第2話
「で、どんな感じのチョコレートがいいと思う?」
「……はぁ?」
予備校の休憩室で私が問いかけると、陽菜ちゃんは呆れ顔を浮かべた。
ちょっと薄情だと思う。その反応は。
「無難にハート形にすればいいんじゃないですか?」
「でも、ハート形って好き好き感出過ぎじゃない?」
「……そんなことは、ないと思いますけど」
私の言葉に陽菜ちゃんは目を逸らし、そして口籠った。
……誰かにハート形のチョコレートを渡したことがあったりするのかな?
「そもそも、好きだってアピールしたいんでしょう?」
「それは、そうだけど……告白されたって思われたら、嫌なの」
「ハート形くらいで告白されたとは思いませんよ。……言葉にしなければ、伝わりませんからね」
「……そう?」
もし、私が一颯君にハート形のチョコレートをもらったら……。
確かにそれだけで告白されたと思うほど、自意識過剰にはなれない。
考えすぎだったかな?
「いっそ、告白したらどうですか?」
「……嫌。告白するのは、付き合ってって頼むのは、一颯君からだから」
「どうしてそんなに嫌なんですか? 頼んだのが愛梨さんだからと言って、いじわるされることはないと思いますけど」
「それは、そうだけど……」
一颯君はいじわるなところもあるが、それ以上に優しい。
頼んだのが私だからといってぞんざいに扱うことはないと思う。
きっと、今まで通り、甘やかしてくれる。
「……私、最近、一颯君に負けてばっかりだから」
「負ける?」
「勉強でも、運動でも。だから、自信が欲しいの」
「自信、ですか」
「うん。私からだと、不安なの」
私は一颯君に釣り合っていない。
一颯君は、すごい人だから。
きっと、私にパパの病院がおまけで付いてくるとしても、一颯君なら独力でもっといい仕事を見つけるはずだ。
一颯君は、私よりも優れてる。
だから、欲しい。
これからも甘えたり、我儘を言って振り回したい。
そのためには、私からじゃ、ダメだ。
一颯君から告白してくれたと、一颯君の方から私にお付き合いを頼んだという建前がないと、私は安心して、一颯君と付き合えない。
一颯君が上で、私が下。
私の中で、そういう序列ができてしまう。
そうなったら、私はきっと、一颯君に媚びてしまう。
捨てないでください。
恋人でいてください。
そういう態度を日常的にしてしまう。
それはきっと、一颯君も望んでない。
「なるほど……」
陽菜ちゃんは私の言い分を聞くと、頭を掻いた。
そして小さくため息をつく。
「敵わないですね」
「……何が?」
「いいえ、こちらの話です」
陽菜ちゃんは小さく笑って答えた。
「愛梨さんのお気持ちは分かりました。今度、機会があったら私の方から、風見さんに強く背中を押します」
「本当!? ありがとう!」
私は陽菜ちゃんの手を握る。
すると陽菜ちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめ、やんわりと手を抜く。
「どういうのは、風見さんにしてください」
「……割としているとは思うけど」
「あ、あぁ、そうですか……このバカップルめ」
陽菜ちゃんはなぜか、私を睨んだ。
まだ付き合ってないし、カップルじゃないと思うけれど。
「でも、急いだ方がいいとは思いますけどね」
「そう? まだ、高校卒業まで一年あるけれど」
「風見さん、ああ見えて……というか、見ての通り、モテるでしょ? 知ってますよね?」
「あ、あぁ……うん、そうね」
一颯君はモテる。
あんなに頭が良くて、カッコよくて、優しい男の子が、モテないはずがない。
本人は自覚していないけど、それは私が女の子避けになっているからだ。
客観的に見て、私よりも可愛い女の子なんて早々いない。
だから私が一颯君の隣で恋人面をしている限り、誰も一颯君に告白するような真似はしない。
だから一颯君は自分が女の子にモテモテである。
可哀想なことに、本人は気付いていないけれど。
「今年のヴァレンタイン、どれだけチョコレートを貰うのか、見物ですね」
「そ、そうね……」
私よりも可愛い女の子はいない。
でも、一颯君が、私の好意に気付かなかったら。
消去法で恋人を選ぶような選択をしたら……。
少しだけ、怖くなった。
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