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『十二の式神使い』 〜殺された御三家陰陽師の俺は、過去へと戻り、破滅未来を回避するために、現代最凶の式神使いになる〜  作者: 星衛門
第一章 二度目の人生の始まり

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012救済




 煤黴…それは黒カビのような見た目をした怪異。


 それが一箇所だけでなく、塀の周囲の至る所に散らばっていた。


 『コイツ!感じた悪い気配は間違いなくコイツ!』


 福丸が塀の壁に張り付いた煤黴を見て、肉球で示す。

 警戒心を出し、フニャア!!…と、俺の後ろで威嚇声を出していた。


 『なるほど、福丸の探知は真だったか』

 「うん。でも、煤黴だね。煤黴なら問題なさそうかな」


 禍丸と俺は煤黴を見ても、冷静に問題なしと判断する。


 これ自体、かなりメジャーな怪異である。

 一目見ただけで、俺でも名前が分かった。


 1回目の人生の幼少期でも、初心者陰陽師であった俺が肩慣らしとして、よく祓った記憶がある。

 つまり、煤黴は怪異の中でも、初心者が祓うような弱い怪異なのだ。


 とはいえ、煤黴は家…特に、古い家や誰もいなく手入れされていないような家の壁や天井に張り付き、傷ませる。


 厄介なのは少ない数の煤黴でも、短時間で鼠算式に数を膨れ上がらせる性質がある。

 そうなると、家の壁や天井の被害は飛躍的に上がる。


 見かけたら、即祓うのが基本である。


 俺の屋敷は改装を繰り返しているとはいえ、江戸時代から続くもの。

 400年の歴史がある。


 だったら、煤黴ぐらい取り付くか。


 そうして、俺たちが煤黴を眺めていると。


 ガサガサ!

 煤黴が動き出す。


 『うわ!こっち来た!』


 福丸が驚愕する。

 煤黴が黒カビからウニのような角ばった形になって、壁を伝って、俺たちの方に来たのだ。


 煤黴は怪異。


 怪異は基本、人…そして、弱そうな妖怪を見ると襲いかかる性質を持つ。

 この場では、煤黴のターゲットは俺と福丸だろう。


 俺は福丸を連れて、禍丸の後ろに隠れる。


 「禍丸、お願い」

 『任せろ』


 俺が禍丸に頼むと、禍丸は頷き、息を吸う。


 スウゥゥ…。

 周囲の空気が一気に、禍丸の口の中に流れ込む。

 黒い体一杯に、空気が溜める。


 それは一回止める。

 一瞬の静寂が訪れるが、それは嵐の前触れ。


 『な、何が始まるの?』

 「福丸、耳塞いで」

 『え、耳?』


 福丸はよく分からない顔でも、肉球で耳を塞ぎ、俺も塞ぐ。


 次の瞬間、禍丸が大きく口を開ける。

 放たれるは、


 『グルアァ!!!』


 一際大きい雄叫びを上がる。


 その声は、禍丸の後ろにいた俺と福丸の体の芯にも響く代物。

 耳を塞いでいても、迫力が伝わる。


 強力な霊力を伴った禍丸の雄叫びが、煤黴に当たる。


 バン!

 まるで、不可視の巨大なハンマーで叩きつけられたかのように、煤黴は霧散した。


 一瞬である。


 初心者でも祓える煤黴と、妖怪において最高位の格を持つ犬神の禍丸。

 レベルが違う。


 煤黴は弱い怪異とは言え、数が多い。

 だからこそ、煤黴に対しては、広範囲攻撃が有効なのだ。


 「終わったな」


 煤黴が消えたのを確認して、俺は一息つく。

 完全に気を抜いていると、


 『まだニャ!上!』


 福丸の警告が鼓膜を揺らす。


 「上?……っ?!」


 福丸がいきなり上というので、言われた通り上を見ると、俺と福丸のそばにある塀の上側に少数の煤黴がいた。

 みんな祓ったと思ったら、まだ残っていたのだ。


 ガサガサ!

 その煤黴は、煤のような棘を出して、俺と福丸に目掛けて降ってきた。


 「福丸!」

 『わ?!』


 俺は福丸を抱えて、横に飛ぶ。


 直前まで、俺と福丸がいた場所に、煤黴が落ちる。


 危なかった。

 もし、福丸が注意してくれなかったら、不意打ちを喰らっていた。


 いくら煤黴が弱い怪異とは言え、完全に無防備な状態で攻撃を食らうのは、危険である。


 地面に降りた煤黴は、また俺たちに飛び掛かろうとしていた。


 「む!」


 俺は気合を込め、瞬時に体の中の霊力を全身に滾らせる。

 すると、体中から力が湧いてくる。


 霊力の精密な操作自体、毎日の『周天巡霊』でやっている。

 さらに、一回目の分の人生でも、霊力は18歳まで動かしていた。


 俺にとって、霊力操作はお茶の子さいさい。


 霊力を体に行き渡らせ、身体能力を大幅に上げた俺。


 「は!」


 肉体強化した状態で、思いっきりパンチを放つ。


 パン!

 拳の少しの感触を感じつつ、俺のパンチによって、軽い音を立てながら、霧散する。


 元々、少数の煤黴だったので、簡単に倒せた。

 お祓い完了である。


 二回目の人生初の怪異退治に、俺が満足そうな顔をしていると、


 『こら!宵明!』

 「うわ?!」


 いきなり、禍丸に怒鳴られる。

 禍丸は、険しい顔をしていた。


 『何があっても、無茶はするなと言っただろ!お前が毎日鍛錬しているのは知っているが、万が一のことが起こったら、どうする!』

 「ご、ごめん!」


 怒る禍丸は、俺は平謝りするばかり。


 禍丸の良い通りであるからだ。

 あそこは万が一を考えて、俺が態々祓わずに禍丸へ頼むべきだった。


 謝り続ける俺を見て、禍丸は溜息を吐く。


 『ふぅ………もし、宵明に何かあれば、私は悔やみ切れん』

 「本当にごめんなさい」


 俺は今一度、大きく謝る。

 俺と禍丸の2人の様子は、側から見れば、説教する親と説教される子供だろう。


 俺が反省したと思ったのか、禍丸は怒るのを止める。


 そんなところに、福丸がゆっくり俺に近づく。

 小さい声で俺に言う。


 『あの犬…厳しいね。宵明は僕を守っただけなのに』

 「はは…犬じゃなくて、犬神な」


 福丸は、厳しめな禍丸に少し不服なようだ。

 そんな福丸は人懐っこい笑みで俺に言う。


 『ありがとう、宵明。さっき助けてくれて』


 助けてくれて…と言うのは、俺が福丸を抱えて、煤黴から助けたことだろう。


 「良いって。福丸は俺の式神だし」

 『宵明が助けてくれなかったら、僕…煤黴にやられてたかもしれない』

 「ん?……やられてたかもしれない?」


 福丸に聞こえないほどに、俺は小さく呟く。


 やられてたかもしれない。

 福丸の、その言葉に何かを感じる。


 ふと…俺の脳裏に遠い記憶が流れる。


 それは、ずっと前に忘れていた一回目の人生の時の記憶。

 一回目の人生で、今と同じ俺が4歳の記憶である。


 【ねぇ、聞きました?今朝、屋敷の外で猫又が死んでいたらしいんですの】

 【聞きました。何でも、昨晩…屋敷の厨房に侵入した猫又だそうで】

 【三毛猫の猫又でしたっけ?】

 【ええ、しかも、オスの三毛猫の猫又でしたよ。珍しかったので、覚えてます】

 【屋敷の外にいた煤黴にやられていたそうで】

 【あらやだ、可哀想に】


 それは偶然、4歳の俺が聞いた使用人同士の会話だった。


 うろ覚えだった記憶が少しずつ鮮明になる。

 そうだ、オスの三毛猫の猫又…福丸は一回目の人生の時に、屋敷の外の煤黴によって、死んだのだ。


 三毛猫のオスと言う非常に珍しい猫又が、大雨の次の日に死んでいた。

 そういうことで、屋敷の使用人たちは数日間、不吉の兆しなのでは…と、噂が立てていた。


 俺の記憶が正しければ…本来、福丸は昨日の大雨の日に、俺の式神になることもなく、その次の日に煤黴…恐らくは今日祓った煤黴に殺されていたのだ。


 それが今…二回目の人生にて、無かったことになった。


 これは、二回目の人生にして、初めて俺が誰かの命を救ったと言えよう。

 一回目の人生で、無くなるはずだった命を守ったのだ。


 福丸を”救済”したと言って良い。


 『……宵明?……宵明?』

 「…んん?」

 『どうしたの?ボーとしてたけど」

 「ああ、考え事をしていて。福丸が無事で良かったなぁって」

 『えへへ!』


 俺は福丸の頭を撫でる。

 福丸は気持ちよさそうにしている。


 本来、不幸な死や事故を被るはずの者を救済する。

 それは、二回目の人生を得た今の俺が、一番やりたかったこと。


 俺は無意識に、拳を握り締める。


 そうだ、出来るんだ!

 こうして、俺が行動を起こせば、一回目の人生で救えなかった命を救済できる。


 この調子で、俺はこれから居なくなる俺の家族を救済していくんだ。

 俺は出来る!


 今回の福丸救済は、その一歩目である。




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