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青天39

司と蓮が赤い雲に到着する直前、二人の少年と出くわした。

その二人はこちらの存在に気付くと、驚いて声を出した。


「あれ?幸ちゃん……どうしてここに?」

「司こそ」

「てめぇ柳‼なんでこんなところにいやがる‼」

「うるせぇ……」


互いが互いの登場に予想外と思っていると、近くで閃光が迸る。

互いにこの状況でなれ合っているつもりはないと感じ取った四人は、全員が同じ方向に向いて走り出した。


「今は立ち止まっている場合ではないようだ」

「そうね。早く加勢に行かないと……」

「今は休戦協定しといてやる」

「最初からそうしてくれ……」


司と藤宮がお互いの顔を見やる。

蓮と上野は若干の綻びはあれど、状況を理解していったん休むことにする。


呆れ返って蓮は上野を見ると、その体には数々の傷が纏わり付いていた。

恐らくここに来るまでに相当の雷雲を撃墜してきたのだろう。


心中を察した蓮は息を吐いて力を抜いた。

ここに来て余計な力は不要だ。


力を抜くことで視野を広く保ち、集中力を回復するに至る。

蓮は自身の体の仕組みを分析していたからこそ行った。


こうすることで錯覚でも起きたかのように復帰する。

雷雲によって失われていた物が戻ってくるようだ。


赤い雲の戦闘に十分な体力すら回復させて、蓮は四肢に力を入れる。

ここから先は多分無事でいられるかすら分からない。


「蓮君大丈夫?」


集中している蓮の元に司が駆け寄ってきた。

蓮の深刻な表情を見て話しかけてきたらしい。


「ああ…大丈夫だ」


蓮は冷静を装う。

言葉で自分に言い聞かせるこのような口調で言った。


これでいい。

嘘でも憑かなければ飲み込まれそうだ。


自分は恐らくここにいるメンバーの中でダントツに—―――拙い。

経験が浅い自分には荷が重い。


そう心の底から込み上げてくる言い訳を飲み込んで、


「赤い雲は俺が倒す……」


そうポツリと呟いた言葉を聞いていた司が、ふと笑った。


「なんだよ?」


あまりに不審な司の笑いに蓮は不思議な顔をして不貞腐れていた。


「ふふっ……ごめんなさい。だって蓮君強がってるのバレバレ」

「なッ……‼」


ばれていたことにみるみるうちに顔が赤くなっていく。

まるで、かつての赤い雲のように真っ赤に染まり。


更に司ははにかんだ。


「……」


その様子をそばで見ていた藤宮は、何とも胸が居た堪れない気持ちになり不思議な感覚に襲われた。


「ちっ……」


同じく隣で見ていた上野は心底気に入らなそうに一つ舌打ちをして見せた。

それぞれが時間を通過して走っていると、ようやく目の前にお目当てのモノが現れた。


「「「—————」」」


四人は目の前に入ってきた光景に目を奪われた。

そこには、広大に広がる敷地に佇む赤い雲と、対峙せんと相対している朝霞凛華と秋月薫の姿があった。


「はぁぁぁあああ‼」

「ふん……」


凛華が凛と鳴らし剣で切り刻めば、薫が追撃のために双剣を以て舞い踊る。

そうして凄まじい速さで削り取られていく赤い雲の装甲に四人は圧倒された。


幹部ナンバー一の朝霞凛華も然ることながら、薫も彼女に引けを劣らず華麗な動きで赤い雲の体力を削ぎ落としていった。


「薫……なのか?」


蓮は信じられないものを見たと言わんばかりの顔だ。

当然である。


彼は薫の戦闘をあまり拝見していなかった。

というのも、基本的に連携での戦闘の場合、ほとんどが蓮の近接主体だったからである。


故に蓮は今日初めて知った。

薫は自分の知らない戦闘スタイルがあると。


それは普段ではお目に係ることの出来ない薫の全力。

かつて朝霞凛華が来る前まで最強の情勢であった彼女の姿がそこにはあった。


薫は双剣を手に体を回転させ赤い雲の一部を削ぎ落していく。

削ぎ落された一部は泡となって空へと消えていく。


維持を保てなくなった雲は空気に霧散して消えていくだけ。

その儚くも美しい情景に四人は時の流れを遅延させられる。


ゆっくりと視界から消えていく雲に目を奪われては新しい雲が消えていく。

幾度にも重なったリピートが終ぞ耐えることなく、二人の少女によって再現されていた。


凛華が攻撃を加えるときは、薫は邪魔にならないように間合いから離れて攻撃に備える。

逆に薫が攻撃するときは双剣によって分断された雲の一部を凛華が剣で裂いていく。


そうして見事な連携が目の前で繰り返されていく状況で、蓮は入る余地がないと実感した。

他の男子二人も動こうにも高次元の戦闘内容に目を奪われて動けないでいた。


圧倒。

それこそこの光景にふさわしい言葉と言えるだろう。


それほどにレベルの高い攻防が繰り広げられていく中――――

一人司だけは嬉しそうな瞳で薫を見つめた。


(薫……)


今の薫は心の底から戦闘を楽しんでいるようにも見えた。

怯えていた彼女はもうどこにもいない。


今の彼女はかつての栄光を取り戻したあの頃の彼女だ。

司は知っている。


最強を証明した彼女の戦闘を。

誰よりも強く誰よりも弱かった彼女が、そこにはいた。


目覚めさせてくれたのは恐らく彼女朝霞凛華あってのことなのだろう。

司は戦闘を行っている薫を見つめ、自分も先頭に参加することを決意する。


二人の激しい動きに邪魔を入れないようにしっかりと観察する。

タイミングを見計らって弓矢を携える。


「司?」


徐に弓矢を構えた司に藤宮が声を上げるが、彼女はそれこそ見ているこっちが恐ろしくなるくらいの凄まじい集中力を見せた。


「違う……今じゃない。よく見て集中すれば……」


司の聞き取りづらい声を。

それでも耳に届いた僅かな声に藤宮は全身に刺激が走った。


この戦闘を見ても尚、彼女は戦闘に参加しようとしているという事実に。

ゾッと寒気のような悪寒と共に、藤宮はひどく自分を嫌悪した。


彼女はこうして動いたというのに自分はどうだ?

微塵も動かないどころか武器すら握っていない始末。


呆れる。

これで男子最強あっては他のメンツに申し訳ない。


生唾を飲み込んで彼女が行動に至るのを黙って見据え、藤宮も自分のやるべきことを確認する。

武器を構えて集中する。


巨大な大剣は今の彼女らにとって邪魔以外の何物でもないだろう。

しかし、体を動かさなければ。


何かしなければと思い、その意思が体を動かした。

邪魔にならないようにそれでも戦闘に参加するためにありったけの集中力を発揮する。


今までの比にならないくらいの集中力だ。

はっきりと彼女らの動きが鮮明に目に映り込んできて思わず笑ってしまった。


女性に教わるとは僕もまだまだだなと一人反省に浸っていると、戦況が動いた。

平静を保っていた赤い雲もさすがに二人の最強に追随されては次第に綻びるのも必然。


雄たけびを挙げて怯んだ赤い雲に、


「待っていたよ」


待ちに待っていたと、潤は不敵に笑って言った。

その瞬間、その場にいた西園寺と紫咲に寒気が襲った。


「「—————ッ」」


それは赤い雲から発せられたものではない。

されは潤が笑った瞬間に起こったのだ。


彼女らは感じたのだ。

潤が放った殺気を。


僅かだがそれが放たれた瞬間――――二人の体を恐怖が支配していく。

この人は一体何者だと紫咲は怪訝な瞳で睨み、再来だと豪語する西園寺は恐怖に瞳を震わせた。


「さて――――」


一呼吸置いた潤は、スコープから見える赤い雲の崩れた現状に、引き金を引いて答えた。

一発の弾丸————されど、その一発が赤い雲に被弾したのを全員が視認した時、赤い雲の固く守っていた璧が瓦解していくのを全員が確認した。


長く伸びた彗星のような弾丸が被弾し、崩れた赤い雲をまじかで見ていた凛華と薫は驚きで埋め尽くされる。


自分達の戦闘に介入したのにも関わらず、邪魔にならず尚且つ的確に赤い雲を弱体に追い込む人間など二人は一人しか知らなかった。


あの人しかいないと。

狙撃の名手で二人より実力のある者。


薫と凛華は狙撃が行われたであろう場所を見つめる。

その場所には三つの光るものがあった。


二人は同時に笑って再び戦闘に戻った。


「何ですって……‼」


紫咲は信じられないものを見る瞳で潤を見た。

潤の芸当に未だ信じられない。


一瞬しか開けなかった射線に、ぴたりと針の糸を挿すように精密に撃って見せたのだ。

これは紫咲でも出来ない。


「これが元幹部ナンバー十の力なの……」


やはり驚愕するしかなくて、だが紫咲はある疑問が頭に過ぎった。

ならばなぜ――――


「なぜこれほどの力があって幹部ナンバーの座を捨てたの……?」


そう。

この力で幹部ナンバーの座を捨てるなど、ありえない。


ましてや御手洗指揮官がそれを許さないだろう。

これほどの戦力をみすみす手放した御手洗指揮官の動向が気になった。


「捨てたは……少し違うかな?」

「違う?」

「預けたんだよ。未来の幹部ナンバー候補達にね」

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