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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第二章 秋に咲く白い桜

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32神木家①




 九十九神楽本邸の正門に、神木と名乗る者が来ている。

 それを聞いて、俺は婆やを連れて正門へ向かう。


 屋敷の玄関から前庭を通って、正門に行く。


 すると、正門には、いつも門番をしている槍を持った30代ほどの武士の男性が立っていた。

 武士の人は、俺たちを見て、頭を下げる。


 「宵明様、この度は5歳のお誕生日おめでとうございます」

 「ん…門番お疲れ様。それで…神木という人が来たって聞いたけど」

 「はい。こちらです」


 武士の人は、正門の外に手を向ける。


 俺は、そっちを見る。

 すると、正門の外に、1人の老人と、その傍らに1人の俺と同い年ほどの少女がいた。


 老人は薄桜色が混ざった長い白髭を下に垂らし、優しげな雰囲気を纏っている。

 きっちりした着物姿である。


 少女の方は、どこまでも澄んだ青い瞳に、肩より長い黒髪。そして、黒髪に混じって数本の白い髪の毛が生えている。

 今日は白いワンピースではなく、可愛げな桜色の服を着ている。


 2人とも、昨日の霊魂祭で見たことがある顔である。


 間違いない。

 神木春桜と神木凪桜である。


 春桜は穏やかな目で、俺を見ると、静かにお辞儀をする。


 「昨日ぶりじゃな、宵明………いや、宵明様の方が良いですかな。この度は、お誕生日おめでとうございます」

 「え?あ…はい。こ、こちらこそ」


 俺も春桜の雰囲気に釣られて、春桜にお辞儀をする。


 「……ど、どうも」

 「………」


 ついでに、神木凪桜にも、お辞儀をする。

 彼女からの返答はないが、無視した訳ではなく、無言でペコリとお辞儀をした。


 しかし、どうして春桜と神木凪桜が、ここに?


 疑問に駆られた俺の隣で、婆やが驚く。


 「春桜さん?それに…凪桜ちゃん?どうしてここに?」


 婆やの質問に、春桜は穏やかに笑い、答える。


 「昨日、常さんがお礼をしたいので、是非屋敷へお越しくださいと…言われましたので、来た次第です。それに…そちらの宵明様は、今日を持って5歳を迎えると聞きました。なので、お祝いの言葉を伝えようと思いました」

 「お礼?た、確かに…昨日の霊魂祭で迷子になった、ぼっちゃまを保護してくれたお礼をしたいとは言いましたが、まさか…本当に屋敷へ、いらっしゃるとは……」


 なるほど、春桜は霊魂祭で迷子になった俺に、真摯になって寄り添い、家族を探そうとしてくれた。

 実際は、神木凪桜の情報を得るために、迷子のふりをしただけなんだけど、それはどうでも良いか。


 婆やは、そのお礼をちゃんとしたくて、九十九神楽本邸に来て欲しいと言ったらしい。


 でも、婆やは戸惑っていた。


 まぁ…戸惑う理由は分かる。

 いくらお礼をしたいと言っても、我が家は九十九神楽家。


 一回目の人生で、俺が18歳になった頃には、失墜していたとはいえ、九十九神楽家は陰陽師御三家の一つ。

 陰陽師家は、この日本では、いろんな意味で非常に強い権力を持っている。


 神木家のような一般の人が、軽い気持ちで立ち入れられる場所では無い。


 「あ…そうでした。宵明様、こちら…つまらないものですが」


 春桜が懐から物を取り出し、俺に渡す。

 それは、5歳の俺が両手で持つぐらいの大きさのもの。


 綺麗な紙で包装され、リボンで縛ってある。

 まさしく、誕生日プレゼント。


 「あ、ありがとうございます」


 俺は感謝を込めて、お礼を言う。


 「いえいえ…喜んで貰えるなら幸いです」


 春桜は大したことはないと言うが、プレゼントは貰っただけで、気分が良くなる。

 このプレゼントは、後で開けよう。


 それはそうと…、


 「あの…ウチの中に来ませんか?」


 俺は意を込めて、そう言う。


 「ほぉ…」


 春桜は一瞬だけ、目を細めるけど、すぐに優しい笑顔になる。


 「ぼ、ぼっちゃま?宜しいのですか?」


 婆やが結構慌てる。

 自分でお礼をしたいと言ったとはいえ、やっぱり御三家の屋敷の中へ勝手に招くのは、躊躇するのだろう。


 俺は首を左右に振る。


 「全然構わないよ。昨日、お爺さんは迷子の俺を助けてくれましたから、そのお礼も兼ねて。誕生日会は終わっちゃったから、豪華な食事は無いけど、お茶菓子ぐらい用意出来るでしょ?」

 「は、はい。それは構いませんが」


 婆やの了承を聞いて、俺は春桜の皴だらけの手を掴み、門の中を連れて行こうとする。


 「我が家へ、どうぞ」


 俺の招きに、春桜は何度か頷く。


 「では、お言葉に甘えて、上がらせてもらいます。ナギも、それで良いかの?」

 「うん」


 俺の招きに応じる春桜と、素直に返事をする凪桜。


 「あ、俺のことは、宵明と…呼び捨てで大丈夫です」

 「分かった、宵明」


 俺は春桜と凪桜を連れて、正門を潜り、屋敷の中に2人を連れて行く。


 「む?この感覚は…」


 正門を潜った瞬間、春桜は何かを感じ取る。


 「結界ですね。悪しき者を阻むために、この屋敷には、庭と屋敷を覆う結界があるんです」

 「なるほど、屋敷を丸ごと囲う結界かの。なんとも立派」


 俺たちは前庭を歩き、玄関へ行く。

 そして、屋敷の中へ案内する。


 春桜は廊下を進みながら、屋敷の床や天井、壁を見渡す。


 「外からでも分かるが、大きな屋敷じゃな」

 「うん、これが九十九神楽本邸。自慢の我が家」

 「自分の家が自慢なのは、良い事だ」


 そうして、廊下を歩いている途中、婆やが春桜に近づく。


 「その…春桜さんは良いのですか?」

 「良いとは?」

 「えっと…春桜さんは陰陽師家に……余り良き思い出が無いと思ったのですが」

 「ああ、そのことか」


 春桜は歩きながら、考え込む様子を見せる。


 はて…何の話だろう?

 婆やと春桜にさか通じない話か?


 「それは、もう”昔”のことじゃ」


 春桜は、ただ一言、そう言っただけであった。




 俺たちは屋敷の先程まで誕生日会が開かれていた大広間に行く。

 既に、大広間は片付けられ、昼間にあった豪華な食事も勿論無い。


 春桜と凪桜を、大広間の縁側に連れて行く。


 ここの縁側からだと、屋敷の庭が広く見える。


 「これは、風情を感じる庭じゃな」


 ウチの屋敷の庭は、そこらの富豪が持つ豪邸の庭よりも、大きな敷地面積を持つ。


 しっかりと草刈りが行われた地面に、所々に履いている木々。庭の中央には、小さな石で囲まれた小さな池がある。


 縁側のそばには、花壇があり、いろいろな花を咲かせていた。


 特に、目立つのは、国花の一つであり、秋の名物である菊。

 黄色や白、ピンクなど、色とりどりの菊が咲いている。


 春桜の言う通り、見ているだけで風情を感じる。


 「では…私は、お茶とお茶菓子を持って来ます」


 婆やは、そう言って、この場を離れる。


 残った俺と春桜と神木凪桜の3人。


 「よっこらしょ」


 春桜が縁側に座り込む。

 神木凪桜は、春桜の左に座る。


 そして、俺は春桜の右側に座る。


 この際なので、俺は春桜に聞きたいことを聞こうと思う。


 「お爺さんは、婆や……常さんと友人なのですよね?手紙で定期的にやり取りしてると聞きましたが。婆やは、お爺さんとは同郷の仲とか」

 「ふむ…そうじゃな。常さんとは、同じ埼玉県の生まれだな。と言っても、今は儂も東京に住んでおる」


 春桜と婆やが埼玉県生まれ…初耳だ。

 思えば、婆やがどこの県出身かなんて聞いたことなかった。


 あ…そうだ、これは聞いておかないと。


 「あの…不躾なんですが…お爺さんと…その……凪桜さんは何処にですか?」


 将来俺を殺すであろう凪桜の住所は押さえておかないと。


 「う〜ん…ここから、そう離れていな『雷下ろしの樹』の近くじゃ」

 「は?」


 俺は素っ頓狂な声を出す。


 その『雷下ろしの樹』は知っている。

 割と有名である。昔、雷が落ちた樹とか何とか。


 しかし、問題は…その『雷下ろしの樹』は、この屋敷から道のりで数キロしか離れていないこと。


 つまり、凪桜の家は、それなりの近所ということ。


 そりゃあ、霊魂祭の日に、明治神宮で会ったから、東京の中でも、割と屋敷の近くに住んでいるのでは?と思ったけど、そんなに近いなんて。

 

 まさか、そんなに近くに、将来俺を殺す人が住んでいたなんて。

 ちょっと怖い。


 春桜が屋敷を訪ねたのは、距離的な理由もあったんだ。


 「お待たせしました」


 婆やがお茶の入った急須と湯呑み、そして茶菓子を持ってくる。

 お茶は普通の緑茶だが、茶菓子は煎餅や饅頭、金平糖、カステラなど、様々なものがあった。


 婆やが急須からお茶を注いだ湯呑みを、俺と春桜と凪桜のそれぞれに置く。


 俺は気持ちを落ち着かせるため、お茶を啜る。

 うむ、婆やの入れたお茶は美味い。


 そして、茶菓子である饅頭を一口。

 甘味が口の中に広がり、お茶とよく合う。


 「では、儂も遠慮なく」


 春桜も湯呑みを口にする。

 神木凪桜も静かにお茶を飲んでいた。


 俺、春桜、凪桜の3人揃って、お茶を飲みながら、縁側から外の庭を眺めていた。


 そこに、


 「あれ?常さん、お客さんが来てるの?神木さんっていう人が来たって聞いたけど」


 巴母さんがやって来る。

 2階にある俺の自室から母さんが、茉昼と福丸、忠吉を連れて、いつの間にか大広間に降りていた。


 「はい、巴奥様。こちらが神木さんです。私の同郷の友人である神木春桜さんと、そのお孫さんの凪桜ちゃんです」


 婆やが神木家を紹介する。

 母さんは春桜と、俺の隣にいる神木凪桜を見る。


 次に何度か、俺と神木凪桜の顔を交互に見た後、


 「まぁ、可愛い」


 ニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべる。

 そして、神木凪桜に近寄り、身体を屈んで神木凪桜と視線を合わせる。


 「もしかして、ショウちゃんの恋人さん?」

 「ぶふぉ!」


 そんな飛んでも無いことを言ったので、つい飲んでいたお茶を吹き出してしまった。




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