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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第七章 記憶と
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記憶と4









******







 龍の意識が覚醒する。しかし、目を開けることも口を開くこともできない。だが、周りにいる人の気配を感じ取ることができ、話を聞き取ることもできた。

 どうやら話をしているのは、エリスと悠鳥の2人のようだ。もう1人の気配も感じられたが、どうやら意識がないようで話し声は聞こえない。

 ここにエリスがいるということは、意識がない人物はアレースでここは病室なのだろうと龍は思った。そして、悠鳥に掴まってからの記憶が曖昧なことから、自分も意識を失い病院で手当てを受けて病室に寝かせられているのだろうとわかる。

 指すら動かせないため、拘束でもされているのかと思ったがそうではないらしい。腕や足のどこにも拘束具がつけられているようには感じられない。どうやら、意識が覚醒しただけで体はまだ眠っているようだ。

 体が動かないのならと、諦めて大人しく2人の話に耳を傾けた。2人は龍が起きていることには気づいていないようで、真剣に話をしていた。

「アレースはまだ目を覚まさぬようじゃな」

「ええ。手術もうまくいったのだけれど……早くても明日に目を覚ますとはメモリア先生が言っていたわ」

 どうやらアレースは病院に運ばれてから手術をしたようだ。あれからどのくらい時間が経ったかはわからない。最低でも半日は経っているだろう。なんとなくではあるが、そう思った。

 城や街はどうなったのか。悠鳥や街の人たちが一生懸命消火しようとしていた炎はどうなったのか。今の2人の会話からはわからない。

「今はアレースが眠っているから、私がこの街をスカジとビトレイから取り戻さないと」

「エリスに何ができるというのじゃ。其方は召喚術がメイン。使えても回復魔法や補助魔法。それと少しの攻撃魔法くらいじゃろ。1人で2人を相手にするとは思ってはおらぬが、たとえ1人でも負けるじゃろう」

 言い切る悠鳥にエリスは黙ってしまう。自分でもわかっているのだろう。ビトレイはアレースが負けてしまうほどの腕を持つ剣の使い手だ。

 そしてスカジ。たとえ、エリスには紙に描いた魔法陣があるといっても、スカジのように能力の高い魔物を呼び出すことはできないだろう。『マンティコア』を召喚したのはスカジだ。しかしエリスには『マンティコア』を召喚することはできない。

 国王専属召喚士なだけあって魔力は高いのだろう。しかも、エリスよりも。魔力増幅アイテムを使用すれば、エリスでも『マンティコア』を召喚することはできるだろう。だが、スカジはアイテムがなくても召喚できるのだ。それだけでスカジとエリスの実力に差があることがわかる。今から魔力を上げるにはアイテムを使うしか方法がないのだ。

「負けるとわかっていても、この炎だけは止めないと」

「……今は妾が炎の壁で包囲しとるから、これ以上広がることはないとは思うが、いつまでもつかはわからぬ」

 炎は悠鳥が進行をくい止めているようだ。広がることは今のところないが、炎が収まることもない。悠鳥が食い止めているということは、現在消化をしている者はいないのだろう。それに、いつまでもつかわからないということは、悠鳥も疲れているということだろう。

「……炎を、消さ……ないと……」

「龍!?」

「起きたのか。怪我はどうじゃ?」

 声が出ると、ゆっくりと目を開くことができた。指も動くが、まだ起き上がれはしないだろう。龍は小さく息を吐いた。

 怪我と言われ、ビトレイに斬られたことを思い出した。僅かに痛みはするが、気になるほどではない。手当の際に麻酔を使ったのなら、その効果がまだ残っているのかもしれない。

 痛みはないと軽く首を横に振ることで告げる。部屋を見渡すが、3人の姿しか見えない。黒麒とユキ、それに白美は一体どこにいるのだろうか。

「なんじゃ、姿の見えぬ者達の心配か? 黒麒とユキはルイットにおる。白美も先ほどは近くにおったが、もしものために戦えるよう準備をしておる者達の手当てをしておる。もしかすると今はルイットにおるかもしれぬがの」

 魔物嫌いだと言っていても、こんな時は関係ない。怪我をしており、手当をしてもらえればいいのだ。魔物だからと争っていても、今の敵は人間なのだ。無下にはできない。

 ルイット方面にいるという黒麒とユキは、戦うことができないため安全な場所へと避難したのだろうと考えられた。

「龍、私2人を止めてくるわ」

「駄目だ。……俺が行く」

 無理矢理体を起こすと、悠鳥が倒れないように龍の体を支えた。僅かに痛みはあったが、起き上がれないほどの痛みではなかった。まだ思うように体が動くわけではないが、勝てないとわかっているところへエリスを行かせるわけにはいかない。

 エリスを行かせるくらいなら、戦うことのできる自分が行くと床に足をつけようとしたが、流石に悠鳥が止めた。

「其方はアレースと同じで手術をしたのじゃ。すぐに動いてはいかん」

「手術?」

 手術をするほど怪我は酷かったのかと、体を見下ろす。病衣を着せられているため、傷を見ることはできなかった。包帯が巻かれているようには感じられるが、手術をしたようには感じられなかった。

「本当に手術なんかしたのか? 俺の世界では……」

「ちょっと待って。龍、記憶が……戻ったの?」

「……ああ」

「いつ?」

 自分がいた世界では、術後すぐにはこんなに動くことはできないと言おうとして、エリスに止められた。程度によっては動けることもあるのだが。俯いて返事をする龍にエリスが詰め寄る。2人は知らないのだ。記憶が戻ったことも、スカジが龍と同じ世界から来た人間であり、両親を殺したといってもいい存在だとは。

 スカジに言われるまで龍も忘れていたのだ。記憶が無いということを抜きにして事故の日に見た、トラックの運転手のことを。たしかにあの時よりも年をとっているため記憶にある顔とは少々違うが、あの時目が合った運転手はスカジなのだ。言われるまでずっと忘れていた。

「ビトレイの剣を受けたあと、スカジ、から……話を聞いた。あいつは、俺と同じ……世界の人間」

「スカジも龍と同じく、異世界から来たということか……」

 悠鳥が小さく呟いた。声もなく驚いているエリスは、龍を見たまま黙っている。何故スカジから話を聞いただけで思い出したのか、もしかしたら血縁者だったのかと考えているのだろう。

 驚いているエリスに龍は静かに話した。自分の両親はスカジが起こした事故により亡くなり、スカジの顔を見ていた幼い頃の自分はそのことを忘れてしまっていたと。

 思い出したのはスカジの話を聞いてから。それまでずっと忘れており、もちろん犯人も捕まらなかった。それもそのはずだ。スカジはあのあとすぐにこちらへ来ていたのだから。

 別の世界へ行ってしまった人間を捕まえることはできない。しかし、警察はトラックに乗っていた人物を突き止めていた。トラックに残っていたノートに名前が書かれていたのだ。そして会社の実態も。

 子供だった龍が病院にいる間、何度か警察が来て犯人は捕まっていないが、同じように悪い人達は捕まったと教えてくれたことがあった。それは、スカジの会社の上司達だったのだろうと今ならわかる。

 怪我が治ったあと、親戚は龍のために残されたお金を全て貰うと、龍を施設へと入れてしまった。それは犯罪だ。子供のためにと両親が貯めていたものなのだから。それを、龍に一度も使うことがなかった。

 施設に入れられてから、親戚からは連絡もなかった。事故にあって両親を亡くした可哀想な子供。犯人は捕まっていないから、もしかすると犯人が施設に来て関係ない子供も殺されるのではと大人達は噂をした。そのため、龍は何度も多くの施設を転々とした。

 それぞれの施設で、養親になってくれるという人達はいたが、そうなる前に施設側は龍を別の施設へと預けていた。多くの施設では、どうやら龍のことが噂になっていたようだ。

 もし、引き取ってその家族が事件に巻き込まれたら困る。養親になってくれるという人達が現れたら別の施設へ預けるというのは、暗黙の了解となっていたようだ。

 中学生になる頃には養親になってくれるという人達もいなくなり、他の施設へ移動することもなかった。もしかしたら、龍が事故により死んでしまって施設の人達は安心しているのかもしれないと今なら思う。だが、あの女性や親友は悲しんだのだろうと思うと申し訳ない。

「名前も思い出したの?」

 思い出した。しかし、2人に教えたとしても今の名前で呼ばれることに慣れてしまっている。本名で呼ばれるのは、姿も少々違うので遠慮したかった龍は頷いただけで教えはしなかった。

 それでも教えてほしかったエリスは何度も尋ねてくる。そんなエリスに小さく笑うと、龍は右人差し指を唇の前に立てて言った。

「秘密だ」

 静かに言ったその言葉にエリスは溜息をついた。どうやら諦めてくれたようだ。悠鳥も知りたがってはいたが、尋ねることはなかった。そのうち、話す機会があれば教えるのもいいかもしれないと龍は微笑んだ。

「……それで、龍は行くのか?」

「ああ。この炎を止めないといけないからな」

 窓の外を見ると、遠くが僅かに赤い。悠鳥のお陰で、炎は広がっていないようだが、消えてはいないのだ。

 何を言っても龍は行くのだろうと思った悠鳥は大きく溜息を吐いた。エリスは悠鳥が何をするのかわかったようで、何かを言おうと口を開いたが、言うことなく閉じてしまった。

 窓の外を黙って見ていた龍の左肩を、悠鳥は軽く二度叩いた。話しかけるのではなく、軽く叩いたことに驚いた龍は悠鳥を見上げた。

「止めても聞かぬようじゃから、其方の怪我が簡単に開かぬように治療しておいた方がよいだろう」

 そう言うと、悠鳥は龍のお腹に右手を翳した。病衣の下の怪我を見ることはできないが、傷口を簡単には開かないように塞いでいるようだ。

 今は痛みがないため、どの程度怪我が酷いのかは龍にはわからなかった。だが、手術をした傷が開く可能性があるのだと悠鳥の言葉からもわかる。

「よいか。この傷は消すことが可能じゃ。もちろん、その左手の傷もじゃ。しかし、一度でもこの傷が開いてしまえば、永遠に消えることはなくなってしまう可能性がある。わかったな」

「ああ。気をつけるよ」

 傷が開かないなんて無理だろう。そう思ったが、口には出さなかった。もし言ってしまえば、絶対に止められると思ったからだ。それに、悠鳥もわかっているのだろう。だから、さらに塞いだのだ。もしも傷が開いたとしても龍は構わなかった。消えなくなっても構わない。この体は、元々『黒龍』のものではあるが、悠鳥に渡された初代『黒龍』が戦闘で一本の牙と数個の鱗を失ってしまい、それらを使い三本の刀を作ったというが、代替わりをしてしまえば治るのだ。その証拠に牙はどこも欠けてはいない。だから、今の自分が大怪我をして傷を残しても、次には引き継がれないのだ。

 黙ったままのエリスは龍の隣のベッドで眠っているアレースを見ていた。アレースはこれだけ周りで話をしていても目を覚ます様子はない。

 それだけアレースが受けた傷は酷かったのだろう。龍が目を覚ましたからといって、アレースも目を覚ますとは限らないのだ。『黒龍』である龍と、人間であるアレースでは丈夫さも違ければ、治癒力も違うのだ。

「これくらいで大丈夫じゃろう」

「ありがとう」

 そう言うと、龍は靴を履いてベッドから下りた。問題なく立ち上がることができた。ベッドのカーテンを閉めて、ベッドに置いてあった自分の服に着替える。病衣を脱ぐと、包帯が巻かれていたが無理に体を捻らずに着替え終わるとカーテンを開いた。

 すると近くにいた悠鳥が、いつの間にか三本の刀を持って立っていた。二本を渡されて、太刀と小太刀を刀ベルトで固定する龍へ悠鳥は真剣な顔をして言った。

「魔法を使いすぎるでないぞ」

「どうして?」

 二本の刀を固定すると、悠鳥へと尋ねた。魔法が使えるかはわからないが、今回使わないという選択肢はないだろう。ただでさえ戦ったとしても勝てる自信がないのに、魔法を使わないとなると絶対に勝てないだろう。だから、無理してでも魔法は使おうと考えていた。

「魔法を使いすぎて魔力がなくなると、死んでしまう。魔力は命そのものなのじゃ」

「そうか、わかった。使いすぎないように注意する」

 そう言って、大太刀へと手を伸ばして止めた。持って行くのがいいだろうとは思ったが、伸ばしていた手は大太刀の柄を握ることなく下された。

「……持って行かぬのじゃな」

「ああ。きっと、俺はまたそいつを手放してどこかに置いてくるだろう。だから、今回はエリス達とここで待っていてもらうことにする」

 龍の言葉を聞いたからなのか、大太刀が脈打ったように悠鳥は感じた。まるで、行きたいが我慢しているように感じられ、思わず笑みが浮かんだ。

 大太刀を見つめて笑う悠鳥に龍は首を傾げた。何か笑うようなことを言ったのかと疑問に思ったが、思い当たるようなことは何も言っていない。

「其方と共に行きたいが、我慢して待っておるそうじゃ」

「そうか。……それじゃあ、エリス……行ってくる」

 刀に意思があるのかと問いかけたくはなったが、元々は『黒龍』の一部だったのだ。長い間『黒龍』と一緒にいたのだから、意思があってもおかしくはないだろうと思った。龍がエリスを見て言うと、黙ったままアレースを見つめるエリスはやはり何も言わない。このまま待っていても何も言わないだろうと思っていた龍は、ゆっくりと歩き出した。眠るアレースの足元を通り廊下へ出る時、龍の耳に小さな声が聞こえた。

 それは、エリスの龍の名前を呼んだ声だった。声が聞こえた龍は立ち止まると、エリスの方へと振り返った。エリスは龍を見ずに、アレースを見ていた。

「……戻ってきて。絶対、生きて私達のところに戻ってきて」

 そう言って顔を上げたエリスの両手は、強く握られ膝の上に置かれていた。エリスは本当は止めたいのだろう。自分が戦力になる者として龍を呼んだが、1人では送り出したくはないのだろう。龍はエリスの様子を見て、頷くと病室から出て行った。向かう場所は城だ。そこにスカジはいるだろうと考えたのだ。

 病院内は走ることをせずに歩き、出口へと向かう。外へと続く扉がどこにあるのかは知らなかったが、僅かに焦げ臭い匂いがする方向へと歩いた。すると、そこには扉があった。ガラスの扉の先は暗く、明かりがなかった。扉の僅かな隙間から、風と共に匂いが漂う。

 その匂いによって、街が未だに燃えていることがわかる。龍はゆっくりと扉を押して外へと出た。数歩だけ歩み、振り返って病院を見上げると窓から悠鳥が龍を見ていた。窓を開けることなく、悠鳥はある方向を指差した。

 病院からどのように進めばいいのかわからなかった龍は、悠鳥が指差す方向へと歩き出した。龍がどこへ向かえばいいのかわからなかった時のために病室から出てきていた悠鳥は、歩き出した龍の姿が見えなくなるまで黙って龍を見ていた。その手には、龍の大太刀が握られており、それは力強く握られていた。悠鳥が指差した方向には、燃え盛る建物に囲まれた城が建っていた。未だに城も燃えていたが、はっきりとその形を確認することができた。








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