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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第二章 アクアセルシス王国
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アクアセルシス王国6





 集合場所に先に辿り着いたのはエリス達だった。あと5分ほどで時間になるという時に、龍は姿を現した。しかし、その横には白髪の人よりの獣人の姿があった。

 エリスには見覚えがあるような気がしていたようだったが、先に反応したのはツェルンアイだった。まるで憎い相手を見るかのように睨みつけている。

「龍、それ誰? 私と同じオオカミの匂いがする」

「ああ、彼は以前闇オークションで……って、ツェル!!」

 龍が連れているサーチャのことを話す前に、ツェルンアイは何故かサーチャに掴みかかった。龍は勿論エリス達も驚いた。

 周りにいる者達は何事かと遠巻きにしてその様子を見ている。

 流石獣人の力と言うべきか。サーチャの胸倉を掴んだツェルンアイは自分より身長が高いのにもかかわらず、腕力だけで持ち上げてしまう。

 服で首が絞まってしまわないようにと両手でツェルンアイの手首を掴むサーチャを見て、龍はサーチャの手の上に手を置いて力を入れてツェルンアイの手を下させた。抵抗することなくツェルンアイは手を下し放したが、2人の手の間に挟まれた手が痛かったのかサーチャは両手を交互に摩っていた。

「ツェル、どうしたの?」

「……」

 白美の問いかけにツェルンアイは何も答えなかった。ただ黙って、サーチャを睨み続けるだけだった。

 その様子を見て何かに気がついたのか、リシャーナが小さく「あ」と声を発した。その声を聞いたエリスがリシャーナを見ると、リシャーナはツェルンアイに近づいて軽く右肩を左手で叩いた。

「ツェルンアイ、大丈夫よ。彼は貴方が心配するような人じゃないと思う。それに、龍が連れて来た人を追い出すの?」

「……でも、オオカミだとどうしても嫌なの」

「俺の種族は変えられない。オオカミであることも。けれど、あんたがなんで俺に向かって来たのかは何となく理解した。それに関しては口にはしない」

「いったい何のことかはわからないけれど、仲良くしてほしいんだけど……無理か?」

 先ほどの様子を見ると、ツェルンアイとサーチャが仲良くできない可能性が高いと判断した龍はフエン気にツェルンアイに問いかけた。

 大きく息を吐き、目を閉じたツェルンアイは10秒ほど黙ってから目を開けてサーチャと龍へと目を向けた。

「大丈夫。仲良くっていうのは無理だとしても、さっきみたいなことはもうしない。彼がああ言うなら信じる」

「そうか、よかった」

 安心したように息を吐いた龍はそう言うとエリスを見た。エリスは彼が何者で、どうしてここにいるのかを聞きたそうにしていた。

 ツェルンアイがサーチャに掴みかからなければ、それを尋ねていたことだろう。それはサーチャも気がついていたようで、自分から口を開いた。

「俺は、ウー・サーチャ。元奴隷の見ての通り獣人だ。主人が俺を買った。でも、帰る場所がないから家族に迎えてくれると……」

 そう言って、龍が勝手に決めたのだからと反対されると考えた様子のサーチャはエリス達を見た。誰か1人でも嫌だと言えば、サーチャはここにはいられない可能性が高いのだ。

 それに、ツェルンアイが大丈夫と言っても家族としては嫌だと言うかもしれない。

「私はいいと思いますよ。帰る場所がなかったのは、ツェルさんも同じでした。同じ理由なのに彼だけを受け入れないと言うのはおかしいと思います。それに、同じオオカミの獣人であるツェルさんとサーチャさんにはいい刺激だと思います」

「いい刺激?」

 サーチャを安心させるために微笑んで言う黒麒に、ツェルンアイがどういう意味と言う思いを込めて呟いた。

「同じオオカミの獣人。違う群れで過ごしてきたのなら、オオカミとして経験したことも違うでしょう。ツェルさんは人の世界にもいたことですし、お互い経験したことを話しあってみれば助け合うこともできるかもしれません。それだけではなく、ツェルさんのサーチャさんに対する気持ちが変わって仲良くできるかもしれないじゃないですか」

 黒麒は家族であるのに仲が悪いことが嫌なようで、微笑んだままツェルンアイに言った。渋々という感じで頷くツェルンアイを見て、エリスが一度手を叩いた。

「それじゃあ、サーチャ。これからよろしくね」

「こちらこそ、よろしく」

「でも、私達は用事でこの国に来てるの。だから、貴方の部屋とかは帰ってからでもいいわよね?」

「構わないけれど、帰るのはいつ?」

「半月後か、ひと月後か。もしかするとふた月後かも」

 いつ帰るのかはわからないのだと理解したサーチャは、エリスの言葉に苦笑いしか出なかった。一緒にいればいいのだろうと思うと、龍から離れないようにと龍の側へと近づいた。

 その時。城からの迎えである馬車が、エリス達の側に止まった。エリスが馭者と会話をしている間、龍の側にいたツェルンアイへとサーチャは近づいた。

「あんた、話してないんだな」

「何のこと? それに、これに関しては口にしないんじゃなかったの」

「言ってないのに何のことかわかってるんじゃないか。それに、あいつらには聞こえないように話すさ」

 そう言うサーチャは、ツェルンアイに話かけた時から小声である。それは、側にいる龍達には聞こえないようにという配慮だろう。

 いつもであれば、白美には聞こえていただろう。しかし、今は馭者と会話をしているエリスの側にいる。2人の話し声は聞こえないだろう。

「話すのなら、早めに話したほうがいい」

「あんたに私の気持ちが……」

 わかるはずないと続くはずだった言葉は、サーチャの顔を見て呑み込まれてしまった。その顔は辛そうに歪んでいたのだ。まるで、話さなかったことにより何かが起きると知っているかのように。

 もしかするとサーチャは、ツェルンアイのような知り合いがいたのかもしれない。そして、話さなかったことにより何かが起こった。だからそのような顔をしているのかもしれない。

「……もう少し気持ちの整理がついたら、この髪のことも瞳のことも話す」

「そうか。なら、改めてよろしく。ウー・サーチャだ」

「ツェルンアイ・ガリン・ゲンファー」

 右手を差し出したサーチャに、ツェルンアイも右手を差し出した。サーチャの両手は二の腕から獣の毛に覆われており、手はまるで獣の獣人のようだった。

 鋭い爪がツェルンアイの手に当たらないように力加減をするサーチャを見て、「思っているよりは赤よくできるかも」と呟いた。

 その声が聞こえたのか、2人へと視線を向けた龍は口元に笑みを浮かべ、「さて、馬車に乗るか」と2人を誘導した。

 先にエリス達が馬車に乗り、ツェルンアイ、サーチャと続いて龍が最後に乗り込んだ。そして扉を閉めて、全員が座ったことを確認すると馬車はゆっくりと城を目指して走り出した。













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