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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第二章 秋に咲く白い桜

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30威厳




 匠兄の術式が『十二霊符』というチートな術式に対して、俺の術式は鼠を出す術式であるという宣言により、大広間は静まり返る。


 婆やは満面の笑みで拍手をしてくれるが、文世義母さんや真兄は無言のまま。

 澪姉、鈴姉、利久などは、何を言うのが正解か分からない顔付きだ。


 そりゃあ…前当主と同じ術式の後に、鼠を召喚できる術式なのだから、肩透かしを食らうはずだ。


 「まぁ………可愛らしい術式ね」


 幸子義母さんは、俺と忠吉を見て、そう呟く。

 可愛らしいと言っているが、顔は少し俺を嘲るような感情があった。


 同じ陰陽師だけど、高名な陰陽師家出身の幸子義母さんと、一般家庭出身の巴母さんは、よく周囲から比較される。


 堅物であり、血統を重要視する幸子義母さんは周囲から敬遠されがち。

 一方、優秀な陰陽師であり、誰とでも仲良くできるフレンドリーな巴母さんは、多くの人から尊敬され、慕われている。


 そこへ来て、自身の息子が優秀な術式を持ったことに対して、俺のは余り大したように見えない術式。

 自分の息子の方が、優秀という優越感を持ってしまうのは、仕方が無いのかもしれない。


 因みに、匠兄は興味深そうに、鼠の忠吉を見ていた。


 『宵明…僕は鼠を出す術式も、全然凄いと思うよ』

 『術式を自覚出来るのは、一握りの人間だけだ』


 気を効かせるためか、福丸と禍丸が慰めてくれる。


 「しょ、宵明様も術式を自覚したらしいですね」

 「で、でも…ね、鼠を出す術式って。なんか…その…」

 「そりゃあ…匠様の術式と比較しちゃったらねぇ」


 うん、聞こえているよ。

 使用人さん…ヒソヒソ話は、もう少し小さい声で言おうね。


 「当主は基本、男児が継ぐもの」

 「じゃあ…九十九神楽の男児で、最も”次期当主”に相応しいのは、やっぱり匠様」

 「宵明様も、巴奥様の御子息だから、少し期待してたけど」


 中には、俺に対して、忍び笑いする使用人が何人かいた。

 使用人の中でも、特に若手の方だ。


 明らかに俺を馬鹿にしている。


 おい、コラ!

 俺を馬鹿にするのは良いが、巴母さんを馬鹿にするのは止めろ。


 「貴方たち!」


 婆やが、その使用人たちを睨み、珍しく叱責する。

 俺も睨もうかと思っていると、


 「ショウちゃん!!」

 「わぶ?!」

 『チュウ?!』


 いきなり、巴母さんが俺に飛びつく。

 その拍子に、掌の上に乗った忠吉を落としそうになった。


 抱きついた母さんは、これ以上ない笑顔だった。


 「ショウちゃん、凄い!術式を自覚したの?こんなに可愛い鼠さんを出す術式なんて、凄い!」

 「おにぃ、すごい!」


 巴母さんは俺が術式を自覚したことを純粋に喜び、茉昼は術式自体よく分かっていないが、母さんに合わせて俺を褒める。


 使用人たちの言葉など、あるで気にしていない素ぶりだ。


 相変わらず、我が母と我が妹は単純で…優しい。

 母さんには、俺の術式が優秀か否かなど関係ないのだ。


 一回目の人生の誕生日会でも、そうやって俺を褒めてくれた。


 一回目の人生の時の誕生日会は、優秀な術式持ちの匠兄が話題の主役であり、俺が脇役ということから、余り良い思い出では無かった。

 けど、母さんと茉昼によって、絶望的な思い出では無かったのだ。


 二回目の人生でも、変わらなかった。


 ドン!

 その時、膨大な霊力が立ち上がる。


 それは、祖父の巌だった。


 霊力の量、質、精度…どれも今の5歳の俺と比べるまでも無く、遥かに高い。

 爺ちゃんは名実ともに、格式の高い陰陽師。


 いきなりの霊力の高まりに、先程まで、ヒソヒソ話をしていた使用人たちは、ピタリと静まる。

 みんなが爺ちゃんを見る。


 爺ちゃんは息を深く吸い込み、


 「術式に優劣など無い」


 声質が低く、霊力を伴った爺ちゃんの言葉は、大広間にいる全員の耳に、響き渡る。


 「優劣を決めるのは、術式を扱う者じゃ。どれほど強大な術式であっても、使いこなせなければ、意味がない。反対に、取るに足らぬと侮られた術式であっても、磨き方次第では大成する」


 爺ちゃんは、俺の掌の上に乗った忠吉を見て、そう言う。


 それを受け、文世義母さんが立ち上がり、大広間にいる使用人たちを見渡す。

 その顔には、小さな怒りがあった。


 「皆、言葉を慎みなさい」


 普段と変わらぬ静かな口調だったが、それを聞いた使用人たちが一斉に背筋を伸ばす。


 「匠の術式、宵明の術式…この2つが発言したことは、大変喜ばしい事です。ですが、ここは次当主を選ぶ場でも、術式の良し悪しを決める場でも、ありません。ましてや、御当主様の御前で、勝手に次代を語るなど、九十九神楽家に仕える者の振る舞いとは思えません」


 その言葉に反論するものは誰一人いなかった。


 「本日は、匠と宵明…2人の成長を祝う席です。それを心得るように」

 「「「は!」」」

 「「「……は」」」


 大広間にいた使用人たち…古参の者たちは即座に、若手の者たちは若干の間を挟んで理解の意を示す。


 その後、俺を小馬鹿にした若手の使用人たちが、俺に向かって、気まずそうに頭を下げた。


 流石は、九十九神楽家の正妻。

 この家の精神的支柱である。


 「匠、宵明」


 澄んだ声が聞こえる。


 今度は真兄が、俺と匠兄…それぞれに顔を向ける。

 目元の布で目が見えないはずだけど、真兄には、俺も匠兄も見えているみたいだ。


 「2人とも術式の自覚、おめでとう」


 真兄は健やかに笑みを浮かべる。


 「匠の十二霊符は、父上と同じ術式だ。きっと簡単には使えない。宵明の術式だって、意思のある者を呼び出すなら、相手を理解しないといけない」


 真兄の言葉に、一語一句反論の余地が無かった。


 「どちらが優れているかなんて、今の私達には分からない。少なくとも、2人とも今日が最初の一歩なんだから」


 真兄の言葉が終わって、暫く大広間に沈黙が続いた。


 しかし、疎らだけど、使用人たちから拍手の音が聞こえ始める。

 次第に、拍手の音は大きくなり、大広間にいる使用人全員が、大きな拍手をする。


 みんな口々に、俺と匠兄を称える言葉を掛ける。


 さっきまで、俺を笑う人もいたのに…………これが、九十九神楽の長男である。

 俺が心から尊敬する人。


 九十九神楽の威厳は、まだ失われていない。


 拍手が入り乱れる中、九十九神楽の長女である澪姉が静かに立ち上がって、俺の元に来る。


 「宵明、その鼠に名前はあるのか?」

 「うん、忠吉って名前なんだ」

 「忠吉か、良い名前だな」


 澪姉は、微笑みを浮かべる。

 さらには、人差し指を忠吉の頭の上に持って行き、優しくヨシヨシする。


 (く、くすぐったいです)


 忠吉もご満悦な様子である。


 「今日は、本当に誕生日おめでとう」

 「うん!澪姉も、ありがとう!」


 こうして、俺と匠兄の誕生会は、一騒動あったけど、無事終わった。









 誕生会が終わり、一段落が付く。

 使用人たちは大広間の片付けを行う。


 俺たちの方は、各自の自室に戻ろうと思った時だった。


 「匠、宵明…こっちに来なさい」


 爺ちゃんが俺と匠兄に手招きをする。

 俺と匠兄は従って、爺ちゃんの元に聞く。


 傍に来た俺たちの肩に、爺ちゃんはそれぞれ手を乗せる。


 爺ちゃんはまず、俺を見る。


 「宵明、さっきは取るに足らぬと侮られた術式と言ったが、言い過ぎた。お前の術式が、乏しいことなど全くない。これから磨けばいいのだ」


 俺はニッコリと笑う。


 「分かった、爺ちゃん」


 次に、爺ちゃんは匠兄を見る。


 「そして、匠よ。父親の術式を受け継いだのは、目出度いことだ。だが、その事実は、良くも悪くも、匠…お主に大きな期待が寄せられることになる」


 爺ちゃんの言葉に、匠兄は決意を籠った顔で返す。


 「お爺様…私はどんな期待にも、応えられるように、日々精進いたします」

 「うむ…」


 爺ちゃんは満足げに頷く。


 「2人とも、行って良いぞ」


 爺ちゃんの話が終わったので、俺と匠兄が戻ろうとする。

 でも、


 「そうだ…宵明」

 「ん?どうしたの。爺ちゃん?」


 爺ちゃんが、また俺を呼び止める。


 「その…鼠を召喚する術式……その術式を会得する時、”奇妙な夢”でも見たか?」

 「はえ?夢……うん、確かに、見たよ。夢って言うか、別の空間かな。十二の扉がある空間に行ったんだ」

 「別の空間……十二の扉……」


 別の空間や十二の扉を聞いて、爺ちゃんは固まり、何かを考え始める。


 「爺ちゃん?」

 「ああ、いや…何でも無い。すまない、呼び止めて」

 「そう?じゃあ、行くね」


 今度こそ、話は終わりかと思い、爺ちゃんから離れる。

 巴母さんや茉昼と共に、自室に戻る。


 しかし、その時の俺は知らなかった。

 大広間に一人取り残された爺ちゃんが、


 「…………鼠を召喚する術式…………十二の扉…………それは、九十九神楽の……いや、まさかな」


 そう呟いていたことを。




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