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6 : 冒険者への一歩

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。

楽しんでいただけると幸いです。

評価の方もよろしくお願いいたします。

兄も姉も試験が近いということで、

学園の寮に泊っている。


なればこそ、この夕食会には、僕、父、母の三人しかいない。


兄と姉がいるところでの交渉も考えた。


しかし、兄は寡黙だからいいとしても、姉の奔放さはともすれば予測が難しい。


援護してくれることも考えたけれど、

下手につつけば撤退ラインすらも超えて、

姉と父がヒートアップすることも考えられる。


別に父と姉の中が悪いわけじゃない。

しかし、似た者同士ということもあり、家族間に収まるレベルの衝突は多々あるのだ。


和やかに進んだ夕食を終え、

お酒を片手にリラックスし始めた両親に対して、

僕は真っすぐな視線を向けた。


「お父さん、お母さん、話があります」


この国はいわゆる男親が一家の大黒柱となる文化を築いている。

しかし、同時に子供の教育や家のこととなると実権を握るのは母となる。


お金を出す決定は父がするので父の機嫌を損ねてはいけない。

しかし、母の動向にこそ注意を払おう。


母は僕に視線を投げかけえるだけだ。

代わりに父が、笑みを浮かべて口を開いた。


「どうした?」


「僕は冒険者になりたいのです」


一瞬で部屋の時間が止まったようだった。

僕が言っていることが理解できないわけではない。

いくら、生物学的に思考力が落ちるタイミングとは言え、

商家を支える商人夫婦。

夕食会やパーティーにおいて商談を成立させることもある。


では、なぜ鳩が豆鉄砲を食らったように静止したのか。

それは、僕が兄の補佐として商会に残るだろうことを予想していたからだ。


なにせ、商会の手伝いを齢(よわい)六歳にして買って出た自慢の息子なのだ。

自分で言うのもなんだけど。


それが、いきなり夢見る夢子のように冒険者になりたいと言えば、

いくらポーカーフェイスを鍛えているとはいえ、すぐに言葉が出ないのも無理はない。


駆引きには二つの方法がある。

手札を隠し相手の会心の行動をつぶす形で手札を切る守りの方法。

そして、もう一つ。

相手が準備をする間もなく、自分が持てる手をひたすらに切って、早期決着を図る攻めの方法。

もちろん細分化すればもっと増えるが、大きく分ければ二つだと僕は考えている。


例えば、ナンパで口説こうとするのなら、攻めの方が有利だし、

商談など最初から相手が慎重に臨もうと準備している場合は、守りの方が有利だろう。


さて、では今はどっちか。

正直なところ、ナンパに近い。

なにせ、相手の準備を待てば「現実的ではない」という、

親心からも論理的思考からも、どちらであっても導かれる現実的な返答がくるからだ。


ならば、次手(つぎて)。

なぜ、僕が冒険者になりたいのか、その理由を言おう。


「僕はラーロン商会の商品のため、魔獣の素材を集めたいのです。

できるのなら、新しい魔獣を見つけたりもしたいです」


日本人にありがちな、起承転結型の交渉が悪いとは思わない。

しかし、それでは相手が内容を理解するための準備の時間を与えてしまう。

だからこその、最もそれっぽい理由だ。


正直、今回僕が持てる札は基本的にはこの一本だけ。

後は今までの信用値が、僕が商会のために冒険者になりたい、と言ったことを、

成功にするのか、それとも失敗にするのか、だ。


押せそうなら押すが、無理そうならば引き下がる他あるまい。


「バン、あなたがこの商会のことを思ってくれて嬉しいわ」


母がグラスを置いて、僕に視線を合わせた。


「けどね、冒険者はとても危険な職業なの。聡明(そうめい)なあなたならわかるでしょう?」


もちろんだとも。

ただ、僕が何のために転生させられたかと言えば龍(ドラゴン)を倒すためだ。

それに、死んでも生き返るという能力も与えられている。

内実はまだ確認できてないが、それでも僕が龍を倒さずに死ぬことはたぶんないだろう。

しかし、龍を倒そうとせず、寿命をまっとうすることを神が許すかもわからない。


それに、せっかく転生したのだ。

真っ当に働いて死ぬのも悪くはないが、

前世も含めて心躍る冒険をしたいと思ったのも事実。


ここは押すところだ。

これで引いたら、その程度と見られて、次回以降の交渉にデバフがかかる。


「わかっているつもりです。ミツミ商会でのおつかいで冒険者の方とすれ違うこともありました。

彼らの中には指がかけている者。目がつぶれたり、耳が片方無い者も珍しくありませんでした」


父も母も僕の話の続きを待っている。

僕が崩してはいけないのは、あくまでも商会のためであるという建前だ。

もちろん、すべてが嘘なわけではないけれど。


「しかし、僕は兄上のように商会を背負うことも、姉上のように商会における人脈を広げることもできそうにありません」


ここはあえて下を向いて、

僅かばかりでも自分を卑下(ひげ)するように。


「でも、僕にも二人に負けないと思えることがあります」


「なんだ?」


父が興味を引かれたように目を瞬(しばた)く。

良い兆候(ちょうこう)だった。


母と僕の会話に父が割り込むというのは、

それだけ僕の引きが効いた証拠だ。


「好奇心です」


僕の勉強の進度は自分で抑えているのもあって、一般より少し早い程度だ。

しかし、僕が読書に耽っているのも、おつかいを喜んで行くのも、

二人は知っている。


「そんな僕なら、今から頑張れば、我が家、そしてラーロン商会のためになる冒険者になれると思います」


下手に理屈をこねてはいけない。

それでは、六歳らしくないから。


しかし、荒唐無稽(もうげん)な話をするのもいけない。

それでは、幼子の妄言になるのだから。


さぁっ、どうだ。


「私は賛成だ」


父の清い一票が入った。


後は母次第。


母はグラスに残ったワインを飲み干し、コトリと机の上に置いた。


「あなた、本気で言っているのかしら」


怒った様子はない。

しかし、言葉には棘が含まれていた。


「ああ、本気だとも」


父はいつもの外行(そとゆき)の笑みをやめて、母へと向き合う。


「今までのバンの様子を見ていれば、嘘は言っていないとわかる。それに決意は固そうだぞ」


父は少しいたずらっ子のような笑みを母に向けた。


そういえば、とイトスに聞いた話を思い出す。

父はラーロン商会の御曹司(おんぞうし)であったが、

母は末子とはいえ、男爵家の娘であったらしい。


家からの縁談を無視して商人になりたいのだと国を飛び出した。

そう聞いたときは、あの母がと驚いたものだけど、

父の今の様子を見る限り本当なのかもしれない。


つまりは、お前の息子だぞ、と。

そういえば、姉もだけれど、兄もあれでいて、結構我が強い。


「一人で無茶をして危険な目に合うよりは、私たちが支援して少しでも生き残れる可能性を上げたほうがいい」


母は、眉間に皺(しわ)を寄せ、息を吐いたかと思うと、首を縦に振った。


「わかったわ。けれど、七歳まで待ちなさい。七歳になればギルドの講習会に参加できるわ」


僕が口を開こうとすると遮るように母は続けた。


「ただし、私たちに本気であると示す意味でもこれから毎日、この区画を走りなさい。

私たちが仕事の準備をし始める早朝から、朝の食事の時間まで。いいわね?」


有無を言わせぬその顔は母も真剣であるとわかった。


「ありがとうございます。やり遂げて見せます」


僕はそう宣言したのだった。


結果は妥協ラインから成功の間くらいだろうか。


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