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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第二章 秋に咲く白い桜

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029匠の術式




 5歳の誕生日会にて、用意された豪華な食事を、俺は味わいつつ、食べ続ける。


 「うん、美味い。秋の味覚は最高だな」


 食べながら、舌鼓を打つ。


 長テーブルにある食事は、ほとんどが秋特有のものである。

 俺と匠兄の誕生日が秋というのもあって、秋に旬がある食材が使われている。


 まずは栗入りの赤飯。

 栗の甘さに、赤飯のモチモチが合わさって、美味。

 栗も赤飯も縁起物であり、今日の誕生日会にちょうど良い。


 次に、松茸と三つ葉のすまし汁に、秋鮭の幽庵焼き。

 キノコと山菜の風味を残したすまし汁は体が温まり、秋鮭は骨をしっかりと取り除いて食べやすい。


 そして、銀杏と椎茸の茶碗蒸しと、秋野菜の天ぷら。

 熱すぎず、柔らかい口だけの茶碗蒸しと、油の乗った天ぷらは、最高の一言。


 『うまうま』


 膝の上で福丸が、婆やに持って来てもらった煮干しを食べる。

 こんなに絶品があっても、福丸は煮干しが良いようだ。


 「兄さん、体調は大丈夫ですか?」

 「大丈夫、澪。今日は結構食べることが出来てるよ。それにしても、美味しいね」

 「光希…口に、ご飯粒が」

 「ん、おかあさん」


 上品に食べる傍ら、体の弱い真兄を心配する澪姉。

 食事が美味しいと言う真兄。でも、箸は余り進んでいない。


 光希の口に付いた赤飯を取る文世義母さん。

 それを甘えた様子で取ってもらう光希。光希はお母さんっ子だからな。


 文世一家は、細々と食事を堪能していた。


 一方で、幸子一家は、


 「「「………」」」

 「♪」


 幸子義母さん、匠兄、鈴姉、利久の4人揃って、無言で食べている。

 食事中に発言は禁止と言う雰囲気だ。


 幸子義母さんと匠兄と鈴姉が、無表情無言で食べる中、利久は美味しそうな顔で食べていた。


 そして、現当主であり、祖父の九十九神楽(いわお)…爺ちゃんは、


 「ふむ…」


 こちらの幸子一家のように、ほぼ無言で食べていた。

 爺ちゃんは元々厳格な人だから、食事中に喋らないのは仕方がないとしても、もう少し美味しそうに食べても良いような。


 因みに、我が巴一家と言うと、


 「よいしょ、よいしょ」

 「茉昼…野菜はしっかり食べような」

 「うう!ぴーまん、きらい!」

 「ピーマンはビタミン沢山あるから、食べような」

 「でも、ぴーまん、いや!」


 ピーマンの天ぷらを皿の端へ頑張って移しているのを見て、食べなさいと言う俺に、駄々をこねる茉昼。


 ふぅ…茉昼もまだ子供か。

 仕方ないので、俺がピーマンの天ぷらを食べた。


 すると、横から、


 「ショ、ショウちゃん…私の銀杏も…た、食べて~」


 巴母さんが茶碗蒸しにある銀杏を俺に食べさせようとする。

 母さんは銀杏が嫌いなのだ。


 それにしても、自分の子供に、苦手なものを食べさせる母親って。


 「……母さん、銀杏は栄養豊富だから食べようね」

 「うう!銀杏、苦いから嫌い!」


 茉昼のように駄々をこねる巴母さん。


 うん、巴母さんは茉昼の母親で、茉昼は巴母さんの娘だな。

 仕方が無いので、その銀杏も食べることにした。

 5歳の体には、栄養が必要だ。


 この通り、巴一家はいつも通りだ。




 一通り、料理を食べ、残すのはデザートのみ。

 デザートは、これまた秋の味覚である柿と葡萄の盛り合わせである。


 柿はシャキシャキと音を立てるほどの歯応えがある。

 葡萄は酸っぱ過ぎず、程よい甘味。


 こんなに美味いデザートなど、すぐに無くなる。


 デザートも食べ終わり、長テーブルの上にあった食膳は使用人によって片付けられる。

 誕生日会は、もうすぐお開きになるだろう。


 「ぼっちゃま、あの事は話さなくて良いのですか?」


 婆やが俺に元にやって来て、俺の茶碗のお茶を足すが、その際に俺に呟く。


 「え?あの事?」

 「術式のことです」


 婆やが声を潜めて言う。


 ああ、術式か。

 誕生日会が始まる前に、禍丸に俺の術式で契約した式神の忠吉を見せようとして、爺ちゃんが来たから出来なかったんだ。


 改めて、俺が5歳になったと同時に術式を手に入れたことは、九十九神楽家にとって、とても重要なことである。

 今、この場で伝えるのが必須。


 そう思って、当主である爺ちゃんに術式のことを伝えるため、立ち上がろうとした瞬間、


 「恐れながら、御当主様。お伝えしたことがございます」


 幸子義母さんが、突然爺ちゃんに向かって言い出す。

 いつもは神経質そうな顔も、今は真剣身のある表情をしていた。


 まるで、これから重大なことを話すみたいな雰囲気。


 幸子義母さんが、これからは話すことは………知っている。

 一回目の人生を経験している俺は、誕生日会がお開きになる、このタイミングで、幸子義母さんが何を言うのか知っているのだ。


 「どうした、幸子」


 爺ちゃんも、幸子義母さんの真剣な雰囲気を感じ取り、持っていた湯呑みをテーブルに置き、幸子に顔を向く。


 「我が息子である匠のことですが」

 「匠がどうした」

 「本日…5歳の誕生日に、匠が術式を自覚しました」

 「……何じゃと」


 爺ちゃんは、小さく驚く。

 それは本当のことかと問い正すように、幸子義母さんを半目になってみる。


 匠兄が5歳の誕生日で、術式を自覚する。

 幸子義母さんの言葉は、爺ちゃんだけなく、大広間にいた俺を除く多くの者を驚かせる。


 術式の自覚には、個人差がある。


 自覚が早い人や遅い人もいる。

 それでも、術式は5歳以降にならないと自覚しない。


 つまり、匠兄は俺と同じ5歳の誕生日という最短で術式を自覚したのだ。

 俺が言うのも、なんだが中々無いことだ。


 みんな本当なのかどうか訝し気な表情になる。


 「凄い!匠君、おめでとう!」


 素直な我が母は、ストレートに匠兄を褒める。

 匠兄も、巴母さんの賞賛を受け、小さく頷く。


 爺ちゃんは幸子義母さんから匠兄に顔を向ける。


 「匠よ、術式を自覚したのは真か?」


 爺ちゃんの目は、嘘ならば承知しないと言っているかのような鋭い目つきである。


 そんな目つきに物怖じせず、匠兄は爺ちゃんをしっかり見て、頷く。


 「真です。昨晩、僕……いえ、私は術式を自覚しました」


 匠兄が目を閉じて、両手を上に持っていく。

 術式の自覚が本当であると証明するために、これから術式を発動するみたいだ。


 俺は知っている。

 この後、匠兄が術式を自覚した時以上の驚きが大広間に広がることを。


 「は!」


 匠兄が気合いを入れた刹那、匠兄の頭上に現れたのは、一枚のお札。


 大人の掌サイズの長方形の和紙に、何やら続け字で書かれたお札を宙を舞っている。

 しかし、そのお札から多くの霊力を感じられることから、ただのお札でないと分かる。


 あれは、”霊符”である。


 霊力や霊術の効力を上げる陰陽師のための武器。

 あれを使うと、霊術が使いやすくなり、単純に威力や精度が向上するのだ。


 分かりやすく言えば、魔法使いの杖のようなものだ。


 陰陽師にとっては、ほぼ必須級のアイテムだ。


 そんなものが、いきなり匠兄の頭上に現れた。

 すなわち、匠兄の術式は、霊符を生み出し、それを扱うための術式なのだ。


 しかし、本当に驚くべきことは、そこではない。


 「そ、それは…その霊符…その術式」


 霊符を見て、爺ちゃんが珍しく困惑した顔をする。


 「まさか、あれは…」


 けれど、爺ちゃんだけでなく、文世義母さんも酷く困惑していた。

 さらに、婆やを含めた古参の使用人も口に手を当てて驚いている。


 それもそのはず。

 あの霊符を出す術式は、


 「()()術式か」


 爺ちゃんが、そう呟く。


 そうなのだ。

 匠兄が自覚した術式とは、俺の父であり、前当主であった九十九神楽誠と同じ術式なのだ。


 術式は、その者のオリジナルの能力。

 その人と同じ術式を持った人は、基本的にいない。


 でも、これには例外がある。


 その術式を持った者から産まれた子が、全く同じ術式を持っている場合がある。

 匠兄のように。


 「ええ、前当主であった九十九神楽誠と同じ術式『十二霊符』を、匠は授かりました」


 幸子義母さんは、少し自慢げに匠兄の術式名を言う。


 まぁ…誇らしいよね。

 自分の息子が、優秀な術式を会得したんだから。


 一回目の人生で、俺は匠兄の術式が父親と同じ術式であり、その術式が汎用性の上では、滅茶苦茶強いことを、良く知ってる。


 『十二霊符』…その名の通り、12個の霊符を生み出し、操作する術式。

 簡単言えば、陰陽師の十八番である霊術を強化・補助するアイテムが、すでに12個も備わっているということだ。


 マジで、チートである。


 父の誠は、優秀な陰陽師と聞いているが、それは霊術だけでなく、術式も優秀だったのだ。


 「じゅつしき?」

 「おかあさん、じゅつしきって?」


 因みに、茉昼や光希は、まだ幼いから術式をよく理解していない模様。


 匠兄の術式の自覚。

 大広間は完全に、匠兄の話題で持ちきりだ。


 「まさか、匠様がね」

 「前当主と同じ術式なんて」

 「もしかして、匠様が九十九神楽家を立て直してくれるのかしら」


 使用人たちは小さくない声で、匠兄が将来の有望株なのでは、といった話をする。

 彼らの視線には、匠兄に対する大きな期待があった。


 この騒ぎは中々、収まりそうも無い。


 よし、ここは一つ…俺が。


 俺は静かに立ち上がる。


 「ショウちゃん?」

 「おにぃ?」


 傍にいる巴母さんと茉昼が、突然立ち上がる俺を見て、首を傾げる。


 コホン。

 俺は軽く咳ばらいをして、


 「爺ちゃん、俺も報告したいことがあるんだ」


 胸を張って、爺ちゃんに言う。


 「む?なんじゃ、宵明?」

 「俺も術式を自覚したんだ」

 「何?!」


 俺の術式宣言に、爺ちゃんは眉根を潜める。


 爺ちゃん以外のみんなも、一斉に俺を見る。

 まさか、俺も最短で術式を自覚したとは思わないだろう。


 「え?ショウちゃん、本当?ショウちゃんも術式、自覚したの?」


 巴母さんは期待を籠った視線で俺を見る。

 その視線を受け、俺は巴母さんに微笑みつつ、ズボンのポケットを見る。


 ポケットの中にいる忠吉に、念話で語り掛ける。


 (忠吉、出番だ。準備は良いか?)

 (はい、宵明様!いつでも!)


 忠吉は、やる気満々だった。

 俺は意を決して、ポケットから鼠の忠吉を取り出す。


 みんなが俺のポケットから出てきた鼠を見て、目を見開く。


 『チュウ!』


 俺の掌の上に乗った忠吉が、元気よく声を出す。

 力こぶを作るような決めポーズだ。


 「ねずみさん!」


 妹の茉昼は、目を輝かせて、忠吉を見る。

 でも、肝心の爺ちゃんは無言で忠吉を見る。


 「その…鼠がどうした?」

 「はい、これが俺の術式です!」

 「それが宵明の術式?」

 「鼠を召喚する術式です!」

 「……………な、なるほど」


 自信満々に言う俺に対して、困った顔の爺ちゃんは何とか頷く。

 どう返して良いか、分からない様子だ。


 爺ちゃん以外のみんなも、顔をキョトンとさせている。

 どう反応していいか分からないのだろう。


 うん、みんなの反応は予想してた…………と言うよりも、一回目の人生で体験していた。

 一回目の人生では、5歳で術式を自覚した俺だったが、匠兄も術式を自覚しており、しかもそれが父と同じ優秀な術式。


 完全に話題の主役は、匠兄だったのだ。

 俺は脇役。


 だからこそ、一回目の人生の時の俺にとって、5歳の誕生日は余り良い思い出では無かった。




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