込む。

 

 そして、意を込めて言う。


 「俺の先生になってください!!」


 声を張り上げて言う。

 それこそ、近所に聞こえるような大声で。


 果たして、鈴木潤一平の反応は、


 「………」


 潤一平は押し黙ったままだった。

 俺の体を下から上まで、じっくり見る。


 そして、俺の隣にいる福丸も見る。


 少しして、潤一平の口が動く。


 発した単語は、


 「帰れ、ガキンチョ」


 ガチャン!

 扉を勢いよく閉める。


 秒で門前払いを受けた。




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