35一緒に就寝
風呂から上がった俺たち。
後は、就寝だ。
その前に…俺、婆や、巴母さん、茉昼、福丸、忠吉、そして…神木凪桜は、俺の自室に集まっていた。
「ショウちゃん、お誕生日おめでとう。はい、これプレゼント!」
巴母さんが俺に誕生日プレゼントを渡す。
それは、組紐。
母さんからのプレゼントである組紐は、艶のある黒糸と、綺麗な金糸の2つの色が使われている。
一流の職人が為したような技術で、巧みに編まれており、一つの芸術品だ。
組紐は、母さんに趣味である。
陰陽師の仕事で忙しくとも、数少ない時間を見つけては、様々な色の糸を組んで、組紐を作っている。
黒金の紐状の組紐。
母さんがいつも左腕に巻いている虹色の組紐のように、俺も腕に巻き付けることが出来るし、小物に付けることも出来る。
俺は早速、左腕に巻き付ける。
(宵明様、似合ってますよ)
念話で忠吉が、組紐が似合っていると言う。
「ショウちゃんの髪色と瞳の色に合わせたの」
「ありがとう、母さん。一生大事にする」
「んもう!可愛いんだから!」
俺を、人形のように抱きしめる母さん。
でも、これは大切なものだ。
絶対に無くさないようにしないと。
「きれい!」
茉昼が目を輝かせて、黒と金の組紐を眺める。
「マルちゃんも、5歳になったら、組紐をあげるよ」
「くみひも!」
茉昼は、まだ3歳なので、後2年のお預けだな。
「ぼっちゃま、私からも」
一方の婆やも、俺に誕生日プレゼントを渡す。
それは、腰巾着。
5歳の俺でも使いやすい小さな緑色の腰巾着である。
これも大切にしよう。
「是非、小物入れに使ってください」
「うん、早速明日、福丸の煮干し入れとくよ」
『わーい!煮干し!これで、いつでも宵明から煮干し食べられる』
煮干しと聞いて、喜ぶ福丸。
福丸の髭による怪異探知は、お腹が空いていると、機能しないそうだから、しっかり煮干しを補充しないと。
「………お誕生日、おめでとうございます」
俺たちの様子を遠巻きに見ながら、神木凪桜が小さく拍手する。
雰囲気に合わせてくれたのだろう。
そんな神木凪桜に、母さんが優しく語りかける。
「凪桜ちゃんは、お誕生日いつなの?」
「…4月4日」
「ショウちゃんと同じゾロ目の日ね!じゃあ、凪桜ちゃんは、ショウちゃんよりも5ヶ月年上なんだ!」
「4月4日は、清明に当たりますね」
神木凪桜の誕生日が、ゾロ目であることに驚く母さんと、その日が清明の日だと補足する婆や。
清明の日は、二十四節気の一つであり、万物は生き生きと清らかであり、美しいと言う「清浄明潔」を略したもの。
まぁ…正確には、清明の日に当たるのは、その年によって、4月5日になることもある。
一方、俺の誕生日…つまり、今日は9月9日。
神木凪桜と同じゾロ目であり、「重陽の節句」の日である。
菊の節句とも言い、無病息災を願い、菊の花を飾った菊酒を飲んで祝う日である。
そう言えば、爺ちゃんと春桜が飲んでいた酒の一つが菊酒だったな。
「だったら、来年の誕生日に…凪桜ちゃんにも、組紐を上げるよ!」
「…お気遣い感謝します。そのお気持ちだけで嬉しいです」
「もぉ!堅苦しいんだから!」
フレンドリーに接する母さんに、神木凪桜は複雑そうな顔をしていた。
と言うか、お気遣い感謝するとか、お気持ちは嬉しいとか…俺と同じ5歳が言う語彙じゃないだろ。
「あ…お爺さんからの誕生日プレゼント」
ここで、俺は今日、神木家が訪ねてきた時に、神木春桜が、俺に誕生日プレゼントを渡したのを思い出す。
包装された何かだったが、後で開けようと思ったんだっけ。
俺は思いたって、部屋の隅に置いたプレゼントに行き、リボンで綺麗に包装されたプレゼントを解いてみる。
すると、中は、
「これは…図鑑?」
それは、『妖怪大全集』というタイトルの乗った図鑑だった。
開いてみると、可愛いイラストと簡単な文字を使った説明があり、猫又や河童、化け狐など誰でも知っている妖怪や、かなりマイナーな妖怪まで乗っている。
5歳の俺にピッタリな子供用の妖怪図鑑である。
なるほど、学者である春桜らしいプレゼントである。
うん、これも大切にしよう。
誕生日の醍醐味であるプレゼントを受け取り、満足した俺。
その後は、寝るだけである。
家族を守るために、明日からまた鍛錬に勤しもう。
「ショウちゃん、お休み」
「おにぃ、おやすみ!」
「ぼっちやま、お休みなさい」
俺の部屋から出る母さん、茉昼、婆や。
残ったのは、部屋の主である俺、俺の式神である福丸と忠吉…そして、神木凪桜である。
「「………」」
俺と神木凪桜は互いに黙り込む。
ふと…見ると、自室の真ん中には、俺の布団と、それに隣り合うように、神木凪桜のための布団が敷かれていた。
えっと…状況を説明すると、これから俺と神木凪桜は同じ部屋で一緒に就寝するのだ。
てか、何でいるの?!
いや、分かってる。
経緯は分かっているんだ。
でも、やっぱり何でと、ツッコみたくなる。
こうなった経緯を簡単に説明する。
大浴場から上がった後、大広間にて、俺たちはトランプや神経朱雀などをして遊んでいた。
でも、夜9時を回っていて、幼い子供にとっては、そろそろ寝る時間だ。
各自に寝室に行こうとする。
すると、神木凪桜が突然、母さんの服の裾を掴む。
「あ、あの…巴さん」
「ん?どうしたの、凪桜ちゃん?」
母さんは努めて明るく聞く。
「お、お爺ちゃんの話が終わるまで……そ、そばに居てほしい……です」
それを聞いて、母さんも俺も婆やも、目を大きく見開く。
普段の無表情無言の神木凪桜とは、打って変わって、少し震えた声と上目遣いで、母さんに言ったのだ。
それは、何かに怯えたような女の子の顔だ。
こんな顔、初めて見る。
暫くして、母さんは優しく微笑み、姿勢を低くさせ、神木凪桜と目線を合わせる。
「えっと…凪桜ちゃんが寝るまで、一緒に居て欲しいの?」
「は、はい…」
声を細くして返事をする神木凪桜。
まさか、彼女が一緒に寝て欲しいなんて言うとは。
彼女と春桜には、寝室として客室が用意されているが。
母さんは、声を潜めて、神木凪桜の耳に口を近づける。
「もしかして………まだ、一人で寝られないの?」
母さんの言葉は微かに聞こえた。
……………コク。
神木凪桜からの返事はないが、本当に小さく頷く。
「………春桜さんは御当主様と、まだ話していますかね」
婆やは、夕食の席が終わっても、未だに大広間で、爺ちゃんと「妖異学」を話している春桜を見る。
流石に、0時過ぎまで話していると思えないけど。
でも、2人の話が終わるまで、凪桜は客室で、1人で寝ることになる。
彼女は、それが嫌みたいだ。
以外と思ったが、考えてみれば、そうか。
一回目の人生で、神木凪桜は全国を震撼させる連続殺人鬼になるとはいえ、今はまだ幼い女の子だ。
これぐらいの歳の子は、まだ一人で寝るのは怖いだろう。
え?茉昼は、もう一人で寝られるよ。
茉昼は母さんの血を濃く受け継いだためなのか、怖いもの知らずなのだ。
だけど、問題はここからで。
ニッコリと笑った母さんが俺を見た。
「だったら、ショウちゃんと一緒は、どう?」
「「え?」」
俺と神木凪桜は、異口同音で、疑問の声を出す。
母さんは俺と一緒に寝るように言って来たのだ。
「ショウちゃんのお部屋に、まだお布団の予備があるでしょ?それに、ショウちゃんと凪桜ちゃんは歳が近いから、話してる間に、寝ちゃうよ」
何か…母さんのゴリ押し感があるのだが。
そんな経緯で、俺と神木凪桜は一緒の部屋で就寝することになった。
「えっと…よ、よろしく」
「よろしく」
俺のぎこちない言葉に、しっかり返事する神木凪桜。
まさか、将来俺を殺すかもしれない少女と一緒に入浴しただけでなく、一緒に就寝することになるとは。
「電気消すよ」
「…………うん」
部屋のスイッチをオフにすると、部屋が真っ暗になる。
真っ暗だが、俺の部屋なので、慣れている。
俺はいつもの布団に着く。
音からして、神木凪桜も、隣の布団に着いた。
後は寝るだけ。
「おやすみ」
『おやすみ、宵明』
「……おやすみなさい」
それぞれ、お休みと言い、眠りに付く。
(見張りは僕に任せてください!)
夜の見張りに呈する忠吉。
唯一、俺の術式の式神である忠吉だけは起きている。
忠吉は、福丸のように妖怪では無く、俺の霊力で形成された式神であるため、普通の生物とは違い、睡眠は必要ない。
見張りと言っても、この部屋に侵入する人はいないと思うけど。
俺は目を閉じる。
隣に神木凪桜がいると、寝付けないと思ったが、意外なほど眠気が襲いかかり、夢の世界へと行った。
…………だったのだけど、
「………い………めい…………宵明……宵明」
誰かが俺を起こそうとする声が聞こえる。
この声は?
さっきまで寝ていたので、良く聞こえない。
(宵明様、凪桜様が呼んでいます)
(え?)
見張りをしていた忠吉からの念話と内容で、俺の意識は一気に覚醒する。
起き上がって見てると、
「宵明」
俺の顔の20センチ先ぐらいに神木凪桜の顔があった。
真っ暗な部屋での神木凪桜の真顔に、
「ひい?!」
俺は軽く悲鳴を上げる。
是非、ブックマークと星をお願いします!




