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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第二章 秋に咲く白い桜

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36真っ暗が怖い




 いきなり、神木凪桜に叩き起こされて、俺は軽く悲鳴を上げる。

 だって、俺を殺すかもしれない人の顔が、起きたら目の前にあったんだもん。


 俺は悲鳴を上げた後は、暫し固まる。


 「「………」」


 お互い黙りこくる時間が数秒続いた後、俺は何とか冷静になり、部屋の壁にあるスイッチを押して、一旦部屋の明かりを付ける。


 俺は問いかける。


 「ど、ど、どうした?!」


 問われた神木凪桜は、気まずそうに顔を少し俯く。

 少し言い辛そうにして、


 「その………トイレに行きたいの」


 それは、なんて事のない言葉だった。


 「ト、トイレ?あ…ああ、トイレなら、この部屋を出て、右行って、まっすぐ行ったところを左に行って、右側にある」


 俺は一番近いトイレの場所を教える。


 この屋敷は大きく広い。

 初見の神木凪桜では、トイレの場所は分かりづらいだろう。


 でも、何故か神木凪桜は一向に、トイレに行こうとしない。

 どうしたのかと見ていると、


 「……宵明…あの…途中まで………付いて来て欲しい」

 「はぁ?」


 目を見開く俺だが、一方の神木凪桜は至って真面目の顔で、


 「真っ暗…怖くて」


 本当に女の子らしい発言だった。


 トイレに行くには、真っ暗な廊下を歩かないといけない。

 俺とか、屋敷の人は場所をしっかり把握しているので、普通に行けるが。


 そうか…一人で寝るのが怖い彼女にとっては、暗い廊下を歩いて、トイレの場所まで行くにも、勇気がいるはずだ。




 2人一緒に、廊下を進む俺と神木凪桜。


 「まさか、暗闇が怖いなんてね」

 「宵明は…怖くないの?」

 「う〜ん…あんまり」


 神木凪桜の疑問に、俺は頭を捻る。


 確かに、人として暗闇は普通に怖いと思うけど、そこまででは無い。

 一回目の人生で、死と言うものを体験した身からは、暗闇程度、可愛い物だ。


 「でも、まさか…神木さんにも、怖いものがあるなんて」

 「……怖いものぐらいある。私を何だと思ってるの?」

 「……………殺人鬼」

 「…?何て言った?」

 「ごめん、何でもない」


 それにしても、


 「あ、あの…神木さん。歩きにくいんだけど」


 神木凪桜は、俺の服を掴み、密着した状態なので、歩きにくい。

 彼女の体温が伝わってくる。


 指摘しても、神木凪桜は俺から離れなかった。


 『チュウ』


 因みに、忠吉も俺たちに付いてきている。

 と言っても、俺の頭の上に乗っているだけだが。


 神木凪桜が、俺の頭の上の忠吉を見る。


 「その鼠って…宵明の?」

 「俺の術式の式神だな」

 「鼠を出す術式って、変わってるね」

 「そうだな」


 まぁ…正確には、俺の術式は、鼠を出すだけのものではない。


 暗くて、静まり返った廊下をゆっくり歩くたびに、ギィ…ギィ…と音が鳴る。

 耳を澄ませば、古時計のコツ…コツ…という音も聞こえてくる。


 直後、ゴーン!ゴーン!ゴーン!


 大きな音が鳴る。


 「っ?!」


 俺にくっ付いていた神木凪桜は、身体をビクッとさせ、俺の肩を後ろからギュッと握ってきた。


 「これは、0時に鳴る時計の音」


 俺は、補足する。

 うちの屋敷の古時計は、夜中に喧しい音を鳴らせるんだよな。


 俺は神木凪桜をトイレの場所まで、何とか連れて行く。

 俺の部屋から短い距離のはずのなのに、無駄に時間が掛かった気がする。


 後は大丈夫だろうと思って、部屋に帰ろうとする俺の腕を、神木凪桜が掴んで止める。


 「外で待ってて」


 俺を睨みつけるように言ってきたので、俺は頷くしかなかった。


 俺は神木凪桜がトイレから出てくるまで、扉の外で待っていた。


 シーンと静まり返った廊下。

 廊下の数メートル先は、真っ暗である。


 何だか、幽霊が出そうである。


 そう思っていると、神木凪桜が、早々にトイレを済ませて、扉から出てきた。

 帰りも、また神木凪桜に密着された状態で戻る。


 「暗闇が怖いんなら、夜だと…簡単にトイレに行けないよな?」

 「夜は…いつも、お爺ちゃんが付いて行ってくれる」

 「なるほど」


 神木凪桜と、くっ付かれながら、元来た廊下を進む。


 しかし、問題はここから。

 俺と神木凪桜が、廊下を曲がると、


 「………」


 俺は一瞬黙りこくる。


 廊下を曲がった先には、何かがいた。

 それは、小さな人形。


 おかっぱ頭の白い和服を着た人形であり、目は大きく、品のある顔の造形。


 そして、その人形からは生気を感じる。

 人形からの言い表せぬ視線を感じるのだ。


 行き時には、この人形は確実に無かった。

 つまり、俺と神木凪桜が進んだ後に、人形が勝手に廊下に現れたことになる。


 「ひい?!」


 人形を見た神木凪桜は、俺の後ろで軽く悲鳴を出す。

 普段の冷静な彼女からは想像できない女の子らしい悲鳴である。


 「ゆ、ゆ、幽霊?!」


 パニックになる彼女。


 どうやら、暗闇と同じく幽霊も無理らしい。


 人形を幽霊だと思った神木凪桜は、目尻に涙を浮かべて、後ろから俺に、しがみつきながら、小刻みに震える。


 俺は努めて優しげに言う。


 「大丈夫だよ。この人…この妖怪は、(つむぎ)さん。我が屋敷の座敷童子」


 座敷童子とは、一説には子供の精霊と言われ、古い家や屋敷に住んで、住んでいるものに幸運をもたらすと言われている。


 我が屋敷には、1人の座敷童子が住んでおり、いろんな人が親しみを込めて、紬さんと読んでいるのだ。

 いつから、紬さんが屋敷に住み着いているのか、誰も知らない。


 久しぶりに見た。

 紬さんって、本当に神出鬼没だからな。


 屋敷の至る所に現れるから、屋敷に住んでる俺も、年に数回しか会わない。


 「ゆ、幽霊じゃ……ないの?」

 「幽霊違うって、座敷童子」


 俺は神木凪桜を安心させるために、紬さんに近づき、


 「ほら、柔らかい」


 俺は紬さんのほっぺを突っつく。

 プニプニして、触り心地が良い。


 俺は紬さんの髪の毛に触ろうとする。

 すると、


 「これ、宵明。女の髪を勝手に触るものでは無い」


 いきなり喋り出す。


 「喋った!」


 ビックリした反応をする神木凪桜。

 物珍しそうな顔で、彼女は紬さんを見る。


 紬さんは、小さな顔を動かし、俺………ではなく、神木凪桜を見る。


 「昼頃に、屋敷に"妙な気配"の持ち主が来たと思ったら、お主か」

 「え?私?」


 首を傾げる神木凪桜。

 昼頃に来たと言えば、神木家のことだ。


 だけど、妙な気配とは?

 まさか、神木凪桜のこと?


 紬さんの目と、神木凪桜の青い目が交差する。


 「お主…もしや………人間では………」


 何かを言いかけた紬さんだが、


 「いや、流石に気のせいか」


 そこで、言葉を止める。

 そして、次に俺の頭の上にいる忠吉を見る。


 『チュウ!』


 挨拶のつもりなのか、忠吉はお辞儀をする。


 だけど、忠吉を見た紬さんは、大きな目を、さらに大きくさせる。


 「その鼠……」


 初めて見た。

 紬さんが、驚くのを。


 「その鼠…その術式は…」


 紬さんは鼠姿の忠吉を見て、一発で俺の術式によるものだと断定した。

 明らかに紬さんは、俺の術式について何か知っている様子だった。


 「"あやつ"が死んで暫く経つが、そろそろ()()()()が来ると思ったが。宵明…お前が、まさか…()()……」


 あやつ?

 誰かの番?

 次の?


 一体何のことだ?


 俺は眉根を寄せながら、紬さんの言葉を待っていたら、


 「あら?宵明に…貴方はお客人の…凪桜さん」


 そこで、誰かが現れる。

 水色の髪に、水紋のある白い着物。


 文世義母さんである。


 文世義母さんは病弱な真兄のために、毎日夜遅くまで起きているのだ。

 0時まで、お疲れ様です。


 「どうしたの、こんな夜中に。さっき…廊下から小さな悲鳴が聞こえたのだけど」


 悲鳴というのは、紬さんを見て驚いた神木凪桜の悲鳴だな。


 「ああ…うん、神木さんをトイレまで連れていって。紬さんを見て、神木さんが驚いただけだよ」

 「紬さん?ああ…座敷童子の紬さんね」


 文世義母さんは足元にいる紬さんに、きっちりと一礼をする。


 「宵明、凪桜さん…夜も遅いから、もう寝なさい」

 「はーい」

 「はい」


 俺と凪桜が返事をすると、文世義母さんは俺たちを通り過ぎて、行ってしまう。


 文世義母さんが行ったのを確認して、俺は紬さんに向き直る。


 「それで、紬さん…さっきなんて言おうとしてたの?」

 「………」

 「ん?あれ、ちょっと?」

 「………」

 「おーい」


 紬さんはピクリとも動かず、何も話さなかった。


 ただの物言わぬ人形となったようだ。


 嘘?!あれで終わり!

 あんな思わせぶりなこと言っておいて!


 紬さんは、それ以降喋らなかった。


 そう言えば、こういうの前にあったな。

 俺が二回目の人生を歩み始めた3歳の頃、紬さんが俺に…、


 『悪き気配では無い。だが、同時に良き気配でも無い。今後、宵明…お主には………』


 何かを言おうとして、巴母さんが乱入した事で、その後が聞けなかったのだ。

 結局、あの後…紬さんに出会う機会は、何度か会ったけど、あの時の言葉の続きを聞いても、


 『ああ、あれか…すまん、忘れた。気にするな』


 そう言ったのだ。

 ちょっと無責任過ぎない?


 特に、次の…と言うのが、気になる。

 紬さんは、俺の術式に何を知っているのか。




 その後、俺は紬さんから何かを聞き出すのは諦めて、神木凪桜と共に、部屋に戻った。

 そして、2人揃って、ぐっすり寝るのだった。




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