025術式
【術式】… それは、この世界の一部の人が持っている魂に刻まれた固有の力。
遥か昔から人だけが持っている能力。
霊術を使って術を行使する霊術とは、また違う。
霊術は技術さえあれば、どの霊法使いでも行使可能であるが、術式はその者のオリジナルの能力。
その人と同じ術式を持った人は、基本的にいない。
術式は、人の数だけ種類がある。
まさに、十人十色、百人百様、千差万別。
さっき言ったが、術式はこの世界の一部の人が持っている力。
たとえ霊法使いだとしても、術式を持っている者は少ない。
因みに、術式を持っている者でも、術式を会得する時期には、個人差がある。
術式を会得することを、「術式の自覚」とも言うが、人によって、自覚する時が違う。
幼い時に、自覚する時もあれば、もっと大きくなって自覚する時もある。
けれど、術式を自覚する時期の最短は、5歳からなのだ。
術式の自覚は、例外なく5歳以降からである。
恐らく、俺が寝ている内に、5歳の誕生日を迎えた時点で、術式を自覚したのだろう。
つまり、俺は最短で、術式を自覚したのだ。
ならば、5歳で術式を持っている俺はラッキーであり、才能があるのか?
答えは、ノーだ。
いや、実際には才能自他は、他の人よりはあるのだろう。
俺の家である九十九神楽家のような御三家や、他の高名な陰陽師の家系なら話が変わってくる。
陰陽師は、実力至上主義な面が強い。
そのため、古くから陰陽師は優秀な血を取り入れて、後世に子孫を残してきた。
明確な原理は未だに解明されていないが、霊力が豊富な者の子孫からは、霊力な豊富な者が生まれる確率が高い。
それと同じく、術式持ちからは、術式持ちが生まれる確率が高い。
そのため、陰陽師の家系では、優秀な血を取り入れるが故に、強い霊力を持った者や術式を持った者が生まれやすいのだ。
御三家の子である俺なら必然的に、術式持ちになる。
さらには、術式の自覚も、他の術式持ちより早い。
術式について、説明が長くなった。
兎も角、俺の術式は、【式神を扱うための術式】である。
この…目の前の鼠の少年である式神を使役するための術式。
『ご主人様…今、慌ててるかもしれませんが、聞いてください!ここは貴方の術式が作り出した空間です!僕は貴方の式神!僕は貴方と契約するために、ここにいます!』
とんとん拍子で、目の前の鼠の少年が真剣な顔で説明をする。
この鼠の少年からしたら、俺は目を覚ましたら、唐突に見知らぬ場所に居るのだ。
俺が大層慌てていると思っているのは当然。
でも、大丈夫…俺は一切慌ててはいない。
寧ろ、
「よし、理解した」
俺も簡潔に、契約しようと言う。
親しみを込めて。
それを見て、少年は目をキョトンとさせる。
『あ、あれ?ぜ、全然…慌ててない?!』
逆に、少年が慌てている。
その慌てぶりは、10歳の少年のように年相応である。
まぁ…普通は、俺の方が慌てるだろう。
俺も一回目の時は、大慌てした。
一回目の人生の時も、自身の5歳の誕生日が来るのを楽しみながら眠ると、この異空間にいた。
今の俺は一回目の人生の記憶を持っているけど、初めてここにきた時は、中身も見た目の年齢のまま幼い自分だったので、パニックで泣きじゃくった。
誰かを探して、たどり着いたのが、壱の扉の先の、この一軒家がある場所。
幼かった俺は、鼠からいきなり、人の姿になった少年に、暫く慰められた。
そして、この空間と自身は、俺の術式によるものだと説明を受けた。
でも、今は人生二週目のため、驚きは無い。
そんな俺に様子に、鼠の少年は感服したような顔をする。
『な、な、なんて冷静な御方?!まさに、主に相応しい人!』
感服しているところ悪いけど、今の俺は人生2週目で、中身18歳なんだ。
いや、過去に戻ってから2年経つから、中身はもう20歳ぐらいか。
『どうか、僕と契約を結んでください』
少年は両の膝を地面に着き、頭を下げた状態で、両手を俺の前に持っていく。
雰囲気は、まるで将軍に忠誠を誓う武士のように。
『貴方が僕の手を取れば、僕との契約完了です。契約が完了すれば、晴れて僕は正式に貴方の式神になることが出来ます。どうか、御手を』
「そうか…じゃあ、契約しよう」
俺は迷うことなく、鼠の少年の手に、自身の手を置く。
すると、キン!
傅いていた鼠の少年の体が光る。
白く輝いたのだ。
白い輝きは暫し、続き…その光は、ゆっくりと、俺の体に移る。
それと同時に、鼠の少年と自分が何かしらの線で結ばれた分感覚がする。
契約が出来たようだ。
本当に呆気なく。
『契約完了です』
鼠の少年が静かに頭を上げる。
上げた時の顔は、喜びに満ちていた。
そんなに俺と契約出来たのが嬉しいのか。
(宵明様、聞こえますか?)
その時、俺の頭の中に、目の前の鼠の少年の声が聞こえてくる。
少年は口を一切動かしていない。
でも、幻聴でも無い。
これは”念話”である。
鼠の少年が念話というテレパシーみたなもので、話しかけてきたのだ。
(おう、聞こえるぞ)
俺も同じく念話で返事をする。
念話のやり方も、体が感覚で覚えていた。
念話は慣れないまではコツがいるが、慣れると普通の電話よりも簡単だ。
(良かったです。これは念話と言って…式神である僕と契約すると、宵明様と僕は近い距離なら、直接頭の中で会話が出来ます。………………それにしても…流石です。念話にも、驚かないとは。しかも、念話をすぐに使いこなしてる)
(まぁ…2週目プレイ中だからな)
(ん?2週目?)
(ごめん。こっちの話)
今は二回目の人生なので、勿論契約した式神とは念話でやり取りできることは知っていた。
基本的に、俺の術式による式神は、人の姿でないと、話せない。
しかし、契約者である俺となら、動物の姿でも、人の姿でも、念話を通して、互いに会話が出来るのだ。
これ以外と便利なのだ。
『僕は貴方様の正式な式神。なんなりと御命じ下さい』
そう言った鼠の少年は、敬意を込めて、またしても顔を下げる。
でも、しばらくして、身体をモジモジしだす。
どうしたのか?
『あ、あの…ご主人様。差す仕えなければ、お名前をお聞かせ願えますか?』
名前を訪ねてきた。
何だ…そんなことか。
「俺の名前は、宵明だ。宵に、明け」
『宵明……何と勇ましい名前』
宵明という名に、感心する。
そんなに感心するかね?
その時であった。
グラ…、
「…う?」
軽い眩暈が起こる。
さらに、俺の視界に移っている草原や一軒家の景色が歪み始める。
『これは……時間ですね』
鼠の少年が悲しげな表情をする。
『大丈夫です、宵明様。目が覚めたら、いつでも僕を呼ぶことが出来ます』
その言葉を最後に、俺の視界は暗転する。
意識が落ちて行く。
「………………………んん」
そして、目を覚ます。
起き上がって、見てみると、そこは俺の自室。
さっきまでの異空間ではない。
来ている服も、異空間での着物ではなく、いつもの寝間着だ。
窓からは光がさしていた。
朝である。
『フニャ~~~』
近くで、福丸の間延びする声がした。
『宵明。おはよ~』
「うん、おはよう」
『今日は誕生日だね。おめでとう』
「誕生日…そうか、戻ってきたのか」
『うん?戻ってきた?』
「何でも無い。こっちの話」
俺は昨晩の夜に、夢の中で異空間に居て、そして翌日の朝に現実世界に戻ってきたのだ。
異空間にいた時は、ずっと起きていたけど、身体は何とも無い。
現実世界にある自身の身体と、異空間にある自身の身体は別枠なのだ。
「それは、そうと…」
俺は早速、試してみる。
何を試すか?
決まっている術式だ。
俺は体の霊力を動かす。
そして、自身の魂に刻まれた力である術式を意識して、
「来い!鼠!」
宣言する。
すると、キン!
俺と鼠が契約した時と同じ光が、俺の目の前に現れる。
そして、
『チュウ!』
俺の手の平の乗れるほどの小さい一匹の鼠が出現する。
(宵明様!お呼び出し、ありがとうございます!)
鼠から念話が飛んで来る。
外に出されたのが、余程嬉しかったようだ。
『チュウ!チュウ!』
鼠は小さく何度も飛び跳ねる。
その後、嬉しそうに畳の上を走り回っている。
『え?なになに!鼠?!』
福丸は何も無いところから現れた鼠に驚く。
丸っこい目で鼠の動きを追う。
俺は現れた鼠を見て、満足げに頷く。
召喚成功である。
自身の術式での式神召喚も、一回目の人生では、数えきれないほどやってきたので、お手の物である。
『待てー!!』
『チュ、チュウ??!!』
福丸が鼠を追いかける。
必死に逃げる鼠。
福丸は猫又であり、猫の妖怪なので、鼠に興味津々である。
(え?!猫?!え?え?え?)
念話越しに、鼠の慌てた声が聞こえてくる。
「コラ、福丸。その鼠は俺の式神だ。乱暴はするな」
『へ?式神?』
福丸は、俺の顔と鼠を交互に見る。
信じられないと言った顔である。
まぁ…一見すると、ただの鼠が式神なんて、普通信じられないか。
「ぼっちゃま、入りますよ」
ここで、婆やが襖を開けて、部屋に入ってくる。
「ぼっちゃま、5歳のお誕生日、おめでとうございます………って、あら?鼠?どこから入ってきたのでしょう?」
婆やが鼠を見て、首を傾げる。
俺は鼠に、おいで…と言う。
傍に来た鼠を手に乗せて、婆やに見せる。
「これ、俺の術式の式神」
『ピュウ!』
手のひらに乗った鼠は挨拶のつもりか、元気に飛び跳ねる。
婆やはハッとした顔をして、口に手を当てる。
「ぼ、ぼっちゃま!ま、まさか…術式を?!」
「うん。昨日の夜、術式を自覚したんだ」
「あ…ああ!」
婆やは泣き崩れる。
それは嬉しさから来る涙。
「何と言う事でしょう!ぼっちゃまが術式を、こんなに早く自覚するなんて。婆やは幸せ者です!今日は良い誕生日になりますよ!」
「お、大げさだよ」
術式を自覚しただけで、婆やが滅茶苦茶喜んでいる姿に、若干の戸惑いをしてしまう。
でも、婆やに喜んでもらえたんだから、良いか。
こうして、5歳になったと同時に、術式を自覚した俺。
本来なら、陰陽師の家系として、こんなに早く術式を得た事実は喜ばしいものだ。
一回目の人生の俺も、初めて術式を自覚した時は、とても喜んだ。
しかし、一回目の人生の時では、俺にとって5歳の誕生日は、余り良い思い出では無い。
その理由は、もうじき分かる。




