023未来は変わるかも知れない
俺の視界いっぱいに緑が広がる。
草の匂いは、俺の心を落ち着かせてくれる。
ここは、明治神宮の中でも、比較的人が少ない広場。
九十九神楽と言う家名で、軽い騒ぎが起こってしまったので、場所を変えて、社務所から広場に移った。
俺、婆や、茉昼、澪姉、福丸。
そして…神木凪桜、神木春桜を加えて、7人は各自広場で座り込み、休憩している。
『へぇ…そんなことが。じゃあ、宵明のお父さんは今居ないんだ。だから、屋敷でも見当たらなかったんだ』
福丸が九十九神楽家に関する事情を聞いて、大変そうだと呟く。
福丸は、さっきの九十九神楽に対する周囲の反応と当主逃げという言葉が気になったみたいだ。
『いろいろと大変なんだね。九十九神楽って』
「うん…今は父さんに変わって、俺のお爺ちゃんが当主に戻って、九十九神楽を支えてる」
4年前、当主逃げという前代未聞の出来事が起こった九十九神楽。
現在は前当主の父さんの代わりに、父さん以前の当主であった前々当主であった俺の祖父が、現当主に戻り、九十九神楽を切り盛りしている。
とは言え、その祖父も歳である。
このまま当主を続けるのは、厳しい。
すぐに老衰するという訳ではないが、出来るだけ早く別の当主に見つけた方が良いのは確か。
それも相応しい当主を。
『宵明は当主になりたいの?』
「は?」
福丸の純粋な質問に、俺は見を見開く。
思いもよらない質問だった。
俺が当主?冗談だろ。
「俺は当主になるつもりも無いし、そもそも次期当主の才覚も無い」
『そうなの?向いてそうな気がするけど』
向いているはずが無い。
俺は福丸にも分からないように、僅かに眉根を寄せる。
一回目の人生では、俺は家族も九十九神楽も…誰も守れなかった。
そんな人間に、当主になる資格は無い。
まぁ…父さんの二番目の妻である九十九神楽幸子なら、自分の息子である匠を次期当主にしようと考えているだろう。
「すまない、宵明」
そこで、澪姉が俺に謝りに来る。
申し訳なさそうに、軽く頭を下げる。
「私が大声で九十九神楽と言ったせいで、厄介な事になった」
「ううん、気にしてないよ。元はと言えば、俺が迷子になったせいだから。澪姉は九十九神楽を誰よりも大事にしているし」
「助かる」
俺と澪姉が気まずそうにしている傍ら、
「春桜さん…もしかして、この子が凪桜ちゃんですか?」
「ああ、常さん。ええ…この子が儂の孫娘の凪桜です」
婆やと神木凪桜の会話が聞こえる。
春桜が凪桜を、婆やに紹介している。
会話の内容から、婆やは神木凪桜の存在を知っていた?
婆やは神木凪桜を見て、微笑む。
「こんにちわ、凪桜ちゃん。初めまして」
「……はじめまして」
神木凪桜は少し間を置いて、婆やに初めまして…と言う。
「春桜さん……凪桜ちゃんのお爺さんとは、古いお友達なの。よく手紙でやり取りしていてね。少し前から凪桜ちゃんのことは、手紙で聞いていたの」
「……お爺ちゃんの友達」
婆やの優しい笑みで、安心したのか。
自身の祖父の友人だから、警戒がないのか。
神木凪桜は婆やに歩み寄り、ジッと見る。
そんな彼女を婆やは本物の孫のように、黒い髪に数本の白髪の混ざった頭を優しく撫でる。
「サラサラの髪ですね」
「………うん」
神木凪桜は嫌がる事も無く、満更でもない様子で、撫でられていた。
「………」
俺は無言で、神木凪桜を見る。
彼女は一回目の人生の時、俺を殺した。
その時は、まさに冷徹無慈悲な顔つきだった。
禍人となり、様々な著名な陰陽師を殺害し、日本を震撼させる殺人鬼へとなる少女。
でも、今の神木凪桜を見ると、それは気のせいなのではと思ってしまう。
一体、どのような経緯があって、彼女は殺人マシーンになってしまったのだろう。
俺は、神木凪桜という人物をもっと知らなければいけないのでは無いか?
もっと神木凪桜について知れば、彼女が何故…禍人になったのか分かるかもしれない。
もしかしたら、彼女が禍人になること自体、止められるかも………、
「おにぃ!あそんで!」
茉昼が元気いっぱいに、俺に飛び掛かる。
俺の思考が、そこで中断される。
今は我が妹の相手をせねば。
福丸の件しかり、未来は変わるかも知れない。
神木凪桜の祖父と婆やは友人関係であった。
なら、今後神木凪桜と接触できる機会を作れるはずだ。
俺の未来のために。




