第3話
ヴァレンタイン、当日。
いつも通り、俺は愛梨と一緒に登校していた。
「チョコレートなんだけど」
「え? な、なに!?」
俺がチョコレートのことを話題にすると、愛梨はビクっと肩を震わせた。
何か、驚くような要素、あったか?
「冷蔵庫にあるから。学校、終わった後でいいよな?」
「あ、あぁ……う、うん。私も一颯君のは、家にあるから」
そんな話をしているうちに、学校に着く。
例年は葉月と愛梨からしかもらえていないが、今年はどうだろうか?
ちょっと期待しながら、下駄箱を開ける。
中には俺の上履きだけが、入っていた。
「あら、空じゃない。残念だったわね」
愛梨は俺の下駄箱を覗き込みながら、妙に嬉しそうに言った。
小馬鹿にされているようで、少し腹が立つ。
「勝手に見るな」
俺は上履きを取り出してから、下駄箱を閉めた。
「まあ、まだもらえないと決まったわけじゃないし。そう落ち込まなくてもいいじゃない」
「別に落ち込んでない。そもそも、欲しいと思ってない」
「強がり言っちゃって」
愛梨はニヤニヤと笑いながらそう言った。
別に強がっていない。
……幼馴染以外の女の子に、好意を向けられたことがないことを、気にしたりしていない。
「拗ねないでよ。私がチョコレート、あげるからいいじゃない」
「別に拗ねてない」
教室についた後、机の中を確認する。
やはり、入っていない。
「どう? 一颯君……なさそうだね」
「顔で判断するな」
「覗くと怒るじゃない」
愛梨はいつになく、上機嫌だ。
そんなに俺がチョコレートを貰えてないのが、嬉しいのか?
……そりゃあ、嬉しいか。
愛梨は俺のこと、好きだろうし。
そう思った途端、この生意気な幼馴染が可愛く見えてきた。
「そんなに俺が、チョコレートをもらったか、気になるのか?」
俺がそう尋ねると、愛梨は顔を強張らせた。
「は、はぁ? そ、そんなわけ、ないでしょ? 一颯君が誰からチョコレートをもらおうと、私には関係ないし」
愛梨はそう言うと頬を背けた。
そしてそのまま自分の席に戻ってしまった。
久しぶりに愛梨にやり返せた。
いい気分だ。
そう思っていると、携帯が振動した。
開くと、メールが来ていた。
――昼休み、体育館裏に来てもらえませんか?
葉月からだった。
昼休み、か。
その前は体育の授業だし、その帰りに寄るか。
しかし、何の用だろうか……。
あぁ、チョコレートか。
そんな予想を立てていた俺は、体育の授業を終え、着替えてから体育館裏へと向かった。
どこか、そわそわとした様子の女子生徒の、後ろ姿が視界に映った。
「葉月」
「あ、風見さん」
葉月は肩をビクっと震わせてから、振り返った。
手には可愛らしいリボンと包装紙で包まれた箱を持っていた。
「早速ですけど、これ。ヴァレンタインのチョコレートです」
葉月は無造作に箱を俺に手渡した。
俺は素直にそれを受け取る。
「ありがとう。後で食べるよ。……俺からも、いいかな?」
「なんでしょうか?」
困惑する葉月に、俺は手に持っていた包みを手渡した。
「何ですか? これ」
「いわゆる、逆チョコだ」
「……へぇ」
葉月は少し驚いた様子で、目を見開いた。
そして小さく笑う。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「ああ、うん……食べろよ?」
「大切にしてから、食べますよ」
葉月はケラケラと楽しそうに笑った。
そして包みをしまうと、踵を返した。
「では、私はこれで」
「……教室、逆じゃないか?」
葉月のクラスは俺のクラスの隣。
帰り道は同じはずだが……。
「遠回りしたい、気分なので」
葉月は振り返り、笑った。
少しだけ、寂しそうに見えた。
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