第十三章 焦燥
「危ない‼」
注意したものの司の声が届くよりも前に雷雲の攻撃が地へと降り立った。
地面を抉り取って裂く威力の雷撃に、隊員達は恐れを為して逃げ惑う。
『うぁぁぁあああああ‼』
『こっち来るな‼』
『そっちは危ないわ‼逃げて‼』
それぞれの声が飛び交う中、司は一人雷雲を撃ち落としていった。
落ちてくる雷雲を帯電ブレードで防ぎつつ退路を開いていく。
幸いここは人も少ないため、すぐに退避出来た。
一つの雷鳴が轟くとき、雷光が迸り瞬停が起こる。
光が閃光のように輝けば、司は最速の読みを持って廻るめく雷撃を防ぎきっていく。
帯電ブレードで防いだのだが。
気付けばいくつかの集合体となった雷雲が巨大な塊となっていく。
すぐさま司は帯電ブレードで防げないと分かった。
そして、背中から取り出した小さな三角の筒を天高く放り投げた。
砲撃の準備が整った雷雲が最大電圧で司に襲い掛かった。
迸る電撃がジグザグに稲妻を帯びて襲い来る。
その衝撃に備えていた司だったが、天高く放った三角の筒が彼女の頭上近くに落ちてくる。
次の瞬間、雷撃は吸い込まれる形で三角の筒へと飛来した。
吸い込まれた雷撃は、下へと水面直下で落ちていく。
まるで地面へと吸い込まれるように落ちていった。
それは帯電ブレードよりも性能の良い雷撃を封殺する代物ーーーー今度は正真正銘の避雷針で雷を防いだ。
「はぁあ‼︎」
司は雷雲を弓矢で撃ち落として破壊していく。
星々の源がない以上、全てを打ち消すように破壊するしか方法がない。
三連撃の弓矢で素早く撃っていく。
最速の手捌きで引く矢を撃ち放っていく。
跡形も無く消えていく雷雲から視線を切った司は、目を凝らして見る。
その先には、赤く染まった雲など見る形もなかった。
「まさか赤い雲が黒くなるなんて・・・予定よりも早くなったわね」
司は知っていた。
赤い雲は元々赤い状態でしか見られていなかったからこそ、その名が付いたということに。
赤い雲が黒く染まったということは、赤い雲が怒ったということ。
それは非常にマズイ事になった。
司は連続して撃つ手を早めていく。
追撃なる一手を司は神速の技で追随していった。
連撃の速度が雷雲を飽和し破壊し尽くす。
神業と呼んでもいいその技量に、魅了されるのも一瞬のうちに司は別の場所へと移動し雷雲を討ち払わんとする。
司は忙しく駆けていき仲間との合流を図ろうとした。
目を左右に振って誰かいないか探す。
誰でもいいからいないのか。
探していると、鬱蒼と生い茂る草木の中に物音がして警戒態勢に入る。
腰を低くしていつでも動ける体勢でいると、
「うん?司じゃねーか?どうした?こんなところで」
その木陰から出てきた少年の声に司は歓喜の瞳で見つめた。
「蓮君‼︎良かった〜。無事だったのね‼︎」
木陰から出てきた蓮に司は近付いた。
蓮はキョトンとした顔で司が駆け寄ってくる姿を見つめる。
彼女は何故か嬉しそうにしている理由を連は知らない。
そうして蓮の元にやってきた司は蓮に言う。
「蓮君‼︎今の状況分かってる?」
「まぁ、大体な。赤い雲が黒くなったんだろ?」
蓮は状況の把握が出来ているようだ。
それを聞いて司は安堵する。
なら、二人がやるべきことは決まっている。
「今すぐにでも向かうわよ‼︎」
司が指示を出すと、その提案をすんなり受けた蓮は頷いた。
二人はその場から逃げるように去って、赤い雲がいる場所へと駆けていく。
現状からして二人に場所からそう遠くないところに赤い雲がいることが分かった。
何故なら二人のいる位置から既に赤い雲が見えていた。
あまりに巨大だから距離感覚が混乱しそうになるが、二人はまだスタミナが残っていた。
故に二人は駆ける足が早くなる。
誰かが戦闘を行なっているのか。
近くでは赤い雲の凄まじい雷撃がここまで襲ってきた。
暴風が吹き荒れ、木々の揺れが大きくなる。
鳴り響く戦闘音に耳を傾け、目をやる。
黒く染まった赤い雲が猛威を振るう中、誰かが対峙している姿が黙認出来た。
二人は訝しげにその様子を見守っている。
出来ることならば自分達が駆けつけるまで持ちこたえて欲しいところだが・・・
二人の前には雷雲が幾つにも立ち込めていた。
これでは足止めを食らってしまう。
考えている暇はない。
二人は思考を停止して反射的に手が動いていた。
速撃の手際で二人はあっという間に雷雲を破壊していった。
まさに匠の技が成された瞬間。
伊達に幾重の困難を乗り越えていない二人である。
薙ぎ倒していく二人を援護するかのように、飛んでくる弾丸が雷雲を壊していき、風通しのいい道が目の前に出来た。
一体誰が。
そう考えるのも億劫になりつつ、感謝の念を述べて辿り着くーーーー。
吹き付ける風がやんわりと穏やかになっていく頃。
風を読んでいた潤が、呆然と立っている少女達に声をかける。
「君達はそんなところで呆然としてていいのかい?」
潤に何もしないでいるのか?
問われて正気を取り戻した西園寺がハッとして言った。
「言われなくとも加勢しますわよ‼︎」
潤に言われてイラっときた西園寺が不満そうにブツブツと言葉を吐いて銃を構える。
他人に指図されるのを嫌う西園寺が不満を漏らしていると、
「ちょっと待って」
二人の様子を見ていた眼鏡を外した状態の紫咲が潤に物申した。
「何かな?」
対して潤は涼しげな顔で標準を合わせていた。
スコープ越しに写る赤い雲擬きが戦闘繰り広げていた。
「私はあなたのことを全く知らない。実力を知らない人の命令を聞けと言うの?」
凄みのある彼女のギラついた目に潤はさしも無視する形で応じた。
「確かに君の言う通りかもしれない。ましてや僕は幹部でも無いからね。実質権利なんてものはない」
ならばと付け加えようとした瞬間、紫咲が言葉を発する前に潤が言葉を口にした。
「だけどね、君達が動かなければきっと沢山の死者が出てしまうだろうね。もう少し早ければ、もっと早くに行動していればと、そんな後悔になる前に動かねければならない場面がーーーー今なんじゃないかな?」
潤は試すようにスコープから目を離して紫咲を見つめた。
彼女は表情を変えずに視線を切って銃を携えた。
その行動で彼女が納得してくれたのだとスコープに戻した時。
一拍置いた紫咲が言った。
「別にあなたの言葉に納得したからではないと思ってください。私は今やるべき最善の手を行うまでです」
「ハハッ・・・今はそれでも良いよ。自分の為すべき事をするべきだからね」
潤は扱いずらいなと感じつつも、彼女が何をすべきかを理解してくれたことにホッとする。
無駄なことに時間を使っている場合ではない。
今は一刻すら争う状況だ。
彼女の意見も最もだと理解した上で、潤は彼女に瞳を合わせた。
真剣な彼女の瞳には確かな信念が灯っていたのを潤は見逃さなかった。
だからこそ、潤は敢えて彼女に追求をしなかった。
笑って流せば、彼女が追求してこないことは分かっていた。
これで集中出来る。
潤はスコープ越しから覗き込む赤い雲に標準を合わせてじっと耐える。
打ち所が悪ければ赤い雲を倒すことは出来ない。
それどころかより強固になる防壁に阻まれて、討伐することは困難になってしまい苦戦を強いられることになる。
それだけは避けなければならない。
じっくりと溜めてその時を待つ。
大丈夫。
僕は知っている。
僕の仲間達はきっと行動してくれると。
信じているが故に思わず頬が緩んでしまう。
その彼の姿がおかしいのに気付いた。
怪訝な表情で一度スコープから目を離すが、西園寺が必死に雷雲を撃ち落としている姿を見てもとに戻した。
元より彼が何をしようと関係はない。
先程も諭されて仕方なく彼に並ぶ形で並行的に隊列を組む。
その状態で地面に仰向けの三人は西園寺と紫咲が雷雲を撃ち落とし、潤が待機するといった状況になっている。
「全く、幹部ナンバーの私が何故このような面倒なことを……」
何やら西園寺の不満がまた爆発しそうになっている。
まぁ、気にはしない。
対して紫咲は淡々と仕事を熟してくれる。
鋭く光る眼光は確実に雷雲を討ち払っていく。
そのおかげで赤い雲へと通ずる一本の道が出来た。
二人の少女が作り出した僅かな道に。
さしも潤は満面の笑みでこの光景を覚える。
やはり幹部ナンバーとだけあって、さすがと褒めるべきだろう。
潤はその作られた道に向かって銃弾を放とうとする。
彼女達が作った道だ。
やすやす逃すまいと、引き金を引いた―――。




