026忠吉
俺は端的に、昨晩の夜の出来事を話した。
寝て起きたら、十二の扉が存在する異空間にいた。
そして、壱の扉の先にいた鼠を自身の式神として、契約した。
その鼠の式神は、現実世界の戻ったら、召喚が可能であった。
俺の術式が、式神による術式であること。
『うう…僕が初めての式神だったのに。契約…先を越された……しかも…鼠に』
『チュウ……』
話を聞いた福丸がガックリとする。
そんな福丸を慰めるためか知らないが、福丸の頭に手を当てる鼠。
福丸は、俺の始まりの式神と思っていたのに、鼠に先を越されたことがショックだったみたいだ。
福丸は確かに、俺の式神ではあるが、まだ正式な契約を結んでいない。
あくまで、口頭による仮契約だ。
俺は術式を自覚したタイミングで、鼠と正式な契約を結んだ。
鼠は俺の術式による式神だが、福丸は俺の術式とは無関係の妖怪である。
妖怪を、正式な式神としての契約するには、霊術が必要。
その霊術は、俺が5歳にならないと出来ない。
つまり、傍目には、福丸ではなく、鼠が俺の始まりの式神ということになる。
「げ、元気出せって!福丸とは、まだ仮契約だけど、式神ってことは間違いないから。福丸が俺の”始まりの式神”だから!福丸との正式な契約は、今日中にやるから!」
俺は必死に福丸を元気づける。
始まりの式神を強調して言う。
『始まりの式神………そ、そうかな…へへ』
始まりの式神という言葉に、照れる福丸。
元気を取り戻してくれたようだ。
元気を取り戻した福丸は、改めて鼠を観察する。
『でも、この鼠…ただの鼠に見えるけど。何か、凄い力とかあるの?』
「あるぞ。鼠、人の姿になれ」
(了解です!)
俺の声に応じて、鼠が合点!…といった感じで、飛び跳ねる。
ドロン!
鼠の姿が消える。
代わりに出てきたのは、人懐っこそうな顔つきをした一人の少年。
短い鼠色の髪を持ち、鼠色の木綿を着ていた10歳ほどの見た目の少年。
金色の眼が輝いている。
『え?誰?!』
「まぁ!」
鼠がいなくなったかと思えば、いきなり見知らぬ少年が出てきたことに、福丸と婆やが驚く。
『初めまして、こんにちわ』
少年は人の言葉を喋る。
そして、礼儀正しく、頭を下げる。
人の姿になれば、鼠の言葉は他の人にも聞こえる。
「は、はい!こんにちわ」
婆やも、少年にお辞儀をする。
『こ、この人…誰?』
「さっきの鼠だ」
『へ?この人が、さっきの鼠?!』
「そうだ。コイツは、鼠と人…両方の姿になれるんだ」
『な、なるほど…』
福丸は少年を足元から眺める。
そんな福丸を、鼠の少年はニコニコと笑いかける。
少年の笑っている顔は、本当に10歳の子供みたいだ。
「何て、可愛い鼠さん。お名前は何て言うんですか?」
『え?名前?』
婆やに名前を聞かれ、キョトンとする鼠の少年。
少年はチラッと俺を見る。
そうだった。
まだ、コイツに名前を付けていなかった。
妖怪である福丸に名前を付けたように、コイツにも名前を付けないと。
「名前は決めてある」
(え?ほ、本当ですか?!)
念話で少年の驚く声がする。
少年の目には、期待の表情が垣間見えた。
俺は口を開き、鼠の名前を言う。
「忠誠の忠に、吉で……忠吉」
そう名付けた。
『良い名前!』
「ふふ…素敵な名前ですね」
福丸と婆やは、忠吉という名に納得のようだ。
一方の鼠本人は、
『忠吉………忠吉…忠吉』
鼠の少年…改め、忠吉は自分に名付けられた名前を口に出して、反芻する。
顔は喜びに満ちている。
どうやら気に入ってくれたようだ。
『僕には、勿体ない名前』
忠吉は床に膝をつき、謙遜を口にする。
けれど、やはり顔は喜びに満ちていた。
俺は内心思う。
何を言ってる?お前ほど、「忠吉」と言う名前に相応しい奴はいない。
二回目の人生を歩んだ時、考えていた。
もしまた、俺の術式による式神…特に、鼠の式神に出会えたら、相応しい名前を与えないと。
思い出すのは、一回目の人生の時…術式を自覚してから、ずっと俺のそばにいた鼠。
鼠はずっと俺の味方でいてくれた。
俺が一回目の人生で死ぬ直前まで。
何があっても、俺を裏切らなかった。
まさに、忠臣。
だからこそ、忠吉という名前を与えた。
なお…一回目の人生で、幼かった俺は鼠を「ネズ太郎」と読んでいたのは、内緒である。
「ふふ、忠ちゃんも加わったことですし、今日は良き誕生日会になりそうですね」
婆やは笑顔を浮かべて、誕生日会に思いを馳せる。
今日のお昼から、屋敷の大広間で、俺の5歳の誕生日会が開催されるのだ。




